第45話 聖女、庭園を散策デートする。
わたしを連れ戻そうとした使者を、ライオネルや国王様たちが完膚なきまでに追い返してくれた一件のあと。
なんとも怪しいシェンロン王国の動向は、ライオネルの部下の人たちに探ってもらうとして。
いつも通りに過ごしてほしいと言われてたわたしは、ライオネルと一緒に王宮の庭園を散策していた。
「花がいっぱい咲いてます、きれいですー」
それやもう絢爛豪華だったシェンロン王国の庭園と違って、そう広くはない庭園は――だけど葉っぱの緑と様々な色に咲き誇る花々で、いっぱいに彩られていた。
「クレアが気に入ってくれてよかったよ。クチナシやブーゲンビリア、サルスベリはちょうど今が見ごろなんだ」
ライオネルは優しく説明してくれたんだけど、
「ぶ、ぶーげぬ……? ば、ばりあ……?」
残念なことに、わたしのお花の知識はチューリップやひまわり、バラ、アジサイといったその辺の小さな子供と変わらないレベルだったため、名前が覚えられない上に、どの花のことを言ってるのかさっぱり分からなかったのだった……。
そんなアホのわたしにも、
「ブーゲンビリアはこの赤い花のことだよ」
ライオネルは特に気にする様子もなく、笑顔で優しく教えてくれる。
ううっ、ごめんねライオネル。
がんばってすこしずつお花の名前も覚えてくからね……まずはブーゲンビリア、ブーゲンビリア、ブーゲンビリア……。
よし、覚えた! ブーゲンジニア!
わたしはまたひとつ賢くなったのだった、えっへん。
そんな感じで物知りなライオネルにあれこれ教えてもらいながら、手をつないでゆったりと庭園を見てまわる。
もちろん指を絡める恋人つなぎだ。
こういうのって、ちょっとしたことなんだけどすっごく照れちゃうよね。
えへへへっ。
――と、わたしたちは2人で平和に庭園を見て回ってたんだけど、とある一角でわたしは奇妙なものを見つけたのだった。
「あれ? これってトマトですよね? 隣にはキュウリもナスもありますけど。王宮の庭園で野菜も栽培してるんですね。なんだかちょっと意外です」
何度も言うけどここは王宮の庭園なんだもん。
普通は野菜は植えないと思うんだよね。
孤児院では大切な食料としてよく庭にジャガイモを植えてたけどね。
ふっふーん、ジャガイモの栽培ならわたしに任せて!
ふかふかの土に浅く植えるのがポイントなんだ。
それでどんどん土をかぶせて山にしてくの。
そうしたら秋にはいっぱいのジャガイモが収穫できるんだから♪
「この一角はブリスタニア王家の者が代々育てることになっていてね。今は主に父が管理していて、ボクも手が空いてる時はよく手伝っているんだ」
「えっと、そうなんですね……?」
わたしはイマイチよくわからなくて、あいまいにうなずいた。
なぜに一国の王さまが、王宮の庭園で野菜の栽培をしなければならないんだろうか?
これも筋トレと一緒で王さまの趣味なのかな?
「これは開祖である初代国王から連綿と受け継がれてきた、ブリスタニア王家の伝統なんだ。民の気持ちを知るにはまず民と同じことをなすべし、って考え方なんだよ」
「ふぇ~。それで野菜を作ってるんですね。ふんふん、納得です」
わたしはやっと合点がいった。
『民の気持ちを知るにはまず民と同じことをなすべし』
うんうん、いい言葉だねぇ。
「今年は本当に大変だったよ。長雨で何度も枯れそうになってさ。だからそういう意味でも、水龍さまの神通力を取り戻してくれたクレアには感謝してるんだ」
心底実感のこもったしみじみとした口調でつぶやいたライオネル。
長雨の中での野菜の栽培は、本当に大変だったんだろうなぁ。
「あはは……、まさかライオネルから自家農園の野菜の栽培について感謝をされるとは思いもよりませんでした」
「これからもなにとぞ、よろしくお願いいたします、『水龍の巫女』クレア様」
ライオネルが最後にちょっといたずらっぽく言った。
散策を楽しんだわたしは、午後は『水龍の巫女』として水龍さまに会いに行った。
今回のことを水龍さまにも報告するのと。
あと今日覚えたブーゲンジニアってお花のことを、教えてあげるんだー(*'▽')パアッ




