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第40話 使者来訪(上)

 とある平日。


 今日も今日とて、水龍さまと他愛のないお話をしただけで巫女としての仕事を終えたわたしのところに、ライオネルが固い表情でやってきた。


「クレア、疲れているところ申し訳ないんだけど、今すぐ謁見(えっけん)の間に来てもらえないだろうか?」


「わたしですか? 構いませんけどなにかあったんですか?」


「実はシェンロン王国から使者が来たんだ」


「シェンロン王国から? それまたどうしてでしょうか?」


 さっぱり話が見えないわたしは、きょとんとした顔で首をかしげた。


「それがクレアをシェンロンに連れ戻したいと、そう言ってきてるんだ」


「ふぇ?」


 わたしを?

 シェンロンに?

 連れ戻す?


 ……なんで?


 っていうか、わたし別に帰らなくてもいいんだけど……。

 今のほうがすごく幸せだし。


「とにかく一緒に来てくれないかな。ああ大丈夫、君はもうボクの婚約者、つまりブリスタニア王族の一員だ。絶対に悪いようにはしないから。そこだけは安心して」


 そう言われたわたしは、


「分かりました」


 ライオネルに連れられて急いで謁見の間へと向かった。




 謁見の間につくと既に王さまが威風堂々と王座に座っていて、その前にはシェンロン王国からやってきた使者がいた。


 使者は2人いる。


 一人は見知らぬ男で多分だけど下級貴族だ。


 もう一人は見知った顔だった。


 それはわたしがいきなりリストラされた時にバーバラの隣にいた、わたしを追放した上級貴族の男(名前は知らないので、これからは「追放ヤロウ」と呼ぼう)だった。


 こんな上級貴族が、わざわざわたしなんかを呼ぶためだけに使者に来るなんてことはありえない。


 つまり追放ヤロウはバーバラにいいところでも見せようと思って、本来の使者と一緒に乗り込んできたに違いない。


 やってきたわたしを見て、見くだしたように鼻で笑った追放ヤロウ。

 その顔を見て悔しさは――うん、不思議とちっともなかったんだ。


 きっと今がすごく幸せだから、悔しさなんてどうでもいい気持ちは感じないんじゃないかな?


 そして追放ヤロウはわたしに、


「クレアの国外追放を取り消す。またこれまでと同条件で『神龍の巫女』として再雇用するものとする。ただちにシェンロン王国に帰国し、巫女としての業務にあたられよ」


 そんなことを言ってきたのだ。


 もちろんわたしの答えは決まってる。

 悩むまでもない。


「申し訳ありませんが、お断りします」


「そうか。では今すぐにでも帰国を――は? 断るだと?」

「はい。それがなにか?」


 わたしが澄まし顔でしれっと答えると、


「なにをバカなことを言っている。これは俺の婚約者で4大貴族ブラスター家ご令嬢でもあるバーバラの命令だぞ。それをお前ごとき庶民が断れるものか。くだらんことを言ってないで、いいからさっさとシェンロンに帰るのだ」


 追放ヤロウはわたしに詰め寄ってきて手を掴んでこようとする。


 だがしかし!


「王たる余の前で何を勝手なことをしておる、この無礼者めが――控えよっ!」


 王さまが怒りに満ち満ちた声で追放ヤロウを一喝したのだ!


 そのあまりの怒声に追放ヤロウは震えあがって、すぐにわたしから離れていった。


 気持ちはわからなくもない。

 今のはほんと怖かったから。


 関係ないわたしまで、思わずちびりそうになるくらいに怖かったから。


 それでも追放ヤロウは平静を装いながら王様に進言する。


「お、畏れながらブリスタニア王に申し上げます。これは我がシェンロン王国内部の話でありますゆえ、どうかブリスタニア王にもご理解をいただきたく――」


「ならぬ」


「それはつまり、ブリスタニア王国は我がシェンロン王国の内政に不当に干渉をなさると言うおつもりですか? であればその旨を私は、本国に伝えることになりますが? 我がシェンロン王国は貴国の不当な内政干渉を指をくわえて見てはおりませんぞ?」


 武力行使までにじませながら言いすがる追放ヤロウに、しかし王さまは言った。


「まぁそう(はや)るでない使者殿よ。そもそもそなたはひどく考え違いをしておるからの。まずはそれを正そうではないか」


「と、おっしゃいますと?」


「そこにおるクレア殿は余の息子ライオネルと婚約をしておる。よって既にその身は、ブリスタニア王族の一員である」


「……は? な、なにをお(たわむ)れをおっしゃっているのやら。その庶民が王族などと――」


 王さまのその言葉に、追放ヤロウがキツネにつままれたような困惑の表情を浮かべた。


お読みいただきありがとうございます。

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