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第38話 聖女、孤児院に行く。(上)

 わたしとライオネルは、王宮が支援している孤児院の1つに視察にやってきていた。


「王族の皆さんってこういう支援活動もしてるんですね。ぜんぜん知りませんでした」


「子供は国の宝だからね。もちろんこれで完璧とはとても言えはしないけれど。それでも普通の家庭になるべく近づけるように、主に金銭面で支援しているというわけさ」


「ブリスタニアはすごいです」


 同じ孤児院でも、シェンロン王国ではそういう支援活動はほとんどなかったもん。


 子供は縫物の内職したり、畑にお芋を植えたり、募金箱をもって街角に立つのが当たり前だったから。


 それでもわたしが最低限の読み書きを覚えられたのは、シスターさんたちが必死に努力とやりくりをして、空いたわずかな時間に教えてくれたおかげだった。


「シスターさんたち元気にしてるかなぁ……ブリスタニアで王子さまと婚約したって伝えたら、きっと喜んでくれるだろうなぁ……」



 ◆


 視察はおおむね順調に進んでいった。


 子供たちの合唱を聞いたり一緒にご飯を食べたり、今ある問題点を現場の目線で説明してもらったり。


 そうしてつつがなく視察は終わろうとしてたんだけど――わたしには1人、気になる子がいたんだ。


 他の子どもたちがわたしやライオネルに挨拶をしても、その子だけはそっぽを向いて知らんぷり。


 歌をうたう時もいかにも仕方なしって感じで口パクをしていた。


「すみません院長先生、あの少年のことを少々お聞きしたいのですが――」


 わたしが尋ねると、


「も、申し訳ありませんクレア様! あの子は普段はとても心優しい子なのですが、その、何と申しますか、特定の相手にだけはああやって(かたく)なにコミュニケーションをとろうとしませんで……」


 孤児院の院長先生は血相を変えて平謝りをしてきた。


「そうなんですね……ふむ」


「ライオネル殿下、クレア様。ご無礼まことに申し訳ありません。全て私の不徳の致すところ、どうかお二人にはご寛容の心を賜りたく、なにとぞお願い申し上げます」


「ははっ、気にすることはないよ。なにぶん多感な時期だからね。思うところもあるんだろう」

 ライオネルはいつものように特に気にしてはいないようだった。


 わたしも無視されたこと自体は、特に気にならなかったんだけど――、


「もしかしてなんですけど、あの子は貴族やお金持ちが相手のときにこういう態度をとったりしてるんじゃないですか?」


「それはその……はい、その通りでございます」


 やっぱりそうだ。


「あの、差し支えなければ少々お話してきてもいいでしょうか?」


「いえその、あの子がクレア様に失礼なことを言ってしまい、クレア様のご気分を損ねてしまわないかと――」


「それでしたらご安心ください。小さな子供の言ったことで大人を責めたりはしませんから」


「ですがクレア様にこれ以上のご不快を与えるわけには――」


「それもぜんぜん構いません。こう見えてわたしは子供と話すのは得意なんです。それでは少し話してきますので、ライオネルと院長先生はこのまま視察を続けてくださいな」


「ええっと――」

 院長先生は困ったようにライオネルを見た。


「分かった、ここはクレアに任せるとしよう。じゃあね、クレア。頼んだよ」


 ウインクしながらそう言ったライオネルと院長先生が、再び視察に戻るのを見送ってから、わたしはその子のところに近づいていった。


 少年は部屋のすみっこで本を読んでいた。


 明らかに大人向けに書かれた何かの専門書のようだった。

 超ガチのやつ。


 わたしは多分、最初の2,3ページ読んだらチンプンカンプンで寝ちゃいそう。


 しゃがんで目線の高さをしっかり合わせてから、にっこり笑顔でわたしは語りかけた。


「ねぇ君。今日は機嫌が悪かったのかな?」

「ふん――」


 あらら。

 返事どころか本を読んだままで顔も上げてくれないや。


「お話しするのは苦手かな? お勉強するほうが好き?」

「……」


 あれまぁ。

 まったく聞く耳なしって感じだね。


 だけどね、わたしをなめちゃいけないよ?


 こう見えてわたしってば、小さい子とのコミュニケーションは慣れてるんだからね?

 なにせ孤児院にいた頃は、小さな子たちの面倒を毎日のように見てたんだから――!


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