第37話 聖女、軍事教練を見学する。
今日のわたしは、ライオネルが参加する大がかりな軍事教練を見学に来ていた。
「『総演習』と呼ばれる年に一度の軍事教練でね。『救国の聖女』クレアが見に来てくれれば、兵士たちの士気も上がると思うんだ。もし時間があれば少しでいいから顔を出してはもらえないかな?」
ちょっと前にライオネルからそう言われてたんだ。
『水龍の巫女』の仕事は、優しい水龍さまのおかげで割とフリーな感じなので、
「わかりました、その日は1日空けておきますね。と言っても、わたしが行ってお役にたてるかは分かりませんけど」
わたしは二つ返事でオッケーして、朝から見にきたというわけなのだった。
今は少し高いところに作られた観覧席で、ふむふむと観戦中だった。
ライオネルは馬に乗りながら、キビキビと指示を出して自分の部隊を指揮している。
1人だけ赤い軍服で目立ってたから、戦いのことは超ド素人のわたしでもどこにいるかはすぐに分かった。
午前中はこうやって部隊を動かして陣形を変更したり、戦術にそってみんなで動く練習なんだって。
ちなみにブリスタニア王も、現役さながらにハツラツとした様子で参加していた。
むしろ現役の将兵よりも王さまの方が気合が入ってたし、いつにも増して生き生き元気なご様子に見えたかも?
「ふへぇ……」
そしてそれをわたしはアホみたいに見つめていた。
戦いのことは本気で分からないので、なにがどうなのかはちっとも分かってないんだけれど、それでも華麗に指揮をとるライオネルがカッコイイのはわかるっていうか?
なんちゃって、てへっ。
午前と午後の間の休憩時間には、ライオネルに連れられて兵士たちの間を歩いて回った。
「みなさん、がんばってくださいね」
みたいなことを言って回っただけなんだけど、
「聖女さまが来てくれたぞ!」
「生クレア様だ!」
「実際に見るとほんと小さくてべっぴんさんだなぁ!」
「きさまら何をバカなことを言っておるか! ライオネル殿下と聖女クレア殿が、光栄にも我が小隊にお声がけくださったのだぞ! 無駄口をたたいとらんで、さっさと立って最敬礼をせんか!」
「あ、いえ、隊長さん。休憩中ですのでぜんぜん構いませんよ。どうぞそのままでリラックスしていてください。今の時間は休むのが皆さんのお仕事ですから」
「だってよ隊長ー」
「ははぁっ、お気遣いとありがたいお言葉を賜り心より感謝いたします!」
「あははは……」
隊長さんから指先までピンと伸ばしたものすごく綺麗な敬礼をされて、苦笑するわたしだった。
でも、うん。
兵士の皆さんもすごく喜んでくれたみたいだし、見にきて良かった!
午後からは個人戦闘の鍛錬が行われていた。
いろんな場所で木刀を使った1対1の戦闘訓練が行われている中、ライオネルは華麗な剣さばきで次々と相手に「参った」をさせていく。
「ふへぇ、ライオネルはずば抜けて強いんですね」
小さくつぶやいたわたしに、
「ライちゃんは“真紅の閃光”って二つ名でよばれることもある、ブリスタニア王国随一の剣の使い手なんだよ」
さっき合流したばかりのリリーナさんがそんなことを教えてくれた。
そう言えば初めて出会ったときも、凄腕の傭兵たちですら苦戦するキングウルフの群れを相手に、次々と斬って捨ててたっけ。
ちなみにリリーナさんは貴族たちの法律である貴族法の専門家で、今日の午前中はどうしても譲れない2人の貴族のもめ事を、貴族法を使ってうまいこと調停してきたんだって。
普段のおっとりした優しいリリーナさんからは、そんな姿は想像もできないよね。
心の底からすごいなぁと思うし、「できる女」の姿に憧れたりもするわたしだった。
そうして何ごともなく、今日と言う日も平和に過ぎていったのだった。




