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第36話 聖女の石像が立ってしまう。

 ライオネルがお休みの日に、わたしは一緒に街に遊びにやってきた。


 街で食べ歩きをしたり観光案内をしてもらっていたんだけど、何かをやりだすとすぐにわたしたちは人々に囲まれてしまうことになった。


「見て見て! 『救国の聖女』クレア様よ!」

「第3王子のライオネル様も一緒だわ!」


「2人は婚約したんですって!」

「王子と聖女、ビッグカップルの誕生ね!」


「知ってる? クレア様はあの神龍国家シェンロンで『神龍の巫女』をしていたんだって!」

「だから水龍さまとも、すぐにお話できたのね!」


「ねぇクレア様、こっち向いてくださいな!」

「へっへーん、私なんか目があっちゃったもんね!」

「うわっ、あんただけずるい! クレア様ー!」


「小さくてすっごく可愛いよね! 私もあんな妹欲しいなぁ」

「うんうん、国民の妹って感じ! ライオネル様とはお似合いよね」


 それはもう行く先々で事あるごとに人々に囲まれてしまうのだ――!



【CASE.1】


「クレア様、娘に握手していただけませんか?」


「は、はい。えっとお嬢ちゃん、ちゃんとお母さんの言うこと聞くんだよ」

「はーい!」


「わたしもわたしも! 握手してください!」

「えっとあの、じゃあ順番で――」


 即席の握手会がはじまったり。



【CASE.2】


「近々子供が生まれるのですが、もし女の子なら聖女さまにあやかってクレアと名付けても、よろしいでしょうか?」


「ええはい、もちろんそれは構いませんけど……そもそも割とよくある名前ですし」


 割とよくあると言うか、「透明」とか「光が当たって綺麗」とかそういう意味が語源の、女の子によく付けられる名前だ。


「それじゃあうちも女の子ならクレアにさせてもらいます!」


 そんな感じで、未来の『クレアちゃん』が次々に誕生しちゃったり。



 ライオネルももちろん人気だったけど、わたしはちょっとやりすぎってくらいに人気すぎて、正直どうしようかと思ったほどだった。


「クレアは今、ブリスタニアで一番有名な人物だからね」


「そうなんですか?」


「そうだとも。知ってるかい? 吟遊詩人たちが歌う今一番の流行り歌は、聖女クレアの歌なんだよ?」


「ふええっ!?」


「仲の良かった老巫女が死んで一人ぼっちになった水龍さまの悲しみの涙は、果てることのない長雨となってブリスタニアに降りそそいでいた。しかし聖女クレアが水龍さまのために祈り踊った途端、水龍さまは泣き止み、同時に雲が切れて太陽がさしたっていうお話さ」


「ふ、ふぇぇぇ……」

 吟遊詩人に自分が歌われるなんて、まさかそんなことになってたなんて!?


 おどろきに目を丸くするわたしに、ライオネルがさらにとんでもないことを言う。


「ちなみに今通っているこの大通りは、クレア・ストリートに改称されることになったんだ」


「おふぇぇっ!?」


 わたしの名前がこんな大きな道についちゃったの!?


 さらにさらに!


「あの、ライオネル……」

「どうしたの?」


「わたしの見間違いかもしれないんですけど、あそこに立っている像なんですが……」


 わたしは少し先にある石像を指さした。

 つい最近作られたばかりと思しき真っ白な石像だ。


「ああ、聖女クレアの像だね。ブリスタニアの誇る腕利きの彫刻師が、丹精込めて彫り上げた傑作さ。街のシンボルになる予定だ」


「ふ、ふ、ぇ、ぇ、ぇ・・・・・・」


 わたしはポカーンとして、開いた口がふさがらないでいた。


「よく似てるだろう?」

「ええ、本当にそっくりです……」


 それはもう、とても良くできている石像だった。

 わたしこれからここで毎日皆さんに見られることになるんだね……。


 すでに石像を拝んでるご老人もいるし。


 でもそっくりな石像にも1点だけ、本物と大きく違うところがあって。


 明らかに胸が盛ってあった。

 かなり盛ってあった。

 詐欺かってくらいに盛ってあった。


 盛り盛りだった。


 わたしはそっと胸を抱いた。

 石像とは似ても似つかない、男子顔負けのぺったんこ平原がそこにはあった。


 彫刻士の職人さん、わたしに気を使ってくれたんだね……。


 見も知らぬ職人さんの優しい心づかいに、ほろりと涙がこぼれそうになるわたしだった。


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