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第29話 バーバラ SIDE 2 ~シェンロン~(下)

「東のセイリュウ塔が崩壊ですって!? 冗談でしょ!?」


「恐れながら本当のことにございます」


「あんたに言ってないわよ! 龍を祭る神聖な場にいつまでいるつもり? とっとと下がりなさい!」


「し、失礼しました!」


 イケメン下級貴族は慌ててバーバラの前から逃げるように走り去っていった。

 それを見やりながら、


「このっ! このっ!! あいつと同じように踊ってるのになんで神龍は分かってくれないのよ! ちゃんと『奉納の舞』を踊ってるでしょ! いい加減にしてよね! やってらんないわ!」


 バーバラは怒り心頭で神龍への舞を放っぽりだした。

 そしてそのまま『祭壇の間』を後にしようとする。


 しかし『祭壇の間』から出たバーバラを見つけた大臣たちは、またもやバーバラを取り囲んで次々と「早くどうにかしてくれ」とすがるように言ってくるのだ。


 できないとは言えなかった。

 もちろん今さらになって、実は龍の声が聞けないなんて白状するわけにはいかない。


 そんなことをしたらバーバラのメンツは丸つぶれだ。


 いや、それで済めばいい。

 事は国の根幹にかかわる超重要事項なのだ。


 『神龍の巫女』になるために嘘をついていた――などと言おうものなら4大貴族ブラスター公爵の一人娘であっても、下手をしたら国家反逆罪で死刑にされる可能性すらあった。


 最悪でも国外追放はまぬがれない。


「きょ、今日は少し体調がすぐれないの。明日からちゃんとやるから――」


 そう言ってバーバラは取り囲む大臣・貴族たちの輪を強引に突破すると、逃げるように自室に入った。


 しかしすぐに、机の上にあった花瓶に神龍の図柄があるのが見えてしまってプッツンと来てしまう。


 思わずつかんで投げ飛ばすと、花瓶は壁にあたってバァン!と大きな音をたてて割れ散った。


「ハァハァ……! くそっ! くそくそ!! どうにかしないと! どうにかしないと! どうにかしないと……!!」


 バーバラは必死に考える。

 どうしたらこのピンチを乗り超えられる?


 神龍のクソ野郎はどうもかなり怒っているようだった。


 となれば自然解消はありえない。

 『神龍災害』は長期にわたることだろう。


 のり越えるには本物の力を持った『神龍の巫女』が必要だ。

 どうにかしてすぐに本物を見つけないといけない。


「どこかに本物の『神龍の巫女』はいないかしら――?」


 ――って、いやいやいるじゃない?


 ふと、バーバラはあることに気が付いた。


「そっか、そうじゃん。あいつを――クレアを呼び戻せばいいんじゃない。なーんだ、簡単なことじゃん。あーあ、焦って損した」


 そうだ。


 新たに『神龍の巫女』を見つける必要なんてないんだ。

 クレアを呼び戻せば、それで済む話じゃないか。


 あのドンくさい庶民のことだ。


「どうせよその国ではまともな生活ができなくて、日々の生活にも困ってるでしょ?」


 慣れない土地で貧乏暮らしをするクレアの姿がすぐに脳裏に思い浮かんできて、バーバラは想像の中のクレアを小馬鹿にしたように笑った。


「あの庶民の国外追放をなかったことにしてあげて、『神龍の巫女』として出戻りさせてあげるとでも言えば、きっと泣いて喜びながらほいほいと帰ってくるに違いないわ」


 ついでに今回の件は特別に、私と一緒に解決したことにしてやってもいい。

 特別の特別に実績を半分くれてやろう。


 それなら私は無事にピンチを乗り越えられて幸せに。

 あいつも『神龍の巫女』の1人として認められて幸せに。


 Win-Winの関係になれるというわけだ。


 なんて素晴らしいアイデアなんだろうか?

 こんなナイスアイデアを思いつくなんて、やはりわたしは選ばれた人間なのだ。


「そうと決まれば話は早いわね」


 えっとたしか、あいつは去り際に東の隣国ブリスタニア王国に向かうって言ってたはずだから。


 バーバラはさっき『祭壇の間』に報告に来た子飼いの下級貴族を呼びだすと命令した。


「この前までここで働いていた『神龍の巫女』クレアを連れてきなさい! 今すぐによ! ただし大臣とかにバレないようにこっそりとね! 多分ブリスタニア王国にいるはずだから。わかった?」


「はっ、御心(みこころ)のままに!」

 走り去っていく下級貴族を見ながらバーバラは一安心した。


「さーてと。問題も無事に解決したことだし、はやく二度寝しないと。睡眠不足とストレスはお肌の大敵だもの。早く寝ないと私の美貌がたいへんなことになっちゃうわ」


 そして充分に寝て起きたら、買い物にでも行きましょう。

 すごくイライラしたからパーッと散財しないと気が済まないもの。


 たしか今年の秋には大きく増税するって父が言ってたはずだ。

 それはつまり、今までよりもたくさんお金を使っていいってことと同じだから。


 税収が増えるんだから使うお金も増えるのは当然のことだ。

 キャッシュ・フローと言うやつだ。


 私たちは生まれながらに高貴な貴族さまなのだ。

 この国のお金は高貴な私たちが使うためにあるのだから。


「うーん! そう考えるとちょっとは気分がマシになったかも?」


 バーバラは大きく伸びをすると、服を脱ぎ散らかしてベッドに潜った。


 貴族は服をたたんだりはしない。

 眠っている間にそっと使用人が片づけるものなのだ。


 安心したことですぐに睡魔が襲ってきてバーバラは眠りについた。


 しかしすやすやと眠るバーバラはまだ知らない。


 バーバラの嫌がらせで追放されたクレアが、ブリスタニア王国で『水龍の巫女』になっていたことを。


 そして救国の聖女として国民たちから慕われ、ついには第3王子ライオネルと婚約してブリスタニアの王族になっていたことなど、バーバラは(つゆ)ほども知らなかった――。


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