第30話 聖女、大人の下着を買う。
「ねぇクレアちゃん。明日は『水龍の巫女』のお仕事は休みなんでしょう? だったら一緒に買い物に行かない? おごっちゃうよ?」
巫女としてのお仕事を終えた――というよりかは簡単に舞を踊った後は水龍さまとひたすらダベってただけなんだけど――帰りにリリーナさんにそう誘われたわたしは、
「本当ですか!? ありがとうございます、ぜひご一緒させてください」
もちろん一も二もなく即答した。
「出発は、じゃあ明日の11時でいいかな?」
「それでお願いします。実はまだブリスト(王宮もあるブリスタニア王国の首都ね)の街には出たことなくて、どこに何があるか知らなかったのですごく助かります」
「おや? その反応……クレアちゃんはどこか行きたいところでもあるのかな?」
「その、新しい服を買いに行きたいなと思ってまして。ブリスタニア王国に来る時は持ち運べる最低限しか持ってこれなかったので。着まわすのもそろそろ限界だったりで……」
「ふふっ、ライちゃんの目が気になるわよね。好きな相手の前で同じ服ばっかり着てられないもんね」
「それはその、はい……」
わたしは顔を赤くしながら答えた。
ううっ、リリーナさんにはわたしの考えは全部お見通しみたいだった。
「まったくライちゃんはそういうとこは気がきかないなぁ。婚約者のクレアちゃんが一生懸命に着回しして可愛く見せようとがんばってるのに、服の一着もプレゼントしないなんて。プンスカだよね」
「あははは……でもライオネルはきっと着飾った外見よりも、わたし自身を見てくれてると思うんです」
それはもう、間違いないと思う。
ライオネルは、外見よりも性格とか誠実さとか中身を大事にする。
そういう人だから。
「いいえクレアちゃん、それとこれとは話が別なの! 女の子をエスコートする、男としての心づかいが足りてないっていう話なんだから!」
リリーナさんはそう言うとわたしの手をつかんで言った。
「決めたわ! 無頓着なライちゃんに代わって、お義姉ちゃんである私がクレアちゃんを完璧にコーディネートしてあげるから! 明日は楽しみにしててね」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
◆
翌日。
わたしはリリーナさんに連れられて、王都ブリストにあるショッピングモールにやってきた。
「わわっ、人がいっぱいです」
モールにはたくさんの専門店が立ち並び、多くの人々が行きかっている。
しかも買い物をしてるのはわたしと同じ普通の庶民なのだ。
(実は今のわたしは王族の一員になったんだけど、前と生活が変わってないので正直あまり実感はない)
これを見ただけでブリスタニア王国がとても栄えているということが、国の運営とかがさっぱりなわたしでもよーく分かった。
シェンロン王国にも同じようなショッピングモールはあったんだけど、一部のお金持ち専用で庶民はとても行くことはできなかったから。
庶民にしてはかなりもらってたわたしのお給金で、ぎりぎりってところかな?
でもブリスタニアでは、庶民でも普通にショッピングモールで買い物ができるんだ。
これってとてもすごいことだよね!
そして。
わたしの手はすでに、服やアクセサリーの入ったたくさんの紙袋を抱えていた。
「ま、とりあえずはこんなもんかな?」
リリーナさんが満足そうに言う。
「こんなに服を買ったのはじめてです。しかもほとんどおごっていただいて……」
わたしは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「いいのいいの。クレアちゃんの引っ越し祝いと、あと婚約祝いもかねて、ね」
「ありがとうございます、リリーナさん」
わたしは荷物を抱えながらぺこりと頭を下げた。
「さてと、後は下着を買ったら終わりかな?」
「下着ならさっき買いましたよ?」
特にライムグリーンのフリルのついたかわいい下着は、今からもうつけるのが楽しみなんだ~(*'▽')パアッ
「もうクレアちゃん、あれは普段用。今から買いに行くのは勝負下着よ」
「しょ、勝負下着ですか!?」
勝負下着ってあれだよね?
大人の女性が意中の男性と、濃厚接触を伴う夜のお付き合いをする時に身につけるやつだよね!?
「いつその日が来るかわからないんだから、ライちゃんを虜にするための準備をしておかないとね」
「えっと、あの、そのっ!?」
リリーナさんの言葉で、わたしはライオネルとアレコレ濃厚に接触いたしてしまっている自分を想像してしまった。
ううっ、絶対今のわたし、顔が熱した鉄みたいに赤くなってるよぉ……。
「ライちゃんは赤が好きだから、うーんそうだね、あ、例えばこれなんかいいんじゃないかな?」
そう言ってリリーナさんに渡されたのは、
「ス、スケスケですが!?」
いたるところスケスケで向こうが見えちゃう、まっ赤なブラとショーツだった。
「ライちゃんはかなり奥手だから、これくらい分かりやすく攻めたほうがいいと思うんだよね」
「あ、それは確かにそうかもです――じゃなくてですよ!? これどう見ても先っぽとか股間とか、大事なところが隠れないっぽいんですけど!? 穴が開いてるんですけど!? これじゃあ下着の意味がなくないですか!?」
「え? だってそっちの方が盛り上がるでしょ?」
「ふぇぇっ!?」
慌てふためくわたしとは対照的にリリーナさんは平然としている。
ってことは!?
もしかして大人の女性ってみんな、こんなエッチな下着をつけてるの!?
スケスケで穴が開いちゃってるの!?
わたしがなにも知らなかっただけ!?
ふえぇぇっ!?
「あ、これもいいかも」
「ふぇぇっ!? だってこれ、ほとんどヒモですよ!? 布面積が限りなくゼロに近いですよ!?」
「だってそっちの方が興奮するでしょ?」
「ふぇぇぇぇっっっ!!??」
その後もあれやこれやリリーナさんから大人の女性の何たるかを教えてもらって、アダルトな世界を知ったわたしは。
1着だけ、もの試しに1着だけ、最初の赤いスケスケ勝負下着を買ってみることにした。
でもほんと、お試しなんだからね?
これをつけたわたしを見たらライオネルはどんな反応するのかな?
貧相な身体つきのわたしでも、これを着たらライオネルは興奮してくれるのかな?
――とかあれとかこれとか、そんなのちっとも考えてないんだからねっ!
か、勘違いしないでよねっ!




