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第21話 聖女、解決する。

 翌朝。


 わたしはライオネル率いる20人ほどの探索隊と一緒に、山登りを開始した。


 大きな岩ばかりの険しい崖の続く道なき山道を、えっちらおっちら登っていく。


「クレア、疲れたら言ってね。ボクがおぶっていくから」

 ライオネルが気を使って優しい言葉をかけてくれる。


「今のところぜんぜん平気です。運動は人並みですが、体力には結構自信がありますので!」

 わたしはそれに元気よく答えた。


「そうなのかい?」


「はい、なにせ『神龍の巫女』をしていた時は5時間ぶっ続けで『奉納の舞』を踊ったこともありますし」


「5時間……そ、それは……大変だったね」

 わたしの言葉にライオネルの顔が一瞬引きつった。


 でも、うん。

 あの時は本当に大変だったなぁ……。


 お父さんに怒られてお小遣いを減らされたとかで機嫌がすこぶる悪かったバーバラが、よりにもよって神龍さまの祭壇に当たり散らしてぐちゃぐちゃにしちゃったんだ。


 当然神龍さまはプッチンとブチ切れて、その直後からシェンロン王宮は雨あられというカミナリに見舞われたのだ。


 シェンロン王宮の四方にあった尖塔の一つ、南のスザク塔は何本ものカミナリが次々と直撃してまたたく間に焼け落ちてしまった。


 あの時はほんと神龍さまをなだめすかすのに大変だったよ……。


 ただこの一件はバーバラの力で『神龍災害』じゃなかったことになっていた。


 原因を追及されるのを恐れたバーバラが、お父さんのブラスター公爵の権力を使ってもみ消したからだ。


 あの時みたいにバーバラが適当やって神龍さまを怒らせてないといいけど……。


 まぁわたしにはもう関係ないことだけどね。

 今のわたしはここブリスタニアで水龍さまに仕える『水龍の巫女』なんだから。


 わたしは遠いシェンロン王国から目の前のライオネルへと意識を戻した。


「それにわたしの荷物はお供の方に持ってもらってますし。一番楽してるわたしが泣き言なんて言ってられません」


「わかった。でも無理だけはしないでくれよ?」


「はい! 疲れた時は遠慮なくライオネルにおんぶしてもらいます」



 ◆


 そのまましばらく登っていくと山の頂上が見え始めた。

 すると同時に山頂付近に小さな小川があるのが目に入った。


「あった、ビンゴだ! あれに違いない!」

 ライオネルが弾んだ声で言った。


 というのも、その小川はまさに落石によってせき止められてしまっていたからだ。


「それにしても小さな小川ですね」


 小川っていうのはそもそも小さな川のことだけど、小川の中でも特に小さいんじゃないかな。

 それは幅が30センチほどしかない細い細い小川だったから。


「川と言うより水の流れ道と言った方がいいかもしれないね」


「ここが最後まで後回しになっていたのにも納得ですね」


 正直これはちょっと川とは言いづらい。

 どれくらいの大きさの川なのか、水龍さまにちゃんと聞いておかかなかったのは失敗だったなぁ……。


 反省反省。


「それにしてもたったこれだけのことで、偉大なる水龍さまの神通力が暴走してしまうなんて……」


 ライオネルが不思議そうに言ったので、わたしは専門家として説明してあげることにした。


「石の大きさ、形状、重さ、流れをせき止めた場所――そういった要素が何百億、何千億分の一でピタリと最悪の状況にハマってしまったんだと思います」


「ふむ……つまりものすごい偶然が重なってしまったってことかい?」

「はい、そういうことです」


「それなら納得だ。そしてそれはある意味、不幸中の幸いだね。つまり今後同じようなことはまず起こらないってことだから」


「何千年か後に、もしかしたらすごい偶然で起こってしまうかも――くらいでしょうか?」


「よし、疑問も解けたことだしさっそくこの岩をどけるとしよう」


 ライオネルが岩を持ち上げると、せき止められていた水が再び流れ始める。

 透きとおるような綺麗な水だった。


 そしてその直後、劇的な変化が起こったんだ――!


「ライオネル様、ご覧ください! 雨雲がどんどんと薄れてゆきますぞ!」

 お供の一人が空を見上げて指さした。


「青空だ! 青空が見える! 向こうには虹も見えるぞ!」

 さらに別のお供の人が喜びにあふれた声でそれに続く。


 その言葉の通り、見渡す限りを覆っていた分厚い灰色の雲が嘘のように薄くなっていったんだ――!


 そして雲の隙間からは次々と太陽の光が差しはじめた!


「やりましたね!」

 わたしはとっても喜んで。


「ああ、やったな!」

 ライオネルも子供みたいに目を輝かせて喜んでいた。


 そしてライオネルは喜びいっぱいのままでわたしに抱きついてきた。


 すごくすごく嬉しいんだろう。

 ライオネルはわたしをぎゅっぎゅっと、強く何度も何度も抱きしめてきた。


「ラ、ライオネル、その、みなさん見てますし……」

 ライオネルの腕に抱かれたわたしが顔を真っ赤にして小さな声でそう言うと、


「――っ! す、すまない、クレア! つい嬉しくて我を忘れてしまった……」

 ライオネルがバッとわたしから離れた。


「でもほんと良かったです」

 ライオネルやお供の人の喜びようを見て、わたしはとても幸せな気持ちになっていた。


 しばらくしてみんなが落ち着いてから、ライオネルが口を開いた。


「みんな、聞いてほしい! 今回の一件を解決したの、全ては水龍さまと対話し、その原因を突き止めてみせた『水龍の巫女』クレアのおかげだ! どうか聖女クレアに心からの感謝を捧げてほしい!」


 ライオネルのその言葉に、


「「「「ハハァッ!」」」」


 お供の人たちが一斉に感極まったような声と共に深々と頭を下げた。



 こうして。


 1か月以上もの間ブリスタニア王国を悩ませたいつ明けるともしれない長雨は。

 今この瞬間をもって終わりを告げたのだった。


お読みいただきありがとうございます。

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