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第七章

「とうとう、やってきたわね……」

 マリーはそうつぶやいた。

 ラナの計画が露見してから、マリーは本国への報告を行った。そして本国はアンゲルスへ宇宙に上がりグスマン落下阻止を命令。それと同時に地球連邦へも事実の公表を行い、協力を要請した。その結果、共和国と連邦の連合軍が結成された。

 しかし、連合軍に参加した連邦側の軍勢は、全体の三分の一にも満たなかった。ほとんどにラナの息がかかっており、連邦本国のコントロールを受け付けていないのだ。しかもラナに付いた者は皆精鋭で、キルレシオで計算すれば連合軍に匹敵、あるいはそれ以上にもなりえた。

 だが、負けるわけにはいかない。何の因果かグスマンの管理コロニー『アレマン』は、キリハ達にとって始まりの場所。さらにグスマンが落ちた場合、その衝撃で発生する巨大ビームの車線上に存在している。何としてもこの作戦、成功させなくてはならない。

「アレマンへの連絡は?」

 マリーは新たにオペレーターとなったアイラへ問いかける。

「民間人も含み、全員無事みたいよ。どうやら強力なハッキングによって、グスマンをコントロールしているみたい」

「わかったわ。ではこれより、資源衛星『グスマン』落下阻止作戦を実行します。作戦内容は事前に通達した通り、キュリオテテスがグスマンに接近、艦首砲によりこれを破壊します。全艦に通達。第一戦闘配備!」

 今回の作戦は、キュリオテテスが旗艦となっている。なので、マリーが作戦に参加している部隊全てに対して指揮権を持っているのだ。

「艦長、敵戦力と思われる部隊が現れたわ。艦の進行ルート上よ」

 当然といったふうでアイラが告げた。

「了解。PPを出撃させて。艦を守りつつ、ルートを切り開きます」




「……すごい。これが新型機の性能……」

 アスタは、新しく与えられていたアムブリエル・ドースの能力に心躍っていた。カマエルの様に可変機構はないものの、運動性に優れている上、バスターライフルの銃身にビーム刃を展開させての近接戦闘も、自分の今まで行ってきた戦闘スタイルと合っている。

「心配なさそうだね、アスタ」

 キリハは安堵の言葉を並べるが、ネリーナが釘を刺した。

「でも、油断するんやないで。特に今回の作戦はキュリオテテスが要。そのことを忘れるんやないで」

 その時、敵機接近の警報が鳴り響いた。

「高速で接近する機影やと? しかも、コードはアムブリエルに似とる……」

 つまりそれは、アムブリエルと同じ、盗み出したアンゲルスのPPデータを元に造られた連邦の新型、ということだ。

 新型はキリハ達の前で急停止した。その姿は、漆黒の機体に漆黒の八枚の翼。まるで、堕天使の様だった。

「ごきげんよう、皆さん。あたしのフィナーレに来ていただいて、うれしいわ」

 新型から、声がかかった。その声は、あのラナ・アズマだった。

「ラナ……。あんた、これどういうつもりよ?」

 キリハが憤りを感じさせる口調で迫ったが、ラナは調子を崩さずに答えた。

「どうもこうも、例のビデオレターで話したはずよ。ところで、返事を聞かせてもらいましょうか?」

 ビデオレターで、ラナはキリハへ協力を求めていた。だがキリハは、きっぱりと言い放った。

「断るわ」

「なぜ?」

「あんたは間違いを犯している。あんたがどんな目に会ったか詳しくは知らないけど、あんたに人を殺していいわけがない。それに、あんたはあたしも同じ目に遭ってると勝手に思い込んでいたみたいだけど、それは違うわ。あたしの育ての両親は、普通にあたしに接して、愛してくれた!」

「そう。確かに、言われてみればあたしの勝手な思い込みかもね。なら……」

 ラナは一拍置くと、殺意をむき出しにして言い放った。

「せっかくあなたを戦士にして……いろいろと計画を進めていたのに……。あなたもあたしを迫害するのなら、ここで死になさい! 行くわよ、『ルシファー』!!」

 そして、ラナは乗っているPP、ルシファーの翼を分離し、襲わせた。この翼は、呉でバアルに装備させていたヴェーヌスの完成版だ。

 このヴェーヌスは、プロトタイプでは搭載していた砲門が先端の一基だけなのに対し、側面に無数の砲門を搭載している。威力・弾幕共にかなり向上している。

「うわっ!」

「きゃあっ!」

「みんな、ウチが何とかする。それまで持ってや!」

 そう言うと、ネリーナのカマエルはジャマーと光学迷彩を発動させ、潜入状態に入った。

「一人は何かする様ね。だったら、その前に残ったのを殺ってしまいましょう」

 ラナは二機のアムブリエルに狙いを定め、ヴェーヌスを展開して集中放火した。

 それに対し、キリハはバスターライフルをガトリングモードで、アスタはビーム刃を銃身に発生させて振り回すことでヴェーヌスを破壊しようとした。だが完成版のヴェーヌスは攻撃力だけでなく機動性や反応性も向上しているため、攻撃を避けられてしまう。

 事実上、ヴェーヌスからの攻撃を避けるだけになってしまっている。

「まさか、この攻撃を避けられるとはね。しかも機体性能に助けられてるだけじゃないようね……。っ!?」

 その時、ラナは背後から何かを感じ、ルシファーの背部にマウントされているバスターソード引き抜いて防御態勢を取った。ラナの勘通り、刀身に短いナイフのような物がぶつかった。

「やっぱり、あなただったのね」

 ラナの予想通り、背後から襲ってきたのはネリーナのサリエルだった。

「背後の気配を読み取るとは、さすがやな。でも!」

 そう言い放ち、ネリーナは足のオークルタール・ブレードを出しながら蹴りをお見舞いしようとした。

「同じ手を何回もくらうと思わないでよ!」

 ラナも、ルシファーのつま先からオークルタール・ビームブレードを発生させて蹴りを入れる。両者のキックは刃の部分で一瞬鍔迫り合いになり、その直後間合いを取りあう。

「まさか、ウチのサリエルに似た装備を持っとるとは……」

「当然でしょ? だって、ルシファーはあなた達の機体を参考に造られてるんだもの。さて、おしゃべりはここまでよ」

 ラナはアマネセール・ビームライフルを構え、連射した。

「ほう、性能はええようやけど、簡単にウチは仕留められへんで!」

 ネリーナは射撃を回避し、反撃に転じた。

 このような攻防がしばらく続いた後、ネリーナは徐々に違和感を覚えていった。

「おかしい……。敵の攻撃頻度が減っていってる気がするんやけど……」

 いや、減っているというより、何かタイミングをはかっているような気もする。と思ったその時。

「来て、ヴェーヌス!」

 ラナがヴェーヌスを一機呼び寄せると、なんとヴェーヌスをアマネセール・ビームライフルに装着したのだ。そして、そのまま銃口をキリハ達の方へ向けた。

「あかん、あいつ!」

 間違いない。ラナは釘づけ状態になっているキリハとアスタに向かって狙撃し、トドメを刺すつもりだ。

「バイバ~イ、バカな妹とその取り巻きさん」

「させるかああああぁぁぁぁぁ!!」

 ラナが引き金を引いた直後、ネリーナがキリハ達の前へと飛び出していった。

「うぐっ……」

 放たれたビームは、ネリーナのサリエルに命中した。ビーム弾は、キリハ達の所へは届かなかった。

「ネリーナ大尉!」

「大尉、大丈夫ですか?」

 キリハとアスタが声をかけるが、状況は思わしくなかった。

「あかん……、今ので、致命傷を負ったようや……。いつ爆発しても……おかしくない……」

 生気のない声で、ネリーナが答えた。

「だったら、すぐ脱出を!」

「それも無理や……。脱出装置も、コクピットハッチも壊れとる……」

 その時、ネリーナの目にある光景が写った。二機のアムブリエルが重なり、巨大なライフルを持った天使が現れたように見えた。

 その時、ネリーナの脳裏にひらめきが走った。

「キリハ、アスタ、よう聞き……。たぶん、そのバスターライフルに、接続アダプターみたいなのがあるはずや……。それ使こうて合体するんや……。そして、『天使』を出現させてみぃ」

 最後に、ネリーナはこう付けくわえた。

「マリー……、愛しとるで……」

 そう言い終わると、サリエルはネリーナもろとも、身体中のあちこちから火を噴き出し、砕け散ってしまった。

「大尉――――っ!」

「そんな……大尉……」

〈…………〉

 言葉にこそ出していないが、ネリーナの死亡で一番こたえているのはマリーだろう。彼女は、ネリーナの恋人だったのだから。

〈なあ、艦長……〉

 アンが察してマリーに声をかけようとしたが、マリーはそれを遮った。

〈気にしなくていいわ。今の私はキュリオテテスの艦長で現作戦の最高指揮官。こんなことで職務を全うできなかったら、ネリーナに笑われるわ。スオメラさん、現在の状況は?〉

 何とか冷静を保ち、マリーはアイラへ問いかけた。

〈正直言って、遅れているわ。最高速度で突っ込んでも、間に合うかどうか……〉

〈っ……〉

 かなりまずいことになった。このままでは重大な犠牲を払ったまま、作戦失敗になる可能性が高かった。


 だが、それを打ち破る出来事が起こった。


「アスタ!」

「うん!」

 キリハとアスタは、ネリーナの最期の言葉をヒントに、接続アダプターなる物を探していた。

 すると、バスターライフル銃身の上部に、ビーム刃発生機とは違う構造物が確認されたのである。キリハ達は接続を試みた。

 すると、バスターライフルは見事に合体。二つの銃口を持つ戦略兵器へと姿を変えたのである。

 また、この合体したバスターライフルは二機のアムブリエルが支えて使用する設計になっている。アムブリエルの翼はそれぞれ片割れしかないが、こうやって密着状態で見てみると、一人の天使の様に見える。

 変化はアムブリエルのコクピット内でも確認できた。スペックデータが更新され、性能が飛躍的に向上していた。さらに、単機での運用では存在すら確認されなかった、いわば『隠し機能』も追加されていた。

「まさか、厳重にロックをかけておいたというのに、合体してしまうなんて……。でも、ルシファーだってそっちと同世代の機体。負けるわけには!」

 ラナはヴェーヌスを、合体したアムブリエルに向けて飛ばした。

「狙撃はあたしがやる。アスタは機体制御をお願い!」

「わかったわ」

 キリハは向かって来るヴェーヌスに狙いを定めた。

「今だ、そこ!」

 狙いを定めると、キリハは『ショットガンモード』でヴェーヌスを撃ち落とした。このショットガンモードは合体時に使える弾種で、広範囲に無数の弾をまき散らすことができる。そのため、たった一発放っただけで全てのヴェーヌスに光の雨を降らせることになり、ヴェーヌスは一瞬で全滅したのだ。

「今度はこっちから!」

 キリハはさらに、ルシファーへ狙いを定める。

「これで!」

 合体したバスターライフルから放たれた最大出力のビームは、比較にならないくらいの威力を持ち、ルシファーに襲いかかった。

「ちっ」

 ラナは間一髪で回避した。だが、予想外の事態が起こった。

「え? 機能不全? まさか、発生した衝撃だけで?」

 自分も開発に携わっていたのに、想像もしていなかった。周囲の衝撃波を浴びただけで、一時的に全機能がダウンし、動けなくなるとは。

「アスタ、このままグスマンに向かって」

「本当にいいの?」

「あいつにかまってる暇なんかないよ」

 それを聞いたアスタは、これ以上何か言っても無駄だろうと思い、アムブリエルをルチャドール形態に変形させ、グスマンへ向かった。

 アムブリエルのルチャドール形態は、合体したバスターライフルを機首にしている。なお、合体しないと変形できない。

 グスマンにたどり着くと、アムブリエルはPP形態に戻り、銃を構えた。

「時間がない。このまま狙撃するよ」

「私は機体制御だね。了解」

 そして、キリハは最大出力で狙撃した。強力な威力を持ったビームに貫かれたグスマンは、すぐさま瓦解を始める。

「やった?」

「まだみたい。破片が大きすぎるわ」

 すると、アスタが機体を操作し、巨大な破片の中に飛び込んだ。

「次は私の番」

 アスタはバスターライフルにビーム刃を発生させた。しかもバスターライフルは合体しているため、発生したビーム刃は天をも貫きそうな位、巨大だった。

「はああああああぁぁぁぁぁ!!」

 アスタは、巨大なバスターライフル・ソードを振り回した。巨大な小惑星の破片は、光の刃に切り刻まれ、粉々に砕け散った。

「ようやく再起動したわね。あなた達には、もっと地獄を見せてあげる」

 小惑星が粉末になった直後、ルシファーが回復し、ラナはアムブリエルに向け、ヴェーヌスを装着したままのアマネセール・ビームライフルを発射した。

『きゃっ!?』

 キリハとアスタは同時に悲鳴を上げたが、すぐにダメージを確認した。

「まずい、アスタ! メインスラスターがやられてる」

「えっ?」

 それは、もう機体を動かせないことを意味していた。

「ふふふ……。そこでしっかり見ていなさい。仲間が蹂躙される様を」

 ラナは悪魔の様な微笑を浮かべると、キュリオテテスへと向かっていた。

「どうしよう、キリハ?」

 アスタが不安そうに尋ねると、キリハは神妙な面持ちで尋ねた。

「アスタ……。機体の向き、変えられる?」

「う、うん……。方向転換用のサブスラスターは生きてるから、それくらいは……」

「だったら、ここから狙い撃てる……。アスタはどう思う?」

 アスタは質問の意図を理解して、答えた。

「どこまでも行けるよ。キリハと一緒なら」

 答えを聞いたキリハはうなずくと、アムブリエルの向きを変え、ルシファーに照準を合わせた。

〈お前ら、何をやっている!? 死にてぇのか!?〉

 その光景を見たアンから、自重を促す通信が入った。

 現在アムブリエルは、二機ともメインスラスターを破壊されている。このままルシファーを狙撃すれば、撃った時の反動で月へ墜落してしまう。

 アムブリエルは現在、姿勢制御が難しい状態だ。落ちながらの制御はできない。その状態で墜落すれば、いくら月の重力が地球の四分の一で、アムブリエルの装甲がマグネリキッド装甲だとしても、墜落時の姿勢によってはパイロットの命が危ない。

「今やらなければ、キュリオテテスが沈みます!」

「私達二人が一緒なら、心配はいりません」

 キリハ達は警告を無視し、ルシファーを照準に入れた。

『行けええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 そしてそのままトリガーを引き、最大出力のバスターライフルを放った。

「これで、あの子も終わりね。あの、バカな……」

 アマネセール・ビームライフルを構えた瞬間、ラナは後ろから来た光の柱に飲み込まれ、消滅した。

 それと同時に、キリハとアスタは、抱き合うように月へ落ちていった。




「あ、あれ……?」

 キリハは、コクピットの中で目覚めた。どうやら不時着は成功し、自分は生きているらしい。

「そうだ、アスタは?」

 キリハはアスタの様子が気になり、コクピットの外へ飛び出した。

 外に出ると、後ろにはドーム状の物体に覆われた都市がミニチュアの様に見える。どうやらここは月面都市のはずれらしい。

「キリハ!」

 すると、目の前に墜落していたアムブリエル・ドースのコクピットからアスタが出てきた。どうやら彼女も無事らしい。

「アスタ!」

 二人は走って近づき、そして抱き合った。二人で生きている喜びを分かち合った。

 しばらくすると、キリハはアスタの肩をつかみ、少し距離を置いた。キリハの表情は、真剣そのものだ。

「アスタ……。話があるの」

「話……?」

 キリハの真剣な表情を見て、アスタもただ事ではないと悟る。

「アスタ……。あたし、今まで戦争を経験して、大事な人を何人も亡くすような経験をしてきて、わかったことがあるんだ。明日があることはいいことだけど、それを当たり前に思っちゃダメだって」

 そして、意を決したようにキリハは叫んだ。

「あたし、アスタの事が好き! 付きあって!!」

 それは、いつ自分が死んで、明日が消滅してもおかしくない状況にいたからこそ言えたものだった。

 キリハはアスタが前から気になっていた。でも同性同士であるため、周囲の目を気にしていたことと、純粋に好きな人へ告白する勇気がなかったことが重なり、いつまでも告白できないでいた。

 ところが、図らずも戦争に直接参加することになってしまい、そこで数々の生き死にを見てきた。そのうち、いつまでも告白しないでいたら、絶対に悔いを残すと思うようになった。

 そしてこの時、ようやく行動に移せたのである。

「うん、こちらこそ、よろしくお願いします」

 アスタは、キリハの申し出を了承した。そして二人は、再び熱く抱きしめ合った。

 その様子を温かく見守るかのように、キュリオテテスが月の上空を飛んでいた。


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