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第六章

〈間もなく目標地点へ到着する。なお、先の会議で話したように、罠の可能性もある。総員、戦闘態勢にて待機せよ〉

 マリーの毅然とした司令が、艦内に響き渡る。

 キュリオテテスは現在、日本の呉へ向けて航行している。というのも、「呉にて連邦軍の動きがある」という匿名の情報を得たからだ。

 呉と言えば、旧時代から日本海軍の施設があった場所だ。つまり、由緒正しき軍施設と言う訳だ。

 もちろん、それなりに軍備も整っている。仮に匿名の情報が罠であった場合、その圧倒的な兵士の数によって袋叩きに遭うことは間違いない。

 それでも行くしかなかった。地球降下に成功したとはいえ、共和国の地上における勢力はまだまだ小さい。ちょっとしたことで殲滅させられるかもしれない。だからおおごとになる前に芽を摘み取っておく必要があるのだ。




「共和国軍、キュリオテテス、こちらに接近しています!」

「なんですって?」

 呉基地に到着していたラナは、その報告に驚愕した。

 ――そんなバカな。グアムからは、ばれないように移動してきたはずなのに――。

「ま、今更反省しても仕方ないか。司令、例の装備は?」

「すでに取り付け、及び最終調整は終了しています」

「そう。なら、それを試すチャンスね。あたしだけ出るわ。手出ししないで」

 そう言うと、ラナは不敵に微笑みながら、愛機バアルの下へ向かうのだった。




「敵基地より、RPエンジン反応あり! PPです!」

「数は?」

 マリーはオペレーターの報告を聞き返すと、思わず疑ってしまうような言葉を耳にした。

「数は……一? バアルのみです!」

「なんですって?」

 ――そんな信じられない話が……。いくらこちらが少数で、バアルを操縦するアズマ大佐の腕前が一流だからと言って、一人だけで戦うなんて無茶すぎる……。何か裏があるの?

「索敵、怠らないで。もちろん、本艦の後方にもよ。それとPPを発進させて!」




 キリハ達が発進すると、アスタは今にも襲いかかりそうになった。

「あなた、よくも……!」

「待って、アスタ」

 キリハが飛び出そうとしているアスタを引きとめた。

「そうやで、アスタ。あの機体、いつもと様子がちゃう……」

 ネリーナの指摘通り、今回のバアルは今までの戦闘で見た姿と違っていた。バアルの背中に、羽の様なユニットが四基取り付けられていたのだ。

 その装備を警戒して手を出さないでいると、ラナが挑発するように話しかけた。

「まったく、この前あんなことがあったというのに攻撃しないなんて、あなた達はそんなに臆病だったのかしら?」

「バカにしないで! 私はもう、スザンナみたいな子を生ませはしない! その元凶を、断つ!」

 そう叫ぶと、スザンナはバスターソードを振りかぶり、猛然と突っ込んでいった。

「何も考えずに向かってくるなんて……」

 ラナは落ち着き払った様子で、胸部拡散ビーム砲・アラーニャのチャージを始める。

「あかん!」

 アラーニャが発射する直前、ネリーナは間一髪でアスタを救出した。

「キリハ、尻ぬぐいは頼むで!」

「了解!」

 キリハはビームスナイパーライフルを構え、ラナのバアルを狙う。

「ふふ……そうはいかないわよ」

 するとラナは、バアルの背面にある羽根状のユニット全てを、キリハのハニエルに飛ばした。

「何あれ……ミサイル?」

 だが、キリハの予想は違っていた。羽の先端からビームが撃たれたのだ。

「くっ……」

 その射撃は避けることができた。しかし、羽根状の兵器はハニエルに近付くと、急にトリッキーな動きを始め、ビームを連射する。

「クソ……」

 キリハは必至で回避しようとするが、動きが読み切れず、何回か被弾してしまう。

 その光景を見たラナは、見下すように言った。

「どう? 連邦の最新兵器、思考制御型可動ビーム砲・ヴェーヌスの力は?」

 思考制御型可動ビーム砲・ヴェーヌス。名前の通り、パイロットの思考でコントロールすることができる、可動式のビーム砲だ。SFアニメなどでよく出てくる『ビット』と呼ばれる物と考えていい。

 この兵器は、トリッキーな動きで相手を翻弄し、死角から撃てることが最大の利点だ。だが、思考で制御する以上、パイロットの脳波に合わせたデリケートな整備が必要で、パイロットにもそれなりの能力とセンスが求められる。つまり、使い手を選んでしまうという欠点もある。

 それでも、ラナの様な卓越したパイロットが使用すれば、一騎当千の活躍をすることができる。

「ちょっと、これくらいで根を上げないでよ。これ、プロトタイプなんだから」

 ――これでプロトタイプ? 冗談じゃない。でも、何とかしないとこっちがじり貧になっちゃう。

 キリハが悪い状況を脱する方法を考えていると、とてもシンプルなアイディアが浮かんだ。

「そうだ。撃ち落としてしまえば……」

 奇妙な動きをすると言っても、撃ち落とせば使い物にならない。そう結論付け、キリハはビームピストルの銃身をガトリングバレルに付け替えようとした。その時。

「その動きが、隙なのよね!」

 ハニエルは銃身を取り替えて戦うPPだ。逆に言えば、その銃身を取りかえる一瞬が隙となる。そこを突かれ、キリハは四方からヴェーヌスで撃ち抜かれてしまった。

「きゃあああああああぁぁぁぁぁ!!」

 撃たれたキリハのハニエルは、至るところから火を噴きあげ、バラバラに砕け散ってしまった。

「キリハ!」

「キリハ!!」

 アスタとネリーナが、必死でキリハに呼びかける。

〈キリハは?〉

 キュリオテテスのブリッジでは、マリーがオペレーターにキリハの無事を確認させる。

〈ダメです! シグナルロスト! キリハ・ヤマナミ少尉の生存、不明です!〉

〈そんな……〉




「う、う~ん」

「お、目を覚ましたみてぇだな」

「救出が間に合ったみたいね」

 誰かが話している。やけに男っぽい口調の女性と、大人っぽい雰囲気がする女性だ。そういえば、前にも会ったことがあるような……。

「バルフォアさんに……スオメラさん……?」

 そうだ。以前、自分が撃ち落としてしまった、殺してしまった相手。その人達の声が聞こえるということは、あたしは、もう……。

「とっとと起きろよ、バカ!」

「ぶっ!?」

 だらだらとまどろみの中にいると、アン・バルフォアからのビンタが炸裂した。

「って……バルフォアさんにスオメラさん? なんでここに? ってことは、あたし、死んでる?」

 取り乱した様子で騒ぎだすキリハに、アンは冷静に答えた。

「お前も俺もアイラも生きてるよ。あの時は死んだふりをしただけだ」

「死んだふり? それはどういう……? そもそも、ここはどこなんですか?」

 その質問に、アイラが答えた。

「ここは、連邦の戦争のあり方に疑問を持つ者が集まる秘密組織、『レジスタンス』の拠点の一つよ」

「戦争のあり方ってなんですか?」

「実は、アンも私も、この戦争の動きに疑問を持っていた。何者かの意思が入っているように思えたの。そんなとき、私達はレジスタンスの事を知り、加入した。そして戦争の動向を調べていくうちに、ある人物の名前へとたどり着いたの」

 アイラのセリフを継ぎ、アンが重々しげに言葉を発した。

「地球連邦軍大佐、ラナ・アズマ……」

「!?」

 キリハは、その名を聞いて驚いた。しかし、よく考えてみれば彼女に不審点はたくさんある。

 キリハとラナが最初に会ったのは、カンティーガス攻略の時。その後ハワイ、そして呉と、どう考えてもフットワークが良すぎる。普通の軍人なら、よっぽどのことがない限り、自分の所属している軍管区からめったに移動することはないからだ。

 アンはさらに説明を続けた。

「例の『クリスマスの惨劇』も、おそらく奴がやったことだろう。奴は惨劇のきっかけとなる会議場にもいたからな。ただ、なぜあいつが戦争を起こしたか、その動機は不明だ」

 そして話題は、なぜアン達が死んだふりをしたのかというテーマになった。

「ある時、俺達はとうとうラナに目を付けられ始めた。俺達はなんとか危機を脱しようと考えた。そんなとき、とある事件が起こった。お前が宇宙(そら)から落ちてきたんだよ」

 そのことを聞いたキリハは、なぜ死んだふりをしたのかがわかった。

「あたしを利用したんですか。自分達が動きやすくなるために」

「そうだ。お前がやってきたことと、基地で毎月やってるパーティーを使った。そこにラナを呼び、戦闘を見せ、目障りな連中が死んだと思わせたかったんだ。それで、キリハを傷つけることになったのはすまなかったが……」

「いえ、バルフォアさん達に考えがあったのはわかったし、なによりお二人が生きててうれしいです」

 キリハは笑ってそう答えた。

「うれしいこと言ってくれるじゃねぇか。そうそう、お前に渡したい物がある。アイラ」

「ええ。こっちに付いて来て」

 二人に連れられてやってきたのは、大きな鋼鉄の扉がある区画だった。そこを開け入ると、目を見張るような物があった。

 そこには、純白のPPが二機あった。一機は左側に天使の様な翼とバスターライフルを持っている。もう一機は右側に翼とバスターライフルがあった。

「お前ら、確か情報が漏れたことがあったろ?」

 以前、フォルタレヒメント・ウマーノであるスザンナ・ルアルディを遠隔操作し、情報を抜き取られた時の事だ。

「その時に得た情報を使って、オーストラリアのシドニー基地で三機のPPが作られた。そのうち二機を俺達が奪取したんだ。左に翼があるのがアムブリエル・ウーノ。右に付いてるのがアムブリエル・ドースな」

 アムブリエルとは、双子座を司る天使の名だ。二機並んだ姿はまさに、双子の様だ。

「キュリオテテス隊は苦戦を強いられているわ。早く乗って、援護を」

 アイラが出撃するように促した。

「は、はい。ところで、戦闘区域はどの方角ですか?」

「この上空よ。ここは、呉基地のすぐ近くの地下にあるの。まさかラナも、自分の目と鼻の先に目障りな連中がいるなんて、思ってもみなかったでしょうけど」

 そう聞くと、キリハは左側に装備が付いているPP、アムブリエル・ウーノに乗り込んだ。

「キリハ・ヤマナミ、アムブリエル・ウーノ、行きます!」




「あかん、ちっとも近づけへん!」

「くっ……こんな奴に!」

 その頃、アスタとネリーナは苦戦を強いられていた。

〈みんな、一旦下がって! キュリオテテスでヴェーヌスの対処を試みるわ〉

『了解』

 二人はキュリオテテスの射線から離れた。

〈全領域ミサイル、てーっ!〉

 その号令の直後、キュリオテテスの全身からミサイルが発射された。

「弾幕を張って落とす気ね……。でも!」

 ラナはヴェーヌス全機をバアルの周りに集結させた。そして、ヴェーヌスとアラーニャを一斉発射した。

 放たれたビームは、ミサイルのほとんどを撃ち落とした。数えるほど残ったミサイルは、余裕で避けることができた。

「あーあ、気にかけてたあの子は撃ち落とされちゃうし、他も同じレベル。飽きてきたから、一気に蹴りをつけちゃおっかなー」

 ラナが気を緩めたその時。

「下からアラート? ……くっ!」

 突如、バアルの下から高威力のビームが襲ってきた。

「ラナ! あんたの思うようにはさせない!」

「キリハ!? しかもあの機体……アムブリエル!? 確かシドニー基地から行方不明になっていたはずなのに……」

 目の前で起こっていたことに唖然となったが、ラナの切り替えは早かった。

「でも……面白くなってきたわね。あなたがその機体を扱えるかどうか、試してあげる!」

 そう叫び、ラナはヴェーヌスをキリハのアムブリエル・ウーノへ飛ばした。

「そんなもの!」

 キリハはバスターライフルのガトリングモードで撃ち落としにかかった。アムブリエルのバスターライフルは、連射特化のガトリングモードと、高威力・長距離射撃の砲狙撃モードとの撃ち分けが可能だ。しかも、大破したハニエルと違って銃身を取り換える必要がない。隙を作らせないのだ。

 放たれたヴェーヌスの内二機は撃ち落とされた。しかし、あと二機が迫っている。

「このっ!」

 ヴェーヌスの接近を許すと、キリハはバスターライフルの銃身にビーム刃を発生させ、大きく一振りした。この強烈な斬撃を受け、残ったヴェーヌスも全て破壊された。

「くっ……形勢不利か。ここは一旦、基地に戻って……」

〈残念だったな、ラナ〉

 基地へ撤退しようとしたラナの下へ突然、通信が入った。

「アン・バルフォア? あなた、死んだはずじゃ……」

〈そう見せかけただけだ。それより、要件を手短に言う。この混乱に乗じ、俺達レジスタンスが基地を制圧した。この辺にお前の帰ってくる場所はない〉

 ――あの死に損ないが! あたしを騙した挙句、基地まで奪うなんて……!

「ふん、まあいいわ。アムブリエルを奪ったの、どうせあんたでしょ? そうだとしても、あたしにはまだとっておきの手が残っているの。さて……」

 ラナはコクピットのキーボードを打った。

「キリハ、そのデータ、あんたにあげるわ。それを読んで、どうするか決めなさい。願わくば、あんたと一緒に戦いたいわ」

 そう言い残し、ラナはグアム方面へと去っていった。




「では、あなた方は私達に協力したいと?」

 戦闘後、呉基地を制圧したキュリオテテス隊は、すでに占拠していたレジスタンスの代表者、元連邦軍陣のアンとアイラの事情を聞いていた。

「ああ。これまでの経緯は、さっき話した通りだ。それに、連邦軍では、俺達は死亡扱いになっている。申し出を受け入れてくれないか?」

 この人達がスパイである可能性はある。でも、彼女達はそうは見えないし、提供された情報もかなり重要なもの、かつ信憑性が高い。それに、この基地の事を伝えたのも、撃墜されたキリハを助けたのも彼女たちだ。

 マリーの意思は決まった。

「わかりました。あなた達を協力者として受け入れます。そしてアン・バルフェアさんとアイラ・スオメラさんには、特別にキュリオテテスへの乗艦、そしてクルーの待遇を約束しましょう」

「ありがとうございます」

 アイラは礼を言った。その時、格納庫から通信が入った。

〈艦長、ヤマナミ少尉が乗りこんでいた機体に送られたデータの安全性が確認されました〉

「了解。すぐブリーフィングルームへ送って」

 データが送られ、モニターに映像が映った。そこに映ったのは、ラナのビデオメッセージだった。

〈キリハ、あなたに教えることがあるわ。あたしと、あなたの出生の秘密を〉

「出生の、秘密……?」

〈私達のお母さん達は、女性同士のカップル、いわゆる百合夫婦だった。当然子供を作ることはできなかったけど、それでもお母さん達は子供が欲しかった。都合がいいことにお母さん達は生命科学の研究者だったから、それを利用することにしたの〉

 ――生命科学の研究者? それって、まさか――。

〈お母さん達は、自分達の体細胞から人工的に精子を作り出し、それをお互いの卵子に挿入しようとした。結果は成功。お母さん達の身体の中に、あたし達が宿った〉

 ――え? それじゃあ、今のお父さんとお母さんは、何者なの――?

〈でも、度重なる精子作成に、お母さん達の体力は限界だった。そして、あたし達を生むと同時に、お母さん達は死んでしまった。その後、あたし達は親戚に育てられることになった〉

 次々と語られる衝撃の事実の数々に、キリハはとうとう動けなくなってしまった。

〈でも、そこからが悲惨だった。女性同士の結婚に反対していたあたしの預け先は、その子供というだけで徹底的に虐待した。毎日のように殴られ、罵倒され……。だからあたしは、この世界を呪った。いつかあたしを邪魔者扱いする世界を滅ぼしてやろうと。だからこの時のために、軍で力を付け、あなたの居場所を探し出した〉

 最後に、ラナはとんでもないことを言い残した。

〈これから、あたしは月へ資源衛星『グスマン』を落とす。その衝撃で月の都市は壊滅。そして衝突の反動で、衛星内に蓄積されたRP粒子が臨界に達し、地球へ超高威力のビームが放たれる。これで月も地球もおしまいよ。キリハも、あたしと同じように虐げられていたならば、あたしに力を貸して。一緒に世界へ地獄を見せてやりましょう?〉

 映像は、これで終わった。

『…………』

 一同、深く沈黙した。

「キリハ……」

 沈黙を破ったのは、アスタがキリハを気にかけて、声をかけた時だった。

「あの人は、一つ間違った思い込みをしている……」

 ゆっくりとキリハが話しだした。

「あたしは、別に虐待なんか受けていない。普通の家族として接してくれた! だから恨む理由は何もないし、第一、世界中の人達を殺していいはずがない!!」

 キリハの決意表明に、その場にいた人達が次々と支持を表明した。

「確かにね」

「ほんまやな」

「私達も、戦うわよ」

「やれるよ。私と、キリハなら」

 その中でアンがある提案をした。

「そうだ、艦長。アスタをアムブリエル・ドースに乗せてくれねぇか?」

「それって、キリハが乗ってたPPの左右を反転させた機体の事?」

「ああ。実は、アムブリエルのデータを解析したら出てきたんだが、どうやらウーノとドースの力を合わせることができるらしい」

「それって、どういうこと?」

「実は、そこまでは解析できてねぇ。ただ、力を合わせる以上、パイロットの方も上手く連携できる人材の方がいい。キリハとアスタはいいコンビだと思う。俺とアイラ、それに艦長とネリーナみたいな臭いがするしな」

『えっ?』

 その言葉は、キリハとアスタは恋人っぽいと遠まわしに言っているようなものだ。それを理解したキリハとアスタは驚きの声を上げたが、マリーは気にする様子もなく判断を下した。

「わかったわ。アスタをアムブリエル・ドースのパイロットにしましょう。空いたカマエルは予備機として運用します」




「例の物の調子はどう?」

 グアム基地に戻ったラナは、整備担当に進展状況を聞いた。

「ええ、プロトタイプのデータをばっちり反映させました。いつでも動かせますよ」

「それはいいわね。じゃ、すぐシャトルに乗せて。私と一緒にマスドライバーで上がるわ」

 宇宙へ向かうシャトルに向かう途中、ラナは一人つぶやいた。

「キリハ……、あなたも一緒に、世界を滅ぼしましょう? あなたと、あたしならやれるはずよ」


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