5月 修学旅行 1 失くしたお守り
5月編から、毎週土曜日更新(目標)で行きます。 次回更新は10/31予定です。よろしくお願いします。
白鳳学園の修学旅行先は、昔から京都・大阪と決まっていた。
金持ち学園ではあるが、古くから続く、由緒正しき伝統校だからか、海外とかではない。
その二日目。
班別自由行動の日。
班員たちは事前に立てていた計画に従い、京都市内を巡ることになっている。
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◇出発1か月前
班行動を決める際に、
「貴船神社に行こうよ!」
美咲は班の皆を見回しながら言った。
「縁結びで有名なんだって!」
「へえ」
コウは興味なさそうに答える。
「なんなの!その反応」
「別に」
「別にじゃない!」
美咲は頬を膨らませた。
「縁結びで有名な神社なんだよ」
「俺はもう必要ないもんね」
伸二がノロけて言う。
「「このリア充が!」」
美咲とコウが同時に伸二を睨みつける。
「だから縁結び!」
コウは肩をすくめた。
「だったら安井金比羅宮にしよう」
「は?」
美咲の眉がぴくりと動く。
スマホで検索する美咲。
「縁切り・・・?!」
「なんで修学旅行で縁切り神社行かなきゃいけないのよ!」
「金毘羅宮は縁結びでも有名なんだ。
縁結びも縁切りも表裏一体。どっちの方が上位かは明白だろう。
本当に願いたいことがあるなら、どっちを選ぶかは決まってるよな」
反論に詰まる美咲。
「え?何?誰かに縁切りされるようなことでもしたんか?怖いの?」
挑発するコウ。
「そんなわけないでしょ!」
美咲は見事に挑発に乗った。
「みんなもどうせ行くなら、ご利益が高い方がいいよな?」
「まあ、そっちの方が面白そうだしな」
と伸二。
「はい、金毘羅宮に決定な」
「ぐぬぬ・・・」
結局。
班の行き先は安井金比羅宮に決まった。
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修学旅行 day2 金毘羅宮
境内の中心には、有名な縁切り縁結び碑。
願い事を書いた形代を貼り、石の穴をくぐることで願いが叶うとされている。
「せっかくだし、みんな全員やろうよ! 縁結び」
美咲が提案した。
「いいぜ。 ただし・・・」
コウが言う。
「お互い何を書いたかは詮索なし」
「そんなの当然じゃない!」
「それなら賛成」
皆もうなづく。
「絶対だからな」
「なんで私を見るのよ!」
それぞれが形代を書く。
美咲はしばらく悩んだ。
本当は書きたい願いがある。
けれど。
その願いを書く勇気はなかった。
だから。
『瑠璃姉とコウに幸せな未来がありますように』
誰にも見られないように、小さく書いた。
形代を貼り終え、碑を後にする。
しばらく歩いた後、美咲はわざとらしく言う。
「ちょっとトイレ」
そして。
「瑠璃姉、付き合って」
「う、うん・・・」
瑠璃は首を傾げたが、素直について来た。
しかし向かった先はトイレではない。
縁切り縁結び碑だった。
「美咲ちゃん?」
「ちょっとだけ」
美咲は周囲を確認する。
「ダメよ、美咲ちゃん」
「ちょっとだけ」
美咲は無数に貼られた形代へ目を向ける。
その視線が。
ある一枚の前で、ぴたりと止まった。
「・・・あった」
幾千幾万の形代の中から、目ざとくコウの形代を見つけ出す美咲。
昔から、美咲は失せ物を見つけ出すのが得意だった。
見覚えのある文字。
コウの字。
「美咲ちゃん・・・」
美咲は形代をのぞき込む
美咲の様子がおかしい。固まって動かない。
不思議に思った瑠璃も、誘惑に負け、コウの形代を覗く。
そこに書かれていた願い。
『自分に良縁は要らないので・・・ 』
瑠璃も思わず固まった。
さらにその下。
『そのぶん自分以外の皆に良縁が訪れますように』
しばらく沈黙が続く。
「・・・バカ」
美咲が呟く。
瑠璃は何も言わなかった。
ただ、その願いから目を離せなかった。
『自分に良縁はいらないので』
胸の奥が、ほんの少しだけ痛んだ。
それでも。
『そのぶん自分以外の皆に良縁が訪れますように』
本当に。
この人は、こういう人なのだ。
瑠璃は少しだけ微笑んだ。
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その後。
班員たちはおみくじを引いた。
そして、お守りを買うことになった。
「自分の分は禁止な」
「?」
言い出したのはコウだった。
「自分以外の班員の誰かのために買う。 それをみんなブラインドでどれかを引く」
「お守り交換か!」
「面白そう!」
美咲が飛び付く。
それぞれがお守りを購入する。
瑠璃が一旦全部を預かり、皆が順番に、上から何番目を選ぶかを言っていく
誰のお守りが誰に渡るか。
それは運任せ。
最後に残ったお守りが瑠璃の引き当てになる。
瑠璃の手の上に、ひとつ残ったお守り。
それを見たコウの纏う空気がわずかに変わったのを瑠璃は見逃さなかった。
このお守りはコウが買ったお守りだ。
瑠璃はコウを見つめて言う。
「ありがとうございます」
「?!なんで俺に言うんだよ」
コウも自分のお守りが瑠璃に渡ったと気づいている。
瑠璃はコウのお守りが自分の手の中にあることが嬉しかった。
それをカバンへしまおうとして。
不意に別の班員に呼ばれる。
「瑠璃ちゃん!」
「はい?」
そちらを向いた拍子だった。
袖のボタンにお守りの紐が引っかかっていた。
しまったはずのお守りがカバンから滑り落ちる。
しかし瑠璃は気付かなかった。
石畳の上に残された小さなお守り。
少し後ろを歩いていた少女が足を止める。
「あれ?」
榊 京子。
同じ白鳳学園、別のクラス。
京子はお守りを拾い上げる。
「これ・・・」
京子は一部始終を見ていた。
交換会のお守り。
そして。
一条瑠璃のもの。
京子はすぐに分かった。
すぐ返すつもりだった。
でも瑠璃は班員たちに囲まれていた。
内気な京子は、声を掛けようとして。
掛けられなかった。
次こそ。
一緒の修学旅行。声をかける機会はいくらでもある。
次こそ。
そう思っているうちに大阪へ着いてしまった。
その「あとで」はなかなか訪れなかった。
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翌日の大阪行動のために、大阪のホテルへ到着。
ホテルへ入った夜。
瑠璃はお守りが無いことに気付く。
ポーチの中。
ポケット。
ベッドの上。
床。
旅行バッグの中。
何度探しても見つからない。
「・・・ない」
顔色が変わる。
コウが選んだお守り。
失くしてしまった。
一方。
京子は自室でお守りを見つめていた。
返さなければ。
そう思う。
だが。
一条瑠璃。 憧れの存在。
容姿端麗。 頭脳明晰。 慈愛の女神。
京子にとっては、憧れのアイドルだった。
そんな彼女のお守りが私の手の中にある。
明日こそ返そう。
そう思いながら、京子はお守りを握った。
あと一晩だけだから。
それが、一つの事件を引き起こすことも知らずに。
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翌朝。
修学旅行は大阪班行動の日を迎える。
瑠璃は担任へ申し出た。
「少し体調が・・・」
嘘だった。
けれど。
誰も見抜けなかった。
瑠璃は、ホテルで休養する許可を取った。
そしてタイミングを見計らって抜け出した
瑠璃は一人で京都へ戻る。
コウのお守りを探すために。
瑠璃は知らなかった。
そのお守りは。
同じ学校の少女が、
違う場所で、今も大切そうに握りしめていることを。




