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5月 修学旅行 2 消えた一条瑠璃




三日目。



   大阪観光の日。



黒田コウ




「瑠璃姉、具合悪いからホテルで休んでるって」


朝、美咲がそう説明した。


「ふーん」


コウは短く返事をする。


瑠璃が体調を崩した。


それ自体は別に不思議ではない。


三泊四日の修学旅行。


歩き回って疲れも溜まっている。


だが。


どこか引っ掛かった。


結局、瑠璃を除いたメンバーで大阪観光へ向かうことになった。


最初の目的地は大阪城。


天守閣の最上階。


眼下には大阪の街並みが広がっていた。


高層ビル。


道路を流れる車。


遠くには大阪湾・・・は見えないな・・・


そんな景色を眺めていた時だった。


未来視。


視界が揺らぐ。


そして現れた光景。




一条瑠璃。


安井金比羅宮にいる。


境内を歩いている。


何かを探しているようだった。




未来終了。


コウは眉をひそめた。


「おかしい」


安井金比羅宮に行ったのは昨日だ。


そして自分の能力は未来視。


過去ではない。


明日は最終日。


新幹線で東京へ帰るだけだ。


京都へ寄る時間などない。


つまり。


「アイツ・・・」


瑠璃は今この瞬間、


京都へ向かっている。


体調不良は嘘。


わざわざホテルを抜け出して。


なぜだ。


理由が分からない。


形代を見に行く?


三日目、班行動をサボってまで、そんなことをする奴じゃない。


しかし未来視が見えたということは。


もう手遅れだ。


コウの未来視は絶対未来視。


未来を知って行動した結果、


未来が変わるのなら、それは ”絶対” ではない。


つまり。


未来視が見えた時点で。


瑠璃が今日、安井金比羅宮へ行くことは確定している。


今すぐホテルへ戻ろうが。


電話をしようが。


美咲に知らせようが。


この未来は変わらない。


「仕方ない」


コウは小さくため息をついた。


だったら。


止めるのではなく、追うしかない。


美咲に言えば確実に面倒になる。


黙って抜け出そう。


連絡はその後でいい。



ーーーーーーーーーーーーーーー



榊京子


三日目。


   ホテルロビー。


瑠璃に話しかけるタイミングを探る京子。


瑠璃の姿がなかなか見当たらない。


幸い、最初の目的地は同じ大阪城。


焦る必要はない。


が、おかしい。


京子は違和感に気づいた。


一条瑠璃の姿がない。


「瑠璃さんが居ない・・・?」


「瑠璃さん、いなくない?」


何気なく聞く。


すると班の女子が答えた。


「具合が悪いからホテルで休んでるんだって」


「そうなんだ・・・」


京子は頷く。


そして。


ポケットの中のお守りに、そっと触れた。


昨日。


返そうと思った。


何度も声を掛けようと思った。


でも、できなかった。


ホテルにいる。


しかも今なら一人かもしれない。


だったら。


今度こそ返せる。


「私も、ホテルに忘れ物しちゃったかも。ちょっと戻って確認してくる」


京子は走り出す。



ーーーーーーーーーーーーーーー



瑠璃にお守りを返す。


それだけのためにホテルへ戻った。


ずっと返せなかった自分が情けない。


今日こそ。


ちゃんと謝って返そう。


そう決めていた。


そしてホテルの玄関が見えてきた。


その時だった。


ホテルの正面玄関。


「・・・え?」


出てきたのは。


一条瑠璃だった。


そして瑠璃はそのまま走り出した。


足取りもしっかりしている。


少なくとも、ホテルで寝ていなければならないほど具合が悪いようには見えない。


「瑠璃さん・・・?」


京子も追う。


それでも、瑠璃が一人でいる今がチャンスだ。


ともかく追いかける。


瑠璃の方が足が速い。


「体調不良じゃないの?」


信号のタイミングも悪く、追いつけない。


むしろ、見失わないようにするのに精いっぱいだ。


駅に着く。


京子は違和感に気づいた。


そっちのホームの電車は大阪城と反対方向では?


班行動に戻るにしてはおかしい。


瑠璃は電車に乗った。


京子もギリギリ、別の車両の扉へ駆けこんだ。


行き先を確認して、京子は眉をひそめた。


京都。


昨日までいた場所。


京子は声を掛けようとして、やめた。


ここまで来て、ようやく気づいた。


自分は今、一条瑠璃が誰にも知られたくないことを、勝手に追いかけている。


急に後ろめたくなった。


声をかけれない。


ポケットの中には、瑠璃のお守りがある。


このままでは、また返せない。


京子は少し距離を開けて、その後を追った。



ーーーーーーーーーーーーーーー



   京都



瑠璃を見失わないように後をつける京子。


なぜ?


忘れ物?


行きそびれた場所?


誰かに会う?


分からない。


京子にも見覚えのある道を歩いていく。


昨日、班のみんなで歩いた道。


やがて見えてきた場所に。


京子は息を呑んだ。


安井金比羅宮。


「・・・まさか」


京子の手が、無意識にポケットへ伸びた。


布越しに触れる、小さなお守り。


瑠璃は境内へ入り、何かを探している。


石畳。


昨日みんなで立っていた場所。


そして授与所へ向かった。


神主さんに何かを尋ねている。


その姿を見た瞬間。


全部つながった。


「・・・お守り?」


瑠璃が京都まで戻ってきた理由。


学校に嘘をついてまで班行動を抜けた理由。


安井金比羅宮へ真っ先に来た理由。


このお守りを探しているんだ。


「・・・」


京子はポケットの中で、お守りを握りしめた。


返そうと思っていた。


今日こそ返すつもりだった。


なのに。


瑠璃はこのお守り一つのために、京都まで戻ってきてしまった。


もちろん。


授与所で見つかるはずがない。


落とし物として届けられてなどいない。


なぜなら。


ずっと自分が持っているのだから。


京子の手が震えた。


ポケットの中で、お守りを握りしめる。


強く。


強く。


瑠璃は。


たった一つのお守りを探すために。


ここまで戻ってきた。


「・・・」


昨日、返していれば。


あの時、勇気を出して声を掛けていれば。


ただ、


『一条さん。これ、落としましたよ』


そう言えばよかっただけなのに。


たった、それだけだったのに。


瑠璃は学校に嘘をつく必要もなかった。


大阪から京都まで戻ってくる必要もなかった。


こうして必死に探し回る必要もなかった。


全部。


自分が返さなかったから。


「どうしよう・・・」


声が震えた。


返さなきゃ。


今すぐ。


今ならまだ間に合う。


ポケットからお守りを取り出そうとする。


けれど。


指が動かなかった。


今さら、なんて言えばいいのだろう。


『昨日から私が持っていました』


『今日もあなたの後を付けていました』


そんなこと。


言えるわけがない。


瑠璃が授与所から離れる。


肩を落としている。


見つからなかったのだ。


当たり前だ。


見つかるはずなんてない。


だって。


瑠璃が必死になって探しているものは。


今。


自分の手の中にある。


「・・・ごめんなさい」


瑠璃には届かない声だった。



ーーーーーーーーーーーーーーー



黒田コウ


   京都へ向かう車内。


コウは何度も電話を掛けた。


瑠璃へ。


しかし。


出ない。


メッセージも無視。


実際、瑠璃はコウの電話には気づいていた。


ただ。


瑠璃はコウの問いに答えることができない。


コウのお守りを探すために京都へ来ている。


そんなこと本人には言えない。


だから無視するしかなかった。


やがて。


京都駅。


コウは改札を抜ける。


しかし。


瑠璃の姿はない。


「さて・・・」


こういう時に絶対未来視は役に立たない。


今この瞬間は視れない。


いつかが、わからない未来しか視えない。


今、瑠璃がどこにいるかは分からない。


考えろ。


あいつが理由もなく単独行動するわけがない。


京都へ来た理由。


今日でなければならない理由。


昨日。


昨日の行動。


「昨日行った場所を回ってるのか」


それしかない。


コウは昨日の班行動を思い出した。


安井金比羅宮。


清水寺。


二年坂。


円山公園。


八坂神社。


そして。


先斗町。


このルートだ。


スタートから追うか。


ゴールから逆走するか。


少し考える。


そして結論を出した。


「逆走だな」


先斗町へ向かう。


運が良ければ途中で鉢合わせる。


そう考えた。


だが。


結果的にはそれは失敗だった。


先斗町へ着いた時。


未来視。




夕方。


一条瑠璃が先斗町を歩いている。


一人で。




未来終了。


コウは頭を抱えた。


「最悪だ」


未来視はこう告げている。


つまり。


瑠璃はこの後ここへ来る。


そして。


一人で歩いている。


瑠璃が先斗町へ来るまでは、コウは瑠璃に”絶対に”会えない。


もし、その前に瑠璃に会えたとしたら、先斗町に瑠璃が一人で来るなどありえないからだ。


未来が確定してしまった。


コウは先斗町で待つしかなくなってしまった。




一方その頃。


瑠璃は。


まだほとんどスタート地点。


コウが先斗町で待つことになるなど、知る由もなく。


そしてコウも知らない。


瑠璃が、そこで予定にはなかった出会いをすることを。


そう、つまりコウと瑠璃の再会までには、


まだ、長い時間が必要だった。







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