4月 ラブレター 4 思い込みの代償
水沢詩織
物音を立ててしまった。 その場から逃げるように立ち去る詩織。
逃げた先。
後ろから声がした。
「詩織ちゃん」
振り向く。
田中美雪だった。
その後ろに、一条美咲もいる。
美雪の顔を見た瞬間。
詩織は理解した。
すべてを。
「美雪ちゃん」
美雪がびくりと肩を震わせた。
詩織の声が震える。
「美雪ちゃんが……」
一歩近づく。
「長谷川君にラブレターを渡したの?」
沈黙。
それが答えだった。
「ごめんなさい!」
勢いよく頭を下げた。
「詩織ちゃんが大事にしてたから!
応援したくて!
私・・・」
「そんなこと頼んでないっ!」
詩織の声が響いた。
美雪が固まる。
詩織自身も驚いていた。
こんな大きな声を出したのは久しぶりだった。
詩織の目から涙が零れる
「なんで・・・」
胸が苦しい。
恥ずかしい。
情けない。
消えてしまいたい。
ここから逃げたい。
そう思った。
踵を返す。
だが。
「待って!」
一条美咲が叫んだ。
「大丈夫!」
美咲は真剣だった。
「伸二はきっと受け入れてくれる!」
「え・・・?」
「だから安心して!」
「違う!!」
反射的だった。
叫んでいた。
「私は・・・」
息が詰まる。
涙が止まらない。
そして。
「長谷川君のことなんか好きじゃない!」
静寂。
誰も動けなかった。
美雪も。
美咲も。
ただ呆然としていた。
詩織はそのまま走り出した。
逃げるように。
振り返らずに。
取り残された二人。
美雪は青ざめていた。
「私・・・
やっぱり余計なこと……」
拳を握る。
今にも泣きそうだった。
一方。
一条美咲は詩織が走り去った方向を見つめていた。
「違う」
小さく呟く。
「そんなはずない」
私にはわかる。
説明はできないけど。
詩織が伸二を見る時の姿を。
何度も視てきた。
あの感情が。
本当に何もないはずがなかった。
だって私に視えたのだから。
「でも……」
美咲は唇を噛む。
「詩織ちゃん、本当は……」
その続きは言葉にならなかった。
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走りながら。
思い出していた。
一年生の頃。
水沢詩織は地味で目立たない生徒だった。
掃除当番を押し付けられる。
プリント配りを押し付けられる。
断れない。
だから引き受ける。
そんな毎日だった。
だが。
「俺もやるよ」
いつも助けてくれる男子がいた。
長谷川伸二。
勉強が特別できるわけではない。
運動が得意というわけでもない。
目立つわけでもない。
でも。
誰かが困っていると放っておけない。
いや、誰かが困っているのを見逃さない。
そんな人だった。
詩織は気づいていた。
伸二は空気を読む。
教室が重くならないように。
誰かが傷つかないように。
わざとおどける。
笑われ役になる。
自分が損をしても。
例えそれがハズレくじだと知っていても。
自分が引く。
それが自然にできる人だった。
だから。
憧れた。
そして。
そんな主人公を書きたいと思った。
報われる主人公を。
幸せになる主人公を。
自分にはなれない主人公を。
伸二。
コウ。
美咲。
三人をモデルにした物語を書いていた。
超お人好しの主人公。
真司
その親友。
康介
主人公の幼馴染。
美沙希
ヒロインはシンジのことが好きだった。
でもシンジは気づかない。
とうとう、
ヒロインはラブレターを書く。
そのラブレターを考えるため。
気持ちを込めて、本気の文章を書くために。
実際にレターセットへ文章を書いた。
それだけだった。
そのはずだった。
「水沢さん」
後ろから声。
立ち止まる。
黒田コウだった。
肩で息をしている。
どうやら私を追いかけてきたらしい。
「・・・」
何も言えない。
泣き顔を見られたくない。
恥ずかしくて。
消えてしまいたかった。
すると。
コウが口を開いた。
「MIO先生」
詩織が目を見開く。
「え?」
「だいたいの事情は知ってる」
しばらく沈黙。
やがて詩織は小さく笑った。
観念したように。
「読んだんですね」
「公開されてたしな」
「そうですね」
否定できない。
少しだけ。
肩の力が抜けた。




