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4月 ラブレター 3 見えてきた真相


放課後。


コウは文芸部の部室の前に立っていた。


白鳳学園の校舎は開放的な造りになっている。


教室も部室も、基本的に廊下側に大きな窓があり、中の様子が見える。


廊下側の壁は大きな窓になっており、


誰かがいるかどうかくらいは外からでも分かる。


「誰もいないか」


部室の中は空だった。


机と椅子。


本棚。


ホワイトボード。


それだけだ。


その時だった。


未来視。


世界から音が消えた。



ーーーーーーーーーーーーーーー



文芸部の部室。


一人の少女。


田中美雪。


机に座り、一冊のノートを読んでいる。


夢中になっている。


ページをめくる。


笑う。


またページをめくる。


ノートの表紙が見えた。


見覚えがあった。


水沢詩織のノートだ。



ーーーーーーーーーーーーーーー



未来終了。


色彩が戻った。


「ノート・・・」


コウは思い出す。


ここ数日。


詩織を観察する中で何度も見た。


食堂。


図書室。


校庭のベンチ。


教室では決して開かない。


だが人目の少ない場所では、いつもそのノートに何かを書き込んでいた。


あれは何だ。


メモ帳か。


日記か。


それとも。


ラブレターに関係する何かか。


コウは考え込んだ。


どうにかして読めないだろうか。



ーーーーーーーーーーーーーーー



翌日。


昼休み。


校庭の片隅。


木陰のベンチで詩織がノートを広げていた。


真剣な顔で何かを書いている。


やがて。


一人の少女が近づいてきた。


田中美雪。


「みおせんせー!」


詩織が顔を上げる。


「だからその名前で呼ばないでください」


「いいじゃん」


美雪は笑う。


「誰も気づかないって」


詩織はため息を吐いた。


「今週も更新できそう?」


「四週間分ストックありますから」


「さすが!」


そこでコウの思考が止まる。


更新。


ストック。


先生。


「・・・あ!」


理解した。


コウはスマホを取り出した。


検索。


小説投稿サイトだ。


みお。


ミオ。


美緒。


美央。


無数にヒットする。


「違うな……」


さらに探す。


そして。


見つけた。


MIO。


作品一覧。


その中の一作。


『僕らの青春・・・』


コウはページを開いた。


読み進めるコウ。


「な?! なんだこれ!」


主人公。


親友。


幼馴染。


双子の姉。


「……おいおい」


登場人物の設定に心当たりがあり過ぎる。


コウは


頭を抱えた。


だが、わかった。


詩織が伸二を見ていた理由。


だが。


それでも分からないことがある。


なぜラブレターを書いた。


そこだけが繋がらなかった。



ーーーーーーーーーーーーーーー



翌日。


校舎裏。


コウは偶然ではなく、意図的にそこにいた。


彼女と二人っきりで話すため、未来視を視て、ここで待ち伏せしていた。


そして。


現れたのは


一条美咲。


田中美雪。


我が相棒は優秀だ。


直情行動型の美咲の未来は視やすい。


そうやって未来視の先の未来をコントロールする。


案の定。


美咲と美雪が話していた。


「伸二はたぶん大丈夫」


「え?」


「もし告白されたら絶対OKすると思う」


美雪が目を丸くする。


「本当ですか?」


「うん」


美咲が胸を張る。


「本人に聞いた」


聞いたのか。


コウは呆れた。


「じゃあ……」


美雪が俯く。


「やっぱり詩織ちゃんに話した方が……」


「そうね」


美咲が頷く。


「黙ったままはよくない」


「でも……」


美雪は苦しそうだった。


「そうしたら、私が勝手にラブレター出したことも言わないといけないし……」


(?! ラブレターを下駄箱に入れたのは美雪なのか?)


「ちゃんと話せば分かってくれるわよ」


美雪は迷っていた。


けれど。


やがて小さく頷いた。


「・・・話します」


「うん!」


「詩織ちゃんに正直に話します」


そう言って二人は別れた。




美咲が去る。


美雪が一人になる。


その時だった。


「僕らの青春トライアングル」


背後から声。


美雪が硬直する。


振り返る。


そこにいたのはコウだった。


「ちょっと話せる?」


逃げられなかった。


美雪は観念したように頷く。


数分後。


「なるほど」


コウはため息を吐いた。


ようやく全体像が見えてきた。


詩織が書いたラブレターの原稿。


それを。


田中美雪が勝手に伸二へ投函した。


「こんなに大事になるとは思わなかったの」


美雪が肩を落とす。


「まあ」


コウは言った。


「差出人の名前も無いし」


「伸二の方は放っておけばいいんじゃないか」


「でも……」


美雪は不安そうだった。


「問題は」


コウが続ける。


「水沢はまだ知らないってことか」


「はい」


「で?」


「詩織には正直に話すことにしました」


コウは頷く。


「それがいい」


「こじれる前にな」



ーーーーーーーーーーーーーーー



 水沢詩織



放課後。


詩織は廊下を歩いていた。


その時。


聞き覚えのある言葉が聞こえた。


「ラブレターさ」


思わず足が止まる。


物陰の向こう。


長谷川伸二と黒田コウが話している。


盗み聞きするつもりはなかった。


しかし。


ふと聞こえてきた一文に。


詩織の体が硬直する。




『あなたと話す時間が好きでした』


『一緒に笑う時間も好きでした』




「これって、かなり近い位置にいる相手ってことだろう? 俺にそんな女友達いないぞ」


「お前に話しかける女子なんて美咲ぐらいじゃないか?」


「え?! じゃあ、やっぱり美咲ちゃんがこのラブレターを・・・」


「バーカ。美咲にこんな文章書けるわけないだろ」




『他の誰かと私への接し方が平等で同じであればあるほど』




「お前のこと、ちゃんと見てくれてるじゃないか」


「え?」


伸二が目を丸くする。


「お前、今、俺のこと褒めた?」


「文章を褒めただけだ」


「えぇ・・・」


詩織の瞳が見開かれる。


それは。


自分が書いた文章だった。


胸の奥が小さく震えた。


違う。


それは創作だ。


小説の登場人物のために書いた文章だ。


なのに。


何度も推敲した。


何度も書き直した。


小説の中で。


ヒロインが主人公へ想いを伝えるための手紙。


そのラブレターの文面。


頭が真っ白になる。


コウは続ける。


「差出人は不明」


「でもなんで、ここで終わっちゃうんだ? 続きがあるもんじゃないの?」


コウは苦笑していた。


「気持ちを伝えるまでで勇気が尽きちゃったんだろ?」




詩織の耳には入らない。


なぜ。


その手紙を伸二くんが持っているの?


なぜ。


私の文章を?


あの日。


なくした便箋。


教室ではない。


図書室でもない。


帰宅前に探した。


結局見つからなかった。


まさか。


拾われた?


誰かに?


そして。


伸二くんの下駄箱に?


「そんな……」


思わず一歩後ずさる。


ガタッ。


植木鉢に足が当たった。


音が響く。


「ん?」


コウが振り返る。


詩織は反射的に走り出した。


逃げるように。


何も考えられなかった。


ただ一つだけ。


自分の書いた創作ラブレターが、


なぜか長谷川伸二の手に渡っている。


その事実だけが、


頭の中をぐるぐると回り続けていた。


「・・・水沢?」


コウが立ち上がる。


だが。


その頃にはもう、


詩織の姿は廊下の向こうへ消えていた。







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