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4月 ラブレター 2 名探偵 美咲


一条美咲は容疑者:水沢詩織を観察していた。


理由は単純だ。


黒田コウが目を付けたターゲットだからである。


くやしいが昔からアイツの推理はハズれたことがない。


昼休み。


美咲は校舎の窓からグラウンドを見下ろしていた。


その視線の先には詩織がいる。


大人しい。


目立たない。


いかにも文芸部らしい文芸部員。


だが美咲は何度も見た。


詩織が長谷川伸二を見ているところを。


ほんの少しだけ。


けれど確かに。


その視線には何かがある。


憧れ。


関心。


好意。


そんなものを感じる。


「なるほど」


美咲は勝手に納得した。


私には視える。


水沢詩織は長谷川伸二に強い想いを抱いている。


だからラブレターを書いた。


でも名前を書けなかった。


そこまで勇気が出せなかった。


「応援しなきゃ」


美咲は深くうなずいた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「見せて」


放課後。


美咲はコウへ言った。


「何を」


「ラブレター」


「ダメだ」


即答だった。


「一瞬だけ」


「ダメだ」


「端っこだけでいいから」


「意味が分からん」


「とにかく見せなさい!」


「伸二のプライバシーだ」


珍しく正論だった。


美咲は不満そうに頬を膨らませる。


「ケチ」


「じゃあお前は瑠璃のラブレターを俺に見せてくれんのか?」


「え?瑠璃姉のラブレターあるの?」


「知らねぇよ」


結局見せてもらえなかった。


ラブレターさえ手にすればもっと色んなことが視えてくるのに。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



その日の放課後。


美咲は一人で伸二の下駄箱へ向かった。


ラブレターが発見された場所。


現場を見れば何か分かるかもしれない。


「ふーん……」


伸二の下駄箱を見つめる。


そして。


美咲は想像した。




恋する少女が、


ずっと抱えてきた恋心を、


とうとう形にする。


何度も何度も書き直したラブレターを握りしめ、


勇気を振り絞ってここに立つ。


誰にも見られないように、


下駄箱に手紙を収め、


どうか気持ちが届きますようにと、


最後の祈りを添えて、


ここを後にする。



想像しただけで美咲の体温が2℃は上昇した・・・気がした。


伸二の下駄箱にそっと触れる美咲。


美咲は、ラブレターを出したかのがまるで自分かのような錯覚すら感じた。


「え?」


美咲は違和感に気づいた。


そのときだった。


「あ・・・」


声が聞こえた。


振り返る。


そこに立っていたのは田中美雪だった。


詩織と同じ文芸部の少女。


この数日、美咲は詩織を追い続けてきた。


詩織と美雪が一緒にいるところを何度も見ていた。


そして。


美雪の視線の先は、


伸二の下駄箱で止まった。


なぜか美雪の顔色が変わった。


目が合った瞬間。


逃げた。


「待って!」


美咲も反射的に追いかける。


逃げる美雪。


追う美咲。


廊下。


階段。


中庭。


ようやく追いつく。


「捕まえた!」


「ひっ!」


しかし。


「なんで追ってくるんですか?」


「だって逃げるから」


「何でもありません!」


「いや絶対何かあるでしょ!」


振りほどかれる。


また逃げられる。


何度かそんなやり取りを繰り返した。


だが。


美雪は話してくれない。


ただ逃げるばかりだ。



ーーーーーーーーーーーーーーー



美咲は考える。


美雪の慌て様。


間違いない。


ラブレターを伸二の下駄箱に置いたのは美雪だ。


絶対に間違いない。


ということは、あのラブレターは詩織ではなく美雪が書いたラブレター?


いや、"あの"コウが「詩織のラブレター」と言うなら間違いはないだろう。


アイツが予測推測を誤ったところは見たことがない。


実際、アイツは詩織を追っていたのだから、私に嘘をついているというのも考えづらい。


なぜ詩織が自分で置かなかったのか?


よその教室に手紙を置くならまだしも、下駄箱なんて誰がいても怪しまれない。


他人に頼む理由がない。


詩織が出せない理由。


美雪が代行する理由。


もし。


私が詩織の立場なら・・・


うん、絶対に自分で出す。


ダメだ。


よし、もし私が美雪の立場なら・・・


詩織役は瑠璃姉。


瑠璃姉の部屋へ入ると、瑠璃姉が机に向かってアイツへのラブレターを書いている。


私は聞く。


「それで、


 いつ渡すの?」


それを聞いた瑠璃姉は答える。


「***」


!!


胸がしめつけられる。


それを知った自分ならどうするだろう。


きっと。


背中を押したくなる。


届けてあげたくなる。


瑠璃姉のことが大好きだから。


「あ」


そこでつながった。


美雪も同じなのではないか。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



翌日。


また美雪を見つけた。


今度は逃げられる前に言う。


「詩織ちゃんの恋を応援したかったんでしょ?」


美雪が止まる。


逃げなかった。


「詩織ちゃんのラブレターを伸二の下駄箱に入れたの、美雪ちゃんね?」


「・・・」


しばらく沈黙。


「詩織ちゃんは知らないんでしょ?」


「お願いです! 詩織ちゃんには黙っててください!」


「うん」


やがて美雪がぽつりと言う。


「私は……」


言葉を探している。


「力になりたかっただけです」


それ以上は語らない。


だが。


美咲には十分だった。


「私も応援する」


「え?」


「詩織ちゃんと伸二」


固まる美雪。


数秒後、


美雪はようやく口を開いた。


「あ、ありがとうございます。。。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



その後。


美咲は長谷川伸二を呼び止めた。


「ちょっと聞きたいことあるんだけど」


「なんだ?」


「好きな子いるの?」


伸二が固まる。


「え?」


「いるの?」


「いないけど」


「本当に?」


「なんだよ急に」


そして。


「まさかお前、俺のこと・・・?」


「はぁ!?」


美咲の声が校舎に響いた。


「ふざけんじゃないわよ!」


「じゃあなんで聞くんだ!」


「例えばの話よ!」


慌ててごまかす。


「例えば!」


「おう」


「伸二のことが好きな子がいたとして!」


「うん」


「告白されたら付き合う?」


「付き合う」


伸二は即答する


「早っ!?」


「そんなチャンス逃がすわけないだろ」


真顔だった。


「相手がどんな子かもわからないのに?」


「俺のこと好きになってくれる子なら絶対いい子だ」


「・・・あんたねぇ」


美咲は頭を抱えた。


だが。


少なくとも伸二に問題は無さそうだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



一方。


コウは偶然、美咲が美雪を問い詰めているのを目撃していた。


コウが美咲にラブレターの件を話したのは、何も美咲の動きを抑えたかっただけではない。


美咲なら必ず行動を起こす。


そして、それはナニカの起点になって、ナニカが動く。


そういう意味では、美咲はこれ以上ない働きをしてくれている。


一条美咲。


そして田中美雪。


二人が話している。


「田中美雪・・・?」


コウは眉をひそめた。


美咲と接点などあるようには思えない。


なぜ美咲が文学部の田中美雪と話している。


その瞬間。


未来視。


世界から音が消える。



ーーーーーーーーーーーーーーー



水沢詩織。


田中美雪。


二人が向かい合っていた。


何かを話している。


そして。


次の瞬間。


詩織が美雪に背を向けて走り出した。


逃げるように。


泣きそうな顔で。



ーーーーーーーーーーーーーーー



未来視終了。


現実へ戻る。


「田中美雪・・・」


コウは考える。


今回のラブレター騒動。


そこに田中美雪が関わっている。


間違いない。


そして。


詩織と美雪の共通点。


文芸部。


「行ってみるか」


コウは一人呟いた。


答えはまだ見えない。


だが。


文芸部の部室へ行けば。


何かが分かる気がした。






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