4月 ラブレター 1
4月のエピソードは毎日投稿します。
体育館裏。
コウは、伸二からラブレターを受け取る
「中、見ていいのか?」
「ああ、読んでくれ」
コウは、封筒から手紙を取り出す。
中には便箋が一枚。
丁寧な文字で文章が書かれている。
”あなたと話す時間が好きでした。
一緒に笑う時間も好きでした。
ずっと友達だと思っていました。
きっとこれからも変わらないのだと思っていました。
でも、それは違ったみたいです。
気づいたきっかけは、
本当に些細なことでした。
あなたは誠実な人。
誰でも分け隔てなく接してくれる。
でも、他の誰かと私への接し方が平等で同じであればあるほど、
寂しいと思う自分がいました。
そんなことが増えてから、
ようやく気づきました。
友達だと思っていた気持ちは、
それだけではなかったことに。
私は、あなたのことが好きなんだと思います。”
差出人の名前は無かった。
「どう思う?」
伸二が聞く。
「どうって?」
「本物かな」
「知らん」
さっきの未来視を思い返す。
夕暮れの体育館裏。
一人の少女が立っている。
知っている。
隣、2年4組の水沢詩織。
たしか一年の時に同じクラスだった少女。
大人しくて、本ばかり読んでいて、たしか文芸部に入っていた。
それくらいしか知らない。
詩織は深く頭を下げていた。
異様なくらい長く。
微動だにしない。
そしてその前には伸二。
こちらも様子がおかしい。
必死に何かを話している。
しつこく説得しているように見える。
少なくとも。
告白を受けた男子には見えなかった。
むしろ。
伸二が告白して。
詩織に断られ。
食い下がっているようにも見える。
そこで未来は途切れた。
「おい」
伸二の声で現実へ戻る。
「またボーっとしてたぞ」
「・・・ああ」
コウは便箋を見下ろした。
水沢詩織。
なぜあの娘なんだ?
なぜあいつなんだ。
そして。
あれは本当に告白なのか。
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翌日以降、コウはそれとなく水沢詩織を観察し始めた。
コウは二年四組の前にいた。
もちろん堂々と見張るわけではない。
掲示板を見る振りをしながら教室の中を観察する。
窓際。
水沢詩織が本を読んでいた。
やがて顔を上げる。
その視線の先。
廊下を歩く伸二。
コウは注意深く観察した。
確かに見ている。
だが。
なにかがオカシイ。
恋している目には見えない。
熱がない。
表情がない。
伸二が通り過ぎた後は、何事もなかったかのようにノートに向かい勉強をしている。
そんな視線だった。
「変だな・・・」
そのとき。
「何が?」
「うわっ!?」
背後から声がした。
一条美咲だった。
「また水沢さん見てる」
「違う」
「違わない」
「違う」
「違わない」
即答である。
「瑠璃姉という婚約者がいながら!」
「どっちも違う」
「浮気なんて最低!」
美咲は聞く耳を持たない。
その一部始終を。
図書委員の当番へ向かう途中の伸二が見ていた。
「・・・」
コウが水沢さんを見てる・・・
そして伸二の中に小さな疑惑が生まれた。
まさか。
コウ、水沢のこと好きなのか?
伸二。彼は純粋な少年なのだ。
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その後。
コウは何度も詩織を追った。
そして。
毎回、美咲に邪魔される。
校舎裏。
中庭。
図書室前。
「なんでいる」
「こっちの台詞」
「お前ストーカーか」
「違う」
「じゃあ帰れ」
「帰らない」
意味が分からない。
最終的にコウは諦めた。
「分かった」
「何が?」
「ちょっとついてこい」
放課後。
誰もいない中庭。
コウは事情を説明した。
長谷川伸二に差出人不明のラブレターが届いたこと。
筆跡から水沢詩織の可能性が高いこと。
伸二には水沢のことは話していないこと。
「つまり」
美咲が腕を組む。
「水沢さんが本当に犯人か調べてる?」
「犯人言うな」
「なるほど」
美咲は深く頷いた。
「じゃあ、協力してあげる」
「いらん」
「する」
「いらん」
「私に任せないさいよ」
「・・・」
こうして。
コウは最悪の協力者を得た。
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一方。
長谷川伸二は勝手に結論を出していた。
コウは水沢詩織が好き。
そう考えると全部説明がつく。
最近やたら四組を見ている。
詩織を観察している。
美咲も同じことを言っていた。
そして決定打。
昼休み。
「なあ伸二」
「ん?」
「水沢って去年、俺たちと同じクラスだったよな。」
「そうだけど?」
「仲良かったのか」
「別に」
「よく話してた?」
「そんなに」
「そうか」
コウは考え込んだ。
調査のためだった。
詩織と伸二の接点を知りたかっただけ。
だが伸二は違う。
(うわ)
(水沢のこと聞いてる)
(完全に気になってるやつじゃん)
そして。
長谷川伸二は決意した。
親友の恋を応援しよう。
長谷川伸二。彼は純粋な少年なのだ。
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数日後。
「コウ」
伸二だ。
「なんだ」
「図書室の棚卸手伝ってくれ」
「嫌だ」
即答だった。
「頼む!」
「嫌だ」
「早く終わらせて遊び行こうぜ!」
「一人で行け」
「親友だろ!」
「関係ない」
だが伸二は諦めない。
十分後。
コウは図書室にいた。
「なんでこうなった」
「お前はいいヤツだな」
「まだ引き受けてない」
実際のところ。
コウにも思うところがあった。
水沢詩織。
これまでコウと詩織に接点はない。
調査をさらに一歩先へ進める機会にはなる。
だから渋々来た。
図書室の奥。
既に棚卸作業が始まっていた。
水沢詩織が本棚の前で目録を持っている。
「水沢」
伸二が声をかけた。
「長谷川くん」
「そっち手伝うよ」
詩織の持つ目録の一部を受け取る。
そして。
それをそのままコウへ押し付けた。
「じゃあ、コウはこっちを頼むな」
「は?」
「頼んだ」
「待て」
「すぐ戻る!」
戻らなかった。
伸二は逃げた。
見事な逃亡だった。
残されたのは。
コウと詩織。
気まずい沈黙。
しばらく棚の番号を確認していた時だった。
「黒田くん」
先に話しかけてきたのは詩織だった。
「ん?」
「私のこと、見てました?」
コウの手が止まる。
「は?」
「最近、よく四組の前にいますよね」
「いや」
一瞬否定しかける。
だが無理だった。
見ていた。
実際に見ていた。
「まあ・・・居たかもしれん」
「そうですか」
詩織はそれ以上追及しない。
怒るわけでもない。
不審がるわけでもない。
ただ納得したように頷いた。
そして。
「本は読みますか?」
「あー、歴史ものとか」
「日本史ですか? 世界史ですか?」
「どっちかと言うと日本史かな」
「なるほど」
会話終了。
そう思った。
「好きなゲームはありますか?」
「なんで続くんだ」
「参考までに」
「参考?」
「はい」
意味が分からない。
「フォート●イトとかバイオ●ザードとか」
「アクションシューティング系ですね」
(ゲーム好きなのか?)
「では、好きな映像作品は?」
「なんか取り調べされてない?」
詩織は少し考えた。
そして真面目な顔で答える。
「参考です」
ますます意味が分からない。
だがせっかくの機会だ。
こちらも聞いてみる。
「水沢は・・・」
「はい?」
「文芸部なんだろ」
「そうですね」
「何読んでる」
「色々です」
曖昧だった。
うまく誤魔化された気もする。
探ろうとするコウ。
何かを知ろうとする詩織。
お互い気づかないまま。
二人は同時に相手を観察していた。




