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プロローグ 未来が見える少年

なろう小説、始めます! よろしくお願いします。

 

二週間前。


黒田コウは、新学期のクラス表を見上げる未来を視た。


二年三組。


黒田 孝(コウ)


一条 ・・・


長谷川 ・・・


そして今日。


二週間前に視た光景が、そのまま目の前にあった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



高校二年生の春。


桜が散り始めた四月の朝。


校舎前の掲示板には大勢の生徒が集まっていた。


「マジかよ! お前とまた一緒か!」


「やったー! 友達みんな同じだ!」


歓声。


悲鳴。


ため息。


新学期らしい騒がしさだった。


コウは少し離れた場所から、その光景を眺めていた。


二年三組。


黒田孝。


一条瑠璃。


そしてその他のクラスメイトたち。


驚きはない。


感動もない。


知っていた未来を確認しただけだ。


「はあ……」


小さくため息が漏れる。


未来視という能力は、ときどき人生をつまらなくする。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



能力に目覚めたのは高校一年の夏だった。


原因は分からない。


ある日突然高熱を出し、三日三晩眠り続けた。


目を覚ました時には熱は下がっていた。


代わりに未来が見えるようになっていた。


見えるのは数秒。


音も聞こえない。


断片的な映像だけ。


だが一つだけ確かなことがある。


見えた未来は必ず現実になる。


一度も外れたことがない。


最初は気のせいだと思った。


コウは昔から勘が良かった。


去年まではサッカー部のゴールキーパーだった。


相手がどこへ蹴るのか。


どこへ飛べば良いのか。


昔から自分の読みが妙によく当たった。


だが未来視が目覚めてからは違う。


飛んでくるボール。


シュートコース。


味方の動き。


相手の動き。


全部見える。


簡単に止められる。


簡単すぎる。


そして恐ろしく疲れる。


前半が終わる頃には頭痛で立てなくなることもあった。


なによりつまらなかった。


結果の分かっているゲームほど退屈なものはない。


結局、コウは一年の秋にサッカー部を辞めた。


今でもサッカー部のエース、伊東京介だけはしつこく誘ってくる。


「お前が戻れば全国狙えるんだけどなあ」


会うたびに同じ台詞を聞かされる。


コウからすれば勘弁してほしかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 教室



「コウ」


不意に呼ばれる。


振り向く。


一条瑠璃が立っていた。


長い黒髪。


穏やかな瞳。


誰が見ても美人だと認める容姿。


街を歩けばスカウトに声を掛けられる。


そんな話も珍しくなかった。


「おはようございます」


「……」


コウは返事をしない。


瑠璃は少しだけ寂しそうに笑った。


それでも責めない。


昔からそうだった。


変わったのはコウの方だ。


一条瑠璃は幼馴染だった。


物心がつく前から一緒に育った。


そして。


コウの許婚でもあった。


黒田家と一条家。


どちらも古い家だ。


平安時代まで遡れるらしい。


親たちはそういう話が好きだった。


コウは興味がない。


だが親同士が勝手に決めた婚約だけは今も残っている。


昔は嫌ではなかった。


瑠璃は優しい。


気が利く。


そして綺麗だ。


嫌う理由などどこにもない。


だが。


未来視が全てを変えた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



高校一年の夏。


コウは未来を見た。


高校三年の春。


病院で取り違えられた赤ん坊。


黒田家の本当の息子。


そして。


家を出ていく自分。


黒田コウは黒田家の実子ではない。


未来視はそう告げていた。


だから距離を置いている。


瑠璃とも。


いずれ婚約は消える。


いずれ他人になる。


だから・・・



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ゴンッ。


後頭部に衝撃が走った。


「なんなの、その態度!」


一条美咲。


瑠璃の双子の妹だった。


活発。


明るい。


お節介。


学年でも顔が広い。


そして昔からコウに厳しい。


「別に普通だろ」


「全然普通じゃない」


美咲は腕を組む。


「瑠璃姉が可哀想」


「美咲ちゃん……」


瑠璃が困ったようにたしなめる。


美咲は不満そうに言った。


「だいたい、こんな美人に話しかけられてシカトとかありえないんですけど!このミジンコが!」


「さりげなく自分も含めて美人と言ったな」


「ミジンコのくせによく分かったわね」


「それ、褒めてんのか?」


「こんな美人姉妹に話しかけられるなんて光栄に思いなさい!」


「自分で言うな」


「美咲ちゃん、本当にいいから」


瑠璃は苦笑した。


コウは視線を逸らした。


こういうやり取りも慣れたものだった。


本当に良い姉妹だ。


できれば、いつまでも昔のような幼馴染の関係でいたかった。


だけど、


いずれ自分は黒田家から出て行く。


いずれ瑠璃とも他人になる。


その未来を知ってなお、


これまでどおりに振る舞うことは俺には出来なかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



放課後。


教室の窓からグラウンドを眺める。


サッカー部が練習していた。


そこに自分の姿はない。


もう戻る気もなかった。


コウは一人計算する。


あと一年。


高校三年の春。


取り違えの事実が明らかになる未来。


黒田家を出る未来。


居場所を失う未来。


未来視は何度もそれを見せてきた。


だから金が必要だった。


自立するための金。


未来視を使えば方法はいくらでも思いつく。


競馬、競輪、宝くじ、株式・・・


だが未成年が親に隠れて大金を扱うことには限界がある。


それでも。


準備は始めている。


高校生らしからぬ場所と手段で。


周囲に悟られぬよう、


慎重に。


「はあ……」


思わずため息が漏れた。


未来が見える。


それなのに将来は不安しかない。


我ながら皮肉な話だった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



帰宅しようと昇降口へ向かう。


すると下駄箱の前で見慣れた顔を見つけた。


「伸二!」


長谷川伸二。


悪友。


同じ帰宅部。


勉強も運動もそこそこ。


人当たりの良いお調子者。


本来なら人の輪の中心にいてもおかしくない。


だが、こいつには唯一にして致命的な欠点があった。


妙なトラブルを引き寄せる才能だけは一流。


しかも本人は一向に反省しない。


ゆえに少し孤立気味。


なぜ俺がこんなトラブルメイカーと付き合っていられるかと言えば、


俺には、こいつが引き起こすトラブルを事前に知る能力があるからだ。


そんな不幸を呼ぶ男、伸二に俺は声をかける。


「珍しいな」


「何がだ」


「お前がまだ学校にいる」


「ああ」


伸二は曖昧に笑った。


どこか様子がおかしい。


「どうした?」


「ちょっと来てくれ」


「嫌だ」


「頼む!」


「面倒そうだから嫌だ」


「そこをなんとか!」


結局。


コウは半ば引きずられるように体育館裏へ連れて行かれた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「これ」


伸二が差し出したのは一通の封筒だった。


淡いピンク色。


可愛らしいシール付き。


一目で分かる。


「ラブレターか」


「やっぱそう見えるよな?」


「どう見てもそうだろ」


伸二は封筒を見つめる。


そして真剣な顔で言った。


「なあコウ」


「なんだ」


「これドッキリだと思うか?」


コウは呆れた。


心の底から呆れた。


「まず最初に疑うのがそこなのか」


「だって俺だぞ?」


「知らん」


「俺だぞ?」


「だから知らん」


その瞬間だった。


未来視が発動した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



夕暮れ。


校舎裏。


伸二と、


伸二に向かって、震えながら頭を下げ続ける女子の背中。


慌てる伸二。


地面へ落ちる一通の手紙。



ーーーーーーーーーーーーーーー



未来が途切れる。


現実へ戻った。


「おい?」


伸二が覗き込んでくる。


「またボーッとしてるぞ」


「。。。ああ」


コウは封筒を見る。


どうやら。


このラブレター。


ただのラブレターでは終わらないらしい。


嫌な予感がした。


そして。


コウの未来視に外れはない。


つまり。


この騒動は、まだ始まったばかりだった。





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