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稀人ラ・ラ・ラ  作者: ノコギリマン
第一部 監獄街編
14/22

第十四話 部下を治す——トキヤ・ガル


「お疲れ様です。お忙しい中、よく来てくださいました」


 アマダレが眠る病室に通されたふたりの王撰兵、ヒビ・タールとウエン・クインを労う。


「疲れているのは、あんただろ」


 抑揚のない声でクインが言う。特徴のないどこにでもいそうな少女だ。


「す、すいません。クインは少し変な子なので」


 焦りながら詫びるタールは、眼鏡をかけたおとなしそうな少年だった。王撰兵の中で二番目に強い能力である「炎」の稀人だというのが信じられない。


 ベッドに眠るコイケ・アマダレ中級調弦官を見る。右腕は折れ、頬は腫れあがり、頭蓋骨は割れ、肋骨は砕けている。忠義心だけで命をつないでいる状態だ。


「早速ですが、部下を治して頂きたい」


 頼むと、クインがアマダレの顔の上に右手をかざした。


「う……」


 少しの間を置いて、か細く呻いたアマダレが目を開いた。


 すべての負傷がなくなっている。


 手をかざすだけ。噂以上だ。奇跡にも等しい能力。


「素晴らしい能力だ。俺はハイジマ・テン中級調弦官。よろしく」


 テンが差し出した手をクインは無視した。


「ごめんなさい。クインはああいうひとなので」


 タールが申し訳なそうにして言うと、


「獄長、ここは?」


 目覚めたアマダレが訊いた。


「軍病院だ。十日前、きみは黒いネズミに暴行をうけて搬送された」

「思い出しました」


 苦しそうに身を起こすアマダレ。


「黒いネズミは、恐らく身体能力を引き上げられる能力かと」

「厄介だな」

「はい。ですが、奴は私に触れた。追跡することができます」

「へえ。面白い能力だね」


 クインが興味深そうに顔を近づけ、両手でアマダレの頬を包み込んだ。


「無礼者!」


 アマダレに両手を振り払われたクインが、初めて笑みを浮かべた。


「いま、あんたに触れたけど?」


 ありえない。クインは、好奇心だけで私たちの計画を潰そうとした。


「問題ない。能力発動には条件がある」

「どんな?」

「貴様に教える義理はない」

「ひどいな。治してやったのに」


 クインの言葉に驚いたアマダレが説明を求めるように私に視線を移した。


 ふたりが王撰兵であることと、クインとタールの能力を教える。


「大変、失礼しました。王撰兵であられましたか」


 相変わらずの堅苦しさでアマダレがクインに頭を下げる。


「それで、アマダレ。追跡はできそうか?」

「お任せください。ミルザ様にご同行いただき、拘束して頂きたく存じます」


 ミルザの死をどう告げればいいか、迷う。コイケ・アマダレ中級調弦官は、ミルザに憧れて監獄街への配属を希望したと聞く。軍人には死がつきもので、受け入れる覚悟がある。この場にいる者の中で、ミルザの死を知っているのは私だけだ。


「ミルザは四日前に殉職した」


 私の言葉が聞こえなかったのか、アマダレはぽかんと口を開けたままだった。


「私が黒いネズミを捕り逃したから……?」


 アマダレは動揺を隠せずに、はじめて私に敬語を使わなかった。


「そうではない。すべての責任は私にある」


 これ以上の詳細は伏せておくべきだと思った。私が眠りに落ちている間の、ミルザの独断による行動だと知れば、アマダレは自分を責めることになる。


「中級調弦官を殺せるほど強い稀人がいるんですか?」


 目を輝かせたタールが割って入る。調子が狂う。


「いま現在、監獄街には、ピアスマンとドロウイングという二名の殺人鬼。黒いネズミと呼ばれる構成人数不明の盗賊が野放しの状態です」

「王撰兵にスカウトしたいです」

「は?」


 聞いていなかったのか?


「殺人鬼に盗賊です。捕らわれて罪を裁かれるべき者たちです」

「大丈夫です。強ければ犯した罪なんてどうでもいいんです。僕たちもそうでした」


 会話になっていない。クインの異様さは感じたが、タールという少年もまた、一般的な感覚から大きくズレている。王撰兵は異質な集団だと聞いていたが、これほどか。


「王撰兵は軍の管轄外なので、私からは承諾も拒否もできません」

「そっか。そうですよね」


 あっさりと言ったタールが、


「あ、おはようございます」


 と、視点の合わない顔でとつぜん挨拶をした。


 ここ数日の激務も相俟って、ふたりの王撰兵に苛立ちを覚える。これ以上、厄介ごとを増やさないでくれ。


「一体、なんの真似です?」


 怒りを抑えながら訊く。


「はい。任務は終了しました。ですがこのまま帰るのはもったいなさそうです」


 私の問いかけに答えることもなく、タールはひとりで話し続けた。


 説明を求めてクインを見ると、そっぽを向かれた。


 このふたりは、あまりにも危うい。これ以上、厄介ごとは増やしたくなかった。


「え、ほんとですか。じゃあ、その人たちも必ず仲間にしてきます!」


 どうやら、厄介ごとが増えたようだ。


「許可が下りました。クイン、がんばろう!」


 クインの手を取り、タールはおもちゃを買い与えられた子供のように何度も飛び跳ねた。


「あ、それから二名の『王撰兵拒否者』への面会も求めます」


 一瞬、なにを言われたのか理解できなかった。


 なぜこの少年は監獄街の暗部を知っている?



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