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稀人ラ・ラ・ラ  作者: ノコギリマン
第一部 監獄街編
13/22

第十二話 ミケを捜す——ノラ


 ヘマをうった日から六日後。


 玄関ドアをノックする音が聞こえた。


 動けない状態の俺の代わりにキッドがドアを開けると、軍服姿の男が立っていた。


「話がある。入れてくれ」


 ヌルっとした声で言って、男はヌルっと家に上がった。


「警戒するな。お前たちに依頼したいことがある」

「なんの依頼だ?」

「二日前、コロシアムで大量殺戮事件が起きたのを知っているか?」


 キッドの質問に、男が質問で返す。


「噂で聞いたが、詳しいことは知らない」

「ひとりの中級調弦官を含む軍人が三十六人、稀人が二十五人、合わせて六十一名の犠牲者が出た。行方不明になっている一名の下級調弦官の他の生存者は不明」


 稀人が殺された? ミケやマルは無事なのか?


「稀人は銃殺されている者ばかりだったが、軍人側は三十五人が窒息死。取り


 仕切っていた中級調弦官は全身を穴だらけにされて失血死した」


「ピアスマンに、ドロウイングか」


 驚くキッドに男が頷く。調弦官が家にいるという異常事態をはるかに上回る異常事態だ。


「…あ……あ、んたは、何者だ?」


 力を振り絞って訊くと、


「名乗るのが遅れたな。俺はハイジマ・テン中級調弦官」


 と自己紹介を済ませて、テンは軍帽を脱いだ。


「中級調弦官がなんの用だ? 俺たちはただの一般市民だぜ」

「ふっ、白々しいな。お前らが黒いネズミなんだろう?」


 ニヤリと笑うテンのこめかみに、素早く拳銃の銃口を押し当てるキッド。


「穏やかじゃないな」


 テンがからかうように両手を上げる。


「一般市民が拳銃を所持しているわけがないよな」

「捕まえに来たのか?」

「だったら、もっと大人数で来ている。言っただろ、依頼したいことがあるって」

「なにを依頼したい?」

「洞穴食堂の従業員、ミケは知っているか? 『調味』の能力を持つ稀人だ」

「ミケを知らないヤツはいねえよ」

「ミケもコロシアムに集められた稀人のひとりだった」

「……死んだのか?」


 キッドのこめかみを汗が伝う。


「いや、行方不明だ」


 ミケが殺人鬼? ありえない。


「事実としてあるのは、あの場にいたミケ以外の人間はみんな死んでいることだ」

「な、なんで……俺は強制連行されなかった?」


 浮かんだ疑問をぶつけると、


「監獄街に移送された稀人の情報はリスト化されているんだが、お前たちはリストに入っていなかった。まさかとは思うが、お前ら無能力者じゃないよな? コイケ・アマダレ中級調弦官が無能力者にやられたとは思えない」


 と、テンがまた質問返しをした。


「……俺は無能力者だが、あいつは稀人だ」


 言って、キッドが銃を下ろす。


「あいつがリストに入っていないっていうのは、どういうわけだ?」


 信用するかはさておき、話だけは聞くことにしたようだ。


「軍は移送された犯罪者と稀人をリスト化しているが、監獄二世の稀人なんていうレアケースはリストから漏れている」

「あいつが監獄二世だって?」

「あいつとかこいつとか、ややこしいから名乗ってくれないか?」

「俺はキッド。あいつはノラ」

「キッドに、ノラ、ね」


 反復しながら、図々しくテンは床に腰を下ろした。


「とにかく、俺は敵じゃない」

「……ミケがピアスマンかドロウイングのどっちかってことか?」

「分からん。殺された中級調弦官の独断で行われた作戦だからな。獄長も知らなかった」

「どういうことだ?」


 コロシアムで起きた惨劇の発端は、ここ数年、黒いネズミ、ピアスマン、ドロウイングの捜査が難航していることで疲弊していた獄長を助けるため、プリヤ・ミルザ中級調弦官が独断で行った作戦だったらしい。俺が女の調弦官——コイケ・アマダレをぶっ飛ばしたことが引き金になった可能性が高い。


「だから西区の稀人を集めて皆殺しにしようとしたってのか?」

「分からん。作戦はミルザの独断で、ミケ以外の当事者は全員、死亡している」

「で、俺たちになにを依頼したいんだ?」

「ミケを軍よりも先に捜し出してほしい」

「は?」


 戸惑うキッドと一緒で、俺にもテンの意図が分からなかった。


「俺は今、裏でディバロと組んで監獄街を乗っ取る計画を立てている。戦力補強のためにピアスマン、ドロウイング、黒いネズミをウラで捜していた——」


 ——テンの能力は『強化』、能力者の能力を強化する能力。副作用として強化した能力を一回だけ使うことが出来る。テンは入院中のアマダレに触れ、『追跡』の能力を使って、ここにたどり着いた。


「……信じたくはないが、あんたがここにいるんなら、信じるしかないな」

「ああ。四日後には『治癒』の能力者が監獄街に着き、アマダレが目を覚ますことになる」

「ディバロの仲間になれってことか?」

「ふたりだけでどうにかなるのか?」

「……」


 キッドが考え込む。


 俺たちの正体がバレるのも時間の問題ということか。


「アマダレっていう調弦官を殺すことは?」

「無理だな。警備が厚すぎる」


 八方ふさがりだ。


「まだノラは動けない。あと二日は寝たきりだろうな」

「俺にも誤算だった。キッド、こうなったらお前がミケを捜すしかない。黒いネズミとピアスマンとドロウイングをディバロに引き込めれば、監獄街は掌握できるはずだ」


 キッドとテンの会話を聞きながら、俺はミケのことが心配でしょうがなかった。


 出会ったとき、ミケは絶望したような顔で泣いていた。こんな街にいちゃいけない、普通の女の子だ。放っておけなくて、家に住まわせてやって、働き先まで見つけてやった。俺を助けてくれたキッドみたいに、俺はミケを助けた。


 ミケはまた、どこかで泣いているのかもしれない。


 ミケを助けてやれるのは、俺とマルだけだ。


 マル——あいつも稀人だ。


 もしかしたら、マルはコロシアムにいたのかもしれない。マルなら、ミケを守るために一緒にコロシアムに行った可能性がある。


 ミケが人を殺すとは思えない。だが、マルは? 過去を語りたがらない女だった。マルが本当の能力を隠している可能性はある。それにミケのためなら人を殺せる気がした。



 殺人鬼の正体がマルという可能性は、テンには伝えない方がいい。


 この男は、信用できない。


「決心がついたら、南区の廃校舎に来い。ディバロのアジトだ」


 あっさり引きさがったテンは、軍帽を被りなおして家から出て行った。



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