第88話 巨大フロート基地の建設
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荒波の海上で始まった、人工島(フロート基地)の組み立て作業。
鉄を打つ整備士、木を操る船大工、音と石を統べる調律師。3人の職人による熱い共闘をお楽しみください!
荒々しい白波が立つ大海原で、巨大なフロートを履いたアルバトロス号は波に激しく揺らされながらも、プロペラの推力でピタリと位置を保っていた。
カイルとシェリルが観測した「第一ステーション」の建設ポイントは、海面すれすれに隠れた巨大な岩礁の真上。ここで海水を吸い上げ、はるか上空の島々へ送り届けるのだ。
「水深、潮流ともに計算通りだ! レオ、このポイントで位置を固定してくれ!」
カイルが風速計とアストロラーベを見比べながら叫ぶ。
「了解! ルシアン、アンカーを落とす! 結界を解除してくれ!」
「承知した!」
ルシアンが音叉の共鳴を止めると、アルバトロス号を包んでいた蒼い結界がスッと消え去った。
途端に、外を吹き荒れる強烈な潮風と冷たい波飛沫が、容赦なく船体と僕たちの生身を打ち据えてくる。結界に守られた無風空間とは大違いだ。
僕はクレーンの操作盤を叩き、太い鋼鉄のワイヤーを甲板から海面へと降ろした。
ワイヤーの先には、僕が『古代の神鋼』から鍛え上げた巨大なアンカーが吊り下げられている。
「セト! 波が荒いぞ! アンカーの着底、見極めを頼む!」
「任せろ!」
セトは甲板の縁から身を乗り出し、荒波に揉まれる海面を鋭い目で睨みつけた。彼の野生の勘と、波のうねりを読む目は、機械のセンサー以上に正確だ。
「……今だ! 落とせ!!」
セトの叫びと同時に、僕はウィンチのブレーキを一気に解放した。
凄まじい勢いでワイヤーが繰り出され、数百キロの神鋼のアンカーが波を突き破り、海底の岩礁へと真っ直ぐに突き刺さる。
ガガォォォンッ!!
鈍い衝撃がワイヤーを伝って船体まで響いた。
「刺さったぜ! ウィンチ巻き上げ、テンションをかける!」
僕はエンジン出力を上げ、ワイヤーをピンと張った。荒波に揉まれても、アルバトロス号は海底の岩礁とアンカーでしっかりと固定され、絶対の安定を得た。
「よし、足場は確保した! こっからは『海上の組み立て作業』だ!」
僕は操縦席を飛び出し、甲板のクレーン操作盤へと向かった。
いよいよ、入り江の村で事前に作っておいた「|プレハブ《木材ユニットと神鋼のジョイント》」の出番だ。
「セト、ルシアン! 下へ降りてフロートの組み立てを頼む! 波に持ってかれるなよ!」
「言われずともわかっている。行くぞ、調律師殿!」
「ああ!」
セトとルシアンは命綱を結び、ウィンチのワイヤーを伝って、波打つ海面——打ち込んだアンカーの基部へと降り立っていった。
海面は容赦なく荒れ狂っている。
彼らの体に、冷たい波飛沫と強風が容赦なく叩きつける。
だが、二人の顔に恐怖はない。
僕はクレーンを操作し、最初の『神鋼のコアジョイント』を海面へと下ろした。
「セト! 合わせろ!」
「応ッ!」
セトは波に激しく揺れながらも、ワイヤーに掴まって重たいコアジョイントを受け止め、アンカーの基部へとガッチリと固定した。
「次は木材ユニットだ!」
放射状に組まれる太い木材のパーツが、次々とクレーンで下ろされる。
「そこだ! 押し込め!」
ガキンッ!!
僕が作った複雑な金属の溝に、セトが削り出した木材の凸部が、波の揺れる海上で一発で噛み合う。村で確認した通り、寸分の狂いもない完璧な接合だ。
ザパーン! と大波が打ち付け、足場が激しく揺れる。
しかし、セトは木槌を片手に、濡れた丸太の上を猿のように身軽に飛び回り、次々と送られてくる木材ユニットをコアジョイントにロックしていく。
「ルシアン殿! 右舷の浮力が足りん! 早く石を!」
「わかっている!」
純白だったローブを海水でびしょ濡れにしたルシアンが、木組みの隙間に『浮遊石の原石』をはめ込んでいく。彼は波に足を取られそうになりながらも、調律用の小槌を振るい、水に濡れた音叉を正確に叩いて石の『浮力』を引き出す。
フォォォォン……。
蒼い光が放たれ、沈みかけていた右舷の木組みがフワリと持ち上がり、波の上で安定を取り戻す。
「よし、次! どんどんいくぞ!」
僕がクレーンで資材を下ろす。
セトが組み上げ、固定する。
ルシアンが浮力を与え、安定させる。
アルバトロス号からは、カイルとシェリルが波の周期を読み、「三秒後に大波が来る! 構えろ!」と的確な指示を飛ばす。リゼは「パーツを海に落としたら減給よ!」と檄を飛ばしつつも、固唾を飲んで作業を見守っていた。
鉄を打つ整備士。
木を操る船大工。
音と石を統べる調律師。
全く異なる世界で、全く異なる理を学んできた三人。
だが今、この荒れ狂う海の上で、僕たちの目的は完全に一つだった。
「ルシアン! 最後の石だ!」
「セト、木材の固定を頼む!」
「レオ、クレーンを少し右へ!」
「おうよ!」
言葉の壁も、身分の違いも、穢れという忌避感も、そこにはもう存在しない。
ただ、目の前の巨大な構造物を完成させるという、職人としての純粋な執念だけがあった。
数時間の死闘の末。
太陽が海に沈みかけ、空がオレンジ色に染まり始めた頃。
「……最後の一本、ロック完了だ!!」
セトの叫びとともに、カキンッ! と小気味良い音が響いた。
直径数十メートルに及ぶ、巨大な六角形の『第一ステーション』が、波打つ海原の上にその偉容を現した。
中央の神鋼のコアがアンカーで海底と繋がり、放射状の木組みが波の衝撃を柔軟に逃がし、各所に配置された浮遊石が海面に沈まない絶対の浮力を生み出している。
アルバトロス号から海面のフロートへと飛び降りた僕は、その異常なまでの安定感に思わず息を漏らした。
「……すげぇ。波の上にいるはずなのに、地面の上に立ってるみたいだ」
「当然だ。俺の木組みと、ルシアン殿の調律が完璧に噛み合っているからな」
息を切らし、全身海水と汗にまみれたセトが、木槌を肩に担いで得意げに笑う。
ルシアンもまた、かつて王の使者として見栄を張っていた美しいローブが泥と塩水まみれになっているのを気にする様子もなく、充実感に満ちた表情でフロートを見渡していた。
「君の言う通りだったな、レオ。我々の『盾』の技術と、君たちの『力』の技術……相反するものが組み合わさることで、これほど強固なものが生まれるとは」
「おう。やっぱり俺たち、最高の建設チームだぜ」
僕は油まみれの右手を差し出した。
セトがその手をガシッと握り、ルシアンもまた、ためらうことなく僕たちの手に自らの手を重ねた。
冷たい海水に濡れた手は、労働の熱でひどく熱かった。
「第一ステーション、完成だ!!」
僕たちの歓声が、潮風に乗って夕暮れの海へと響き渡る。
アルバトロス号の甲板からも、リゼたちの歓喜の叫びが聞こえてきた。
沈みゆく国を救うための「天空へのバケツリレー」。
その最も困難な土台作りは、異なる文化を持つ三人の職人の共闘によって、見事に成し遂げられたのだった。
最後まで読んでいただき、感謝です!
言葉の壁も、穢れの忌避も、身分の違いも、そこにはもうありません。
過酷な大自然の中で、一つの巨大な建造物を完成させるという純粋な執念だけで結びついた3人の姿に、胸が熱くなりました。
完成した第一ステーションの上で交わした、固い握手。最高のチームの誕生です!
しかし、極限の肉体労働を終えた彼らには「腹ごしらえ」が必要ですね。
次回、レオの用意していた秘策が火を噴きます。明日も夜に更新します!




