第122話 帰郷、そして狂騒
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ギルドの特務艦隊を従えて、ついに故郷「風鳴りの町ウィンデル」へ!
指名手配犯として撃ち落とされるかと思いきや、下界の様子が少しおかしいようです。
アイアンポートの真っ青な空へ向かって飛び立ってから、どれだけの距離を飛んだだろうか。
行きは燃料メーターの針と食料の残量に怯え、計器が狂う『迷いの峡谷』の暗黒を死に物狂いで抜け、巨大な『白い山脈』の極寒を這いつくばるようにして越えた。
だが今は、王から託された最新の『外界の海図』とシェリルの完璧なナビゲート、そして新生キメラ・ドライブの圧倒的な推力によって、その復路は驚くほど短く、そして快適なものだった。
「……見えてきたよ、レオ! あの山の向こう、私たちの街だ!」
助手席でアストロラーベから顔を上げたシェリルが、前方の地平線を指差して弾んだ声を上げた。
「ああ! 間違いない。親父の工房があった、あの泥臭くて懐かしい田舎町だ!」
僕も、手によく馴染んだ浮根杉の操舵輪を力強く握りしめ、身を乗り出した。
アルバトロス号の後方には、純白のシルフィード号を先頭とするギルドの特務艦隊が、まるで凱旋パレードの護衛のように美しいV字編隊を組んで追従している。
「でも、少し気を引き締めた方がいいわよ」
リゼが後部座席で手帳を閉じ、腕を組んだ。
「私たちは、アイアンポートじゃ一応『英雄』で『特級のビジネスパートナー』になったけど……この辺境の田舎町の連中は、そんなことまだ知らないはずよ。特に、あの嫌味なギルドの駐在官、ガストンとかいう男。私たちを指名手配犯扱いして、対空砲でも向けてくるんじゃないかしら」
「……確かに。彼の性格からして、僕たちが無許可で逃亡し、搬出ゲートを破壊したことを未だに根に持っている可能性は極めて高い。非合理的な末端の権力者ほど、自分の小さな面子に固執するものだからね」
カイルも丸眼鏡を押し上げ、慎重な顔つきでコンソールの結界スイッチに手を掛けた。
「へっ、上等だ。もし撃ってくるなら、この『音叉の結界』で全部弾き返してやるさ。今更、あんな田舎町の大砲にビビる俺たちじゃないだろ」
僕はニヤリと野良犬のように笑い、スロットルを少しだけ絞って高度を下げ始めた。
キメラ・ドライブの力強い和音を響かせながら、雲海を抜ける。
眼下に、見慣れた赤茶けた土と、小さな風車が点在する街の全景が広がってきた。
かつて、僕たちが解体用の重機を足場にして逃げるように飛び出した、ギルドの詰所やスラムのような工場街が見える。
「……おい、なんだあれ。街の広場に、すごい数の人が集まってるぞ」
カイルが窓に張り付き、声を上げた。
「本当だ。それに……大砲みたいな太い筒が、いくつも上空の私たちに向けられてる!」
シェリルが青ざめる。
「やっぱりね! 迎え撃つ気満々じゃない!」
リゼが身構えた。
だが。
ポンッ! ポンッ! パンッ!
上空に向けられた筒から発射されたのは、黒い砲弾ではなかった。
真っ青な空に向かって一斉に打ち上がったのは、色とりどりの昼花火と、まるで吹雪のように舞い散る大量の「紙吹雪」だったのだ。
「……え?」
「な、なんだ?」
紙吹雪は音叉の結界の表面に当たってパラパラと滑り落ち、アルバトロス号の銀色の船体を華やかに、そして派手に彩っていく。
さらに、エンジンの重低音の隙間を縫って、下界から凄まじい大音量が聞こえてきた。
ドンドコドンッ、プァーップァーッ!
「……音楽? ブラスバンドの演奏か?」
カイルが耳を疑うように呟く。
高度が下がるにつれて、街の広場の様子がはっきりと見えてきた。
そこには、僕たちが想像もしていなかった巨大な横断幕がいくつも掲げられていたのだ。
『祝・大冒険王レオナルド凱旋!』
『嵐を越えた我らの英雄たち、おかえりなさい!』
『アエテリアの宝! リゼ商会万歳!』
「大冒険、王……?」
僕は操舵輪を握ったまま、ポカンと口を開けた。
「ちょっと、どういうこと!? 怒られるどころか、街を挙げてのお祭り騒ぎじゃない!」
リゼが目を白黒させ、やがてその大きな瞳にじわじわと涙を浮かべた。
「……なるほど。アイアンポートからの通達が、光の速さで届いていたんだな。ギルドの伝書網、恐るべしといったところか。……でも」
カイルは丸眼鏡を外し、震える手でそっと目頭を押さえた。「論理的じゃないな。こんな、街中の人が僕たちのために泣いて笑ってくれるなんて……全くの計算外だ」
「……うん。私たち、逃げるように飛び出したのに。誰も私たちの夢なんて信じてくれなかったのに……」
シェリルが両手で口を覆い、ポロポロと大粒の涙をこぼしながら、歓声に沸く下界を見つめた。
「……ああ。馬鹿にされて、石を投げられて飛び出したこの街に……こんな風に迎えられる日が来るなんてな。夢物語だと笑われたあの日の悔しさが、全部報われたような気がするよ」
僕も、視界が滲んでいくのをごまかすように、ゴーグルを深く被り直した。熱いものが込み上げてきて、操舵輪を握る手がひどく震える。親父と一緒に見上げたかった景色が、今まさに眼下に広がっている。
「泣いてるんじゃないわよ、バカレオ。……でも、本当に、最高の気分ね。私たちがやってきたことは、間違いじゃなかったんだわ」
リゼが鼻をすすりながら、誇らしげに、そして最高に美しい笑顔で胸を張った。
『聞こえるか、英雄殿たち』
コンソールの通信機から、後ろを飛ぶガレインの、どこか優しい声が響いた。
『やれやれ、アイアンポート以上の熱狂だな。君たちはとうの昔に、この大陸中が認める「新しい時代の象徴」になっていたというわけだ』
「エリートさん……俺たち、指名手配されて大砲で撃たれると思ってたんだけどな」
僕は滲む涙を拭い、照れ隠しのように笑った。
『フッ。ギルド本部が最上位VIPとして認めた船を撃ち落とす馬鹿がどこにいる。……いや、一匹だけいるようだがな』
ガレインの言う通り、眼下の広場で、その「狂騒」に全く乗れていない男が一人だけいた。
ギルドの駐在官、ガストンだ。
彼は、自分が見下し、スラムへ追いやったはずの「修理屋のバカ息子」が、本部のお墨付きの大英雄として帰還したという事実を受け入れられずにいた。
自分の小さな権力と居場所が完全に崩れ去るのを恐れた彼は、顔を真っ赤にして、警備隊の部下たちに怒鳴り散らしていた。
「騙されるな、お前たち! 奴らはモグリの犯罪者だ! あの通信は偽造に決まっている!」
ガストンは拡声器を握りしめ、喚き散らす。
「撃て! あの銀色の偽物船を撃ち落とすんだ! 私の管轄で勝手な真似は許さん!」
しかし、部下たちは困惑して顔を見合わせるばかりだ。
「いや、しかしガストン支部長……後ろを飛んでいるのは、本物のギルド特務艦隊ですよ……」
「それに、あの船……本当に伝説の神鋼で覆われてます。本部からの『絶対に手を出すな』という通達は本物では……」
焦るガストンは、部下を突き飛ばし、広場の隅に設置されていた旧式の巨大な蒸気対空砲の操縦席に自らよじ登った。
「ええい、役立たずどもめ! 私の街の秩序は私が守る!」
そして、安全装置を強引に引きちぎり、アルバトロス号に黒い銃口を向けようとする。
「ちょっと、あの駐在官! 一人だけ本物の大砲をこっちに向けてるわよ!」
リゼが窓から身を乗り出して叫ぶ。
「往生際が悪いな! レオ、どうする!?」
「……避ける必要なんてねえよ」
僕はスロットルを静かに手前に引き、船体を広場の上空で優雅にホバリングさせた。
「俺たちの船は、もうあんな古臭い権力に撃ち落とされるようなヤワな船じゃない。……見せてやろうぜ、俺たちの『無敵艦』の真の姿を!」
僕はコンソールのスイッチを弾き、音叉の結界の出力を一段階引き上げた。
パァァァンッ! と空間が鳴り、蒼い光が、太陽よりも眩しくアルバトロス号を包み込む。
『レオ、あのような小物に君たちの美しい船を煩わせる必要はない。あれはギルドの恥だ。……私の仕事だ』
通信機からガレインの冷ややかな声が聞こえた直後だった。
ビュオオオオッ!!
純白のシルフィード号が、特務艦隊の先頭から猛烈なスピードで急降下し、ガストンの乗る大砲の鼻先スレスレをかすめ飛んだ。
「ひぃっ!?」
その凄まじい風圧と衝撃波で、錆びついた旧式の蒸気砲はあっけなく横転し、ガストンは地面の泥水の中へと無様に転がり落ちた。
「ハハハッ! さすがエリートさん、容赦ねえな!」
僕は腹を抱えて笑い、操舵輪を握り直した。
もはや僕たちを遮る壁も、理不尽な重力も、何一つない。
眼下には、僕たちの帰還を祝福する無数の笑顔と、色とりどりの紙吹雪が舞っている。
「さあ、みんな! 最高のフライトの締めくくりだ!」
僕はスロットルを絞り、アルバトロス号をゆっくりと、一番歓声の大きい広場の中央へと降下させていった。
「新しい空の時代の幕開けだ! 世界を繋ぐ無敵の翼、アルバトロス号……ただいま帰還したぜ!!」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
「大冒険王レオナルド凱旋!」
逃げるように飛び出した故郷で、まさかのお祭り騒ぎでの大歓迎!
一人だけ状況が読めずに大砲を向けた駐在官ガストンも、ガレインの粋な急降下で無事に成敗されました(笑)。
スカッとする展開から一転、次回は涙なしには読めないエピソードです。
ハンカチのご用意を!




