第117話 鉄の街の空域へ
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ついにアイアンポートの防空圏内へ!
しかし、入港許可証を持たない「違法船」である彼らに、ギルドのエリート哨戒船が実力行使で迫ります。
迷いの峡谷の暗黒を一直線に駆け抜け、分厚い雲の壁を突き破ったアルバトロス号。
視界いっぱいに広がるのは、見渡す限りの深く澄んだ群青色の空と、眼下に絨毯のように敷き詰められた純白の雲海だった。荒れ狂う磁気嵐のノイズは完全に消え去り、船体を包む『音叉の結界』が風を滑らかに受け流す微かな音だけが心地よく響いている。
「現在位置、確認。……もう完全に、アイアンポートの防空圏内に入っているわ」
助手席のシェリルがアストロラーベから顔を上げ、少しだけ緊張した声で言った。
彼女の視線の先――雲海を貫くようにそびえ立つ、巨大な天然の岩峰が見えてきた。
その岩峰の中腹から頂上にかけて、無数の鉄骨とパイプ、そして無骨な工場群が岩肌に寄生するようにびっしりと組み上げられた、巨大な鉄の要塞。遠目からでも煙突から吐き出される黒煙が見えるその姿は、周囲の美しい大自然とは明らかに異質な異物感を放っている。
僕たちが最初に飛び出し、そして追われた街。飛行ギルドが絶対の権力で空の物流を支配する尖塔都市『アイアンポート』だ。
「相変わらず、煤煙と鉄屑の臭いがここまで漂ってきそうな、息苦しい街だな」
僕が操舵輪を握ったまま呟くと、後部座席でカイルが手帳を開きながら同意した。
「ああ。安全と引き換えに、すべての自由を金と許可証で縛り付ける鳥籠さ。……そして、今の僕たちは、その『許可証』を持っていない完全な違法船だ」
「ふふっ、上等じゃない」
リゼが、商人の獲物を狙うようなえげつない笑みを浮かべて腕を組んだ。
「行きは燃料代を五倍に吹っかけられて、挙句の果てに船を押収されそうになって、下層のドックからコソコソ逃げ出すしかなかったけど。……今の私たちは、ただの迷子のヒヨッコじゃない。この空の相場と未来を根底から変えるだけの『切り札』を、カーゴいっぱいに積んでるのよ。あの見下してきたギルドの連中が、この船と積み荷を見てどんな間抜けな顔をするか、今から見ものだわ」
ピーッ! ピーッ! ピーッ!
不意に、船内の簡易通信機からけたたましい警告音が鳴り響いた。
「来たわね。ギルドの哨戒船よ!」
シェリルが窓の外を指差す。
岩峰の中腹から、白く塗装された三隻のスマートな小型哨戒船が、猛烈なスピードで僕たちの進路を塞ぐように接近してきていた。
彼らがアルバトロス号を取り囲むような陣形を組む中、シェリルがコンソールを操作して彼らと管制塔との無線通信を傍受し、スピーカーに繋いだ。
『――管制塔より各哨戒船! 所属不明の接近機を巨大望遠鏡で捕捉した! ……が、おい、どういうことだ!? ギルドのデータベースに該当する船体形状が全く存在しないぞ!』
『一番機、同感だ。間近で見ても信じられん。なんだあの銀色の装甲材質は……継ぎ接ぎ一つない、水滴のような滑らかな曲線だ! それに船体を包むあの不気味な青い光の膜は何だ!? 風の抵抗を完全に弾き流しているように見えるぞ!』
『管制塔、目標の機動もおかしい! あれだけ巨大な気嚢を背負いながら、風の抵抗を全く受けていないように見える! それに機体中央から、あり得ない強度の共鳴波形が検出されている! あんな高密度のエネルギー、ギルドの最新鋭の大型戦艦の動力炉でもあり得ないぞ! まさか、巨大な特級浮遊石でも積んでいるのか!?』
傍受された無線からは、望遠鏡で監視する管制室のオペレーターと、エリートパイロットたちの隠しきれない動揺と混乱が筒抜けになっていた。彼らが信じてきた航空力学の常識が、目の前の機体によって完全に破壊されていたのだ。
カイルが丸眼鏡を押し上げ、フッと鼻で笑う。
「彼らのマニュアルには絶対に存在しない、理解不能な幽霊船さ。無理もない、アエテリアの超技術と僕たちのハイブリッド理論なんて、知るはずもないからね」
『ええい、構わん! 目標は入港許可証を発信していない完全な違法船だ、マニュアル通り拿捕する!』
無線が切れ、拡声器からの直接の警告音声に切り替わった。
『所属不明の規格外船に警告する! ここは飛行ギルドの絶対管轄空域である! 直ちに浮遊石の出力を下げ、本船の誘導に従い下層の検疫ポートへ着陸せよ! さもなくば、実力行使による拿捕を行う!』
「実力行使、だとさ。相変わらずおっかない連中だ」
僕はスロットルレバーに手を掛けたまま、ニヤリと笑った。
『繰り返す! 直ちにエンジンを停止せよ! これ以上の接近は攻撃と見なす!』
哨戒船の一隻が、アルバトロス号の真横にピタリとつけ、機体下部から太い牽引ワイヤーを射出する構えを見せた。
行きなら、ここで大人しく捕まるか、必死に逃げ回るしかなかっただろう。
だが。
「……悪いが、お上品な船じゃ、俺たちの無敵艦には追いつけねえよ」
僕は浮根杉の操舵輪を強く握りしめ、スロットルを一番奥まで一気に叩き込んだ。
ドォォォォォンッ!!!
新生キメラ・ドライブが、澄み切った高音の和音と共に、腹の底を揺らす爆発的な咆哮を上げる。
特級浮遊石が眩い蒼光を放ち、気嚢の前方フラップから極限まで圧縮されたマイナス質量の空気が大噴射された。
「なっ……!?」
真横にいた哨戒船のパイロットが、窓越しに顎が外れんばかりに目を見開くのが見えた。
ズガアァァァァァァンッ!!
アルバトロス号は、重たい積荷をカーゴの底が抜けんばかりに満載しているという物理法則を完全に無視した。ロケットのような猛烈な急加速と、機体をフワリと押し上げる圧倒的な反重力により、三隻の哨戒船が展開していた包囲網の間を瞬く間にすり抜けた。
音叉の結界が空気を極めて滑らかに切り裂き、風の抵抗すらも置き去りにしていく。後方に残されたのは、キメラ・ドライブが吐き出した青白い排気の閃光だけだ。
『ば、馬鹿なッ!? 消えたぞ!?』
『推力計測不能! あの加速、質量と浮力の計算が全く合わない! あんな機動、物理法則を無視している!』
『追え! ……ダメだ、速すぎる! 一瞬で雲の彼方へ振り切られた! 望遠鏡でも追いきれん!』
スピーカーから聞こえるエリートパイロットたちの悲鳴を背に、リゼが後ろを振り返って歓声を上げた。
「あっははは! いい気味ね! あいつら、まるで空中に止まってるみたいに置いてけぼりよ!」
「安全第一の『静粛な浮遊石』の推進力じゃ、空間そのものをマイナス質量で引っ張るこの船の瞬発力には、絶対に追いつけないさ」
カイルが誇らしげに言う。
「さあ、ここからが本番だぜ!」
僕は真新しい浮根杉の操舵輪を大きく切り、アイアンポートの岩峰の「上層部」――ギルドの役人などの特権階級と、大型の正規商船しか入ることを許されない、白亜のメインポートへと機首を真っ直ぐに向けた。そこはかつて、僕たちのポンコツ船では入港すら許可されなかった、選ばれた者だけの空域だ。
「ちょっとレオ! 下層のスラムじゃなくて、いきなり一番上に突っ込む気!?」
シェリルが驚いたように身を乗り出す。
「当たり前だろ! こんなすげえ宝の山と、無敵の船を持ってきたんだ。裏口からコソコソ入ってやる義理はねえ!」
「その通りよ、レオ!」
リゼが立ち上がり、身を乗り出してアイアンポートの巨大な岩峰を睨みつけた。
「私たちはもう、あいつらに見下される『下層のゴミ』じゃない。この空の相場を完全に支配する、真の商人なんだから!」
アルバトロス号は、ギルドの警告を完全に無視し、青白い排気の炎を引きながら、巨大な鉄の街の心臓部へと猛スピードで突進していく。
かつては僕たちを縛り付け、見下していた権力の象徴。
その分厚い扉を、圧倒的な力と価値で真正面から蹴り破るための、痛快な凱旋フライトが、今まさに最終局面を迎えようとしていた。
今日も読みに来てくださり、本当にありがとうございます!
ギルドのエリートパイロットたちの常識を完全に破壊する、あり得ない加速力!
追うことすらできず、空中に置き去りにされる哨戒船の慌てぶりが最高に痛快です。
下層の裏口ではなく、一番偉い連中がいる「白亜のメインポート」へ、最強の船と最高の宝を積んで真正面から突進するアルバトロス号。
もし「凱旋フライト最高!」「ギルドの度肝を抜くのが楽しみ!」と思っていただけましたら、
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(皆様からの応援が、メインポートへ突っ込む最大の推力になります!)
明日、アイアンポートの巨大な権力と真っ向からぶつかり合います! お楽しみに!




