第105話 交わる文化と大宴会
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いよいよ出航の前夜。広場には巨大な焚き火が組まれ、身分も文化もすべてが溶け合った、最高に熱くて温かい大宴会が幕を開けます!
アルバトロス号が完全な「無敵艦」へと生まれ変わり、いよいよ明日がアエテリアからの出航という日。
最下層のバウワ村長の島にある広場は、これまでで最も巨大な炎と、熱狂的な歓声に包まれていた。
「さあさあ! どんどん焼けたぞ! 今日は俺がひたすら網の番をしてやるから、我らが英雄たちは遠慮せずに腹いっぱい食ってくれ!」
広場の中央に組まれた巨大な焚き火のそばで、近衛兵長のガランが上半身裸になり、玉の汗を流しながら野太い声を張り上げていた。
彼が豪快にひっくり返しているのは、セトたち大工が海面ステーションから引き揚げてきたばかりの、丸太のように太い巨大な回遊魚だ。串刺しにされた魚の表面で、極上の『天空の塩』がパチパチと弾け、滴り落ちた分厚い脂が炎に触れてジュワァッと香ばしい白い煙を上げている。
「おいおい兵長! 焼き加減は俺たち船大工の方がプロだぜ! 焦がす前に交代しろ!」
「なにを言うか! この絶妙な火加減は、毎日の丸太運びで鍛え抜かれた俺の腕力と手首のスナップがあってこそだ!」
セトとガランが笑い混じりの口喧嘩をしながら、焼きたての特大の魚を木のお皿に乗せて、次々と僕たちの前へ運んでくる。
「おおっ……! すげぇ美味そうだな!」
僕はこんがりと黄金色に焼き上がった魚の身に、恵みの雨を受けて復活したばかりの畑で獲れた、みずみずしい柑橘系の果実をキュッと絞った。
豪快にかぶりつくと、パリッとした皮の食感の後に、ふっくらとした白身から濃厚な旨味が口いっぱいに弾け飛んだ。不純物が一切ない純度百パーセントの天空の塩が、分厚い白身の力強い味を極限まで引き出している。
「うめぇ……! 脂が乗ってるのに全然くどくない。無限に食えそうだぜ!」
「だろぉ!? 遠慮はいらねぇ、今日は第一ステーションの網にかかったでけぇ魚を全部引き揚げてきたからな!」
僕が夢中で貪り食うのを見て、セトが自分のことのように鼻高々に笑った。
魚だけではない。広場の長いテーブルには、スプリンクラーの「恵みの雨」によって完全に息を吹き返した大地からの贈り物が、山のように並べられていた。
土の養分をたっぷりと吸い上げて丸々と太った根菜の蒸し焼き、色鮮やかな緑の葉野菜を使った特製のサラダ、そして蜜が滴るほど甘く熟した果実の数々。
かつては極端な食糧不足に喘ぎ、ただ静かに衰弱していくのを待つだけだったこの国の食卓とは、到底信じられないほどの豊かさだった。
「さあさあ、外の世界の旅人たちよ。食事の後は、極上の一杯をどうぞ」
優雅な足取りで近づいてきたのは、王の使者であるルシアンだった。彼は普段の厳格なローブ姿ではなく、少し着崩したラフなシャツ姿で、手には年代物の美しいガラス瓶を持っている。
「これは……?」
「王室の宝物庫の最奥で、数百年もの間、特別な日のために眠らせていた特製の果実酒だ。アルディス王陛下からの、『英雄たちを最高のもてなしで労え』という直々の勅命でね。今宵は無礼講だ、存分に味わってくれたまえ」
ルシアンが手際よく木のカップに注ぐと、琥珀色に輝く液体から、とろけるような芳醇な香りが広場に漂った。
「わぁっ、美味しい……! 口当たりは甘いのに、喉の奥で星の光みたいにキラキラと熱くなるわ!」
一口飲んだシェリルが、頬を薄紅色に染めて目を丸くした。
「……素晴らしいな。外の世界の最高級ワインでも、この熟成された深みには敵わない」
カイルも眼鏡を指で押し上げながら、感嘆の息を漏らして杯を傾けている。
「ルシアン殿! 俺の杯が空だぜ! もっと注いでくれ!」
「こらガラン! お前はもう飲みすぎだ! これは英雄たちのための酒だぞ!」
酔いが回ってすっかり陽気になったガランと、それをたしなめながらも結局は注いであげるルシアン。上層の神殿の近衛兵長と使者が、下層の村人たちと肩を組み、大声で笑い合っている。
階級という絶対の壁。
上層と下層の埋めようのない格差。
そんなものは、この巨大な焚き火と大宴会の熱気の前では、もはや完全に溶け去り、欠片も残っていなかった。
「……なぁ、レオ」
僕が焚き火のそばで魚の骨をしゃぶっていると、村の若者たちが、少し照れくさそうに僕の周りに集まってきた。
「どうした? まだ食い足りねぇのか?」
僕が笑って振り返ると、若者の一人がモジモジしながら口を開いた。
「いや、その……あんたたちが最初この村に落ちてきた時、俺たち、ひどい態度を取っちまっただろ? あの時は本当にごめん」
彼は深々と頭を下げた。周りの若者たちも、同じように申し訳なさそうな顔をしている。
「なんだ、そんなことか。気にしてねぇよ」
僕は油まみれの手で鼻の頭を擦った。
「無理もねぇさ。あんたたちは何百年も、外の世界のものを『穢れ』だって教えられて生きてきたんだからな。いきなり鉄と油の匂いをプンプンさせた得体の知れない連中が空から降ってくりゃ、誰だって警戒する」
「……最初は、本当に臭くて、おっかない匂いだと思ってたんだ」
別の若者が、僕の服に染み付いた機関部の匂いを嗅ぐようにして笑った。
「でもさ。あんたたちが汗水流して、カンカンと鉄を打って、この国に水と活気をもたらしてくれた。今じゃ、あんたたちのその『鉄と油の匂い』を嗅ぐと……なんだか凄く、安心するんだ」
「ああ。この泥臭い匂いが、俺たちを飢えと絶望から救ってくれた、一番頼もしい『希望の匂い』だってわかったからな」
若者たちの飾らない本音に、僕は思わず目頭が熱くなるのを感じた。
外の世界のアイアンポートでさえ、職人の匂いは「油臭い」「下層の底辺の匂い」と馬鹿にされることがあった。
だが、この空の果ての国の人々は、僕たちが流した汗と油の価値を、心から認め、愛してくれている。
「……へっ。言ってくれるじゃねぇか。だったら俺がこの村を発つ前に、一番頼もしいエンジンの直し方をみっちり仕込んでおいてやるよ。明日からお前らも、立派な油まみれだ!」
「うわっ、手加減してくれよ!」
僕がわざと意地悪く笑うと、若者たちは楽しげな悲鳴を上げて笑い合った。
少し離れた場所では、リゼが村の女性たちに囲まれていた。
「いい? 次に来る時は、外の商人たちが束になっても敵わないような、とびきりの物資を積んでくるわ。だからあなたたちも、今のうちにこの『天空の塩』の生産ラインをしっかり整えておきなさい。品質管理が命よ!」
「ええ、任せてちょうだい! リゼに教わった通り、一番綺麗な塩だけを厳選して袋詰めにするわ!」
「次は外の可愛いドレスのお土産、絶対に忘れないでね!」
完全に「ビジネスパートナー」としての絆を結んだ彼女たちの間には、絶え間ない笑い声が弾けていた。
さらにその奥では、シェリルが子供たちに囲まれて、アストロラーベの光で幻影の星空を映し出しながら、外の世界の星座の物語を語って聞かせている。
カイルはといえば、首席調律師のカシムや神殿の学者たちと車座になり、地面に小枝で数式を書きながら、気象学や流体力学の熱い議論を肴にして酒を酌み交わしていた。
「……信じられない光景だな」
隣にやってきたバウワ村長が、広場の狂騒を眺めながら、しみじみと呟いた。
「数ヶ月前まで、我々はみな、生きることを諦めたような死んだ瞳をしていた。互いに距離を取り、争いを避けるために心を閉ざしていた。それが今や……上層も下層も、外の旅人も関係なく、こうして一つの火を囲み、家族のように笑い合っている」
村長の皺だらけの目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「レオ殿。本当に、何と礼を言ったら良いか……」
「やめてくれよ、村長」
僕は村長の肩を優しく叩いた。
「俺たちは、俺たちのやりたいようにやっただけだ。壊れたものを見たら直したくなるのが職人だし、価値のあるものを見たら売り捌きたくなるのが商人だ。……この国が蘇ったのは、あんたたち自身が『生きたい』って強く願って、自分の手で立ち上がったからだろ」
「……ああ。そうだな。我々はもう、決して諦めない」
村長は力強く頷き、涙を拭って満面の笑みを浮かべた。
夜が更けても、宴の熱が冷めることはなかった。
広場の中央では、ガランの叩く太鼓のようなリズムに合わせて、セトや若者たちが肩を組んで力強い歌を歌い始めている。
ルシアンも手拍子を打ち、カシムは白髭を揺らして微笑み、子供たちは炎の周りを無邪気に駆け回っていた。
出航の前夜。
かつては「穢れ」と「掟」の壁に阻まれていた二つの異なる文化は、今、完全に一つに溶け合っていた。
アエテリアという国全体が、まるで一つの巨大で温かい「家族」になったかのような、最高に熱くて、愛おしい夜。
明日、僕たちはこの美しい鳥籠を飛び立ち、再び果てしない空の旅へと戻る。
寂しさはある。だが、それ以上に強い「前を向く力」が、燃え盛る焚き火の炎のように、僕たちの胸の奥で確かに熱く燃え上がり続けていた。
読んでいただき、本当にありがとうございます!
極上の塩で食べる焼き魚に、数百年ものの果実酒。そして何より、共に汗を流した仲間たちとの尽きない笑い声。
「この泥臭い匂いが、一番頼もしい希望の匂いだってわかった」。村の若者たちのこの言葉に、レオがどれほど救われたか計り知れません。
階級も穢れもすべてを吹き飛ばしたこの最高の宴も、夜が更けていきます。
明日も引き続き、出航前夜のエピソードをお届けします!




