第三十一章:第二の再会
久々の投稿になります。
楽しんでもらえたら嬉しいです
王宮での公務を終えた馬車の中。
窓の外には夕暮れが静かに流れていく。
車内にはわずかな揺れと、木々のざわめきだけが響いていた。
「リアナ様」
と、控えめに声をかけたのは侍女のメイリア。
「王太子殿下が外出された後は、食事を用意しなくていいそうです。
おそらく……どこかで召し上がっているのでしょう」
リアナは目を細めた。「よく調べられたわね」
「リアナ様付きの侍女として、宮中の信用がありますから。
王宮のメイドも……口が軽くなったのでしょう。それに……私もかつてクラリス様に仕えて、王宮に出入りしていましたから」
「……そうだったわね」
「申し訳ありません。関係のない話でした」
「いいえ。……クラリスのこと、どう思っているの?」
メイリアは少し俯いた。指先が膝の上でそっと揺れた。
「正直……憎んでいます。あの方がいなくなったせいで、私は罪を着せられそうになりましたから」
リアナは静かに頷いた。
「あなたの正直なところ、私は好きよ」
「リアナ様に救っていただけなかったら、私は生きていません。この御恩、必ずお返しします」
「……あなたは本当によくやっているわ。ありがとう」
「勿体ないお言葉です」
リアナは胸の奥にズキンとした痛みを覚えながらも、何事もないかのように微笑んだ。
あの日、彼女を庇ったのは誰でもなかった。自分の意志だった。
***
そのうちに宰相である父に報告を済ませていた。
「遅くに申し訳ございません」
「何か掴んだのか」
親子らしい会話はなく、業務的なやりとりが淡々と続く。
「はい、メイリアが王宮のメイドからウィリアルド様が外出された後は、
食事を用意しなくていいとの情報を得ました」
宰相は珍しく感心したように笑みを浮かべた。
「クラリス付きの侍女を助けたときは何事かと思ったが、存外使えるな。
…もしかして王宮内部を探らせるためにあの時助けたのか?」
「……ただの気まぐれです」
目を逸らしながら返したリアナの声には、わずかにざらついた響きがあった。
(私が傷つくとわかっていて言っているんだわ…そして私には傷つく資格もないことも知っている)
「私からも情報をやろう。
南方視察の最後に一騒動があったらしい。
些細な衝突だったと護衛は言っていたが……おまえも気になるなら調べてみるといい」
まったく悪びれた様子もなく宰相は伝えた。
その言葉を頼りに、リアナは地図と記録を手に調査を始めた。
飲食ができる店、宿屋、人の集まる場所……一軒ずつ調べていく中で、妙に記録が少ない一つの店に目が留まる。
「星霞亭……?」
小さな印で記されたその店は、ちょうどクラリスの事故があった約2年前に開業している。
逆にそれが、リアナの勘を刺激した。
「ここが殿下が好んで通う店なの?……ここにいったい何が…」
***
翌日、リアナは南方視察の最終地に足を運んでいた。
胸に複雑な思いを抱えながら向かったその店は、定休日だった。
静まり返る通り、ひっそりとした佇まいの前に、一人の影があった。
(……誰?)
フードを深くかぶった青年は、しばらく扉の前に立っていたが、やがて何も言わずに去っていった。
リアナはその背に既視感を覚え、胸の奥が騒ぎ始めた。
(まさか……)
近くの建物の陰にメイリアと護衛を待機させ、自身は星霞亭の前で静かに待つ。
***
リアナが店の前で待ち続けて数刻、
夕陽が街を茜色に染め始めた頃、馬車の音が響いた。
店の前に停まった馬車から降りてきたのは、男女二人と少女。
セラン村から墓参りを終えて戻ってきたヴェルド一家だった。
扉の前の人影に気づいたセランが、前に立つ人影に気づき、首を傾げながら声をかけた。
「すみません、今日はお店休みなんですが……」
その声に、リアナはゆっくりと振り向いた。
「そうなんですね。お店の前で失礼しました……また来ます」
しかし、セランと目が合った瞬間、リアナの動きが止まった。
その金色の髪、透き通るような青い瞳。
(この顔……この瞳……)
「……クラリス」
声にならない叫びが喉を突き上げ、リアナは思わず口を押さえた。
目の前の少女は、記憶を失ったかつての親友。
殿下が何度も通った理由――それは、ここにあったのだ。




