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忘却の花嫁  作者: あかさ


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第二十五章:再び星霞亭へ

王太子ウィリアルド・カディスは、青みがかった髪を隠すためにカツラを被り、

庶民風の服に着替えて、再び王都南部の小さな食堂《星霞亭》を訪れた。

手には一輪の星霞草。朝の柔らかな光がその花びらを照らし、彼の足取りもどこか弾んでいる。


扉を開けると、カランと軽やかなベルの音が響いた。


「いらっしゃいませ!」


声の主――セランが、嬉しそうにこちらへ歩み寄ってくる。

「ご来店ありがとうございます! あれっ?今日は髪の色が違うんですね」


まじまじと顔を見られ、高鳴る鼓動を抑えながらウィリアルドはできる限り普通を装って答えた。

「僕の髪色は目立つからね、有名人だから変装しているのさ」


ウィリアルドは、言った直後に少し変なことを言ってしまったと後悔したが、


「ふふっ、なんですかそれっ」


セランは変な顔をせず笑ってくれた。その笑顔を見た瞬間、ウィリアルドの中の何かが弾けた。


「……本当に、君は眩しいよ。


まるで僕の光そのものだ」


その言葉にセランは一瞬固まり、顔を赤くして目を逸らした。


「も、もう! ……そういうの、慣れてないんですから……やめてください」


「そんな僕の光に、これを」


ウィリアルドは一輪の星霞草を差し出す。


セランは一瞬ためらったあと、小さく笑って星霞草を受け取った。


「これ……わたしに?」


「うん。きみに、とてもよく似合うから」


言葉に嘘がない分、余計にストレートに響いた。


「でも、貰う理由が…その…私はあなたが探している人じゃないと思うんです」


「……君に貰ってほしいんだ」


「ありがとう…ございます」


セランは、自分でもなぜだかわからないが、目を逸らしながらも手が動いてしまっていた。


「まったく、またイチャイチャして……お客さん相手に何やってんだい」


近くで見ていた女将が軽く呆れたように言うと、

正気を取り戻したセランは、ウィリアルドを席へ案内する。


「お母さん、ごめんなさい。えっと…こちらへどうぞ」


ウィリアルドもそれに従った。

「ああ、ありがとう」


「すぐにお水とメニュー持ってきますね!」


少し早歩きで厨房の方へ戻るセランを、ウィリアルドは嬉しそうに見送った。


すぐに水とメニューを持って戻ってくるセラン。


「今日のおすすめは、兎肉の香草焼きです」


「…どうしたんですか?そんなに嬉しそうな顔をして」


「…一生懸命な姿が可愛くて、なんだか嬉しくてね」


甘いセリフを言われ慣れていないセランは限界を迎える。


「も~!そういうこと言わないでください!」


ウィリアルドはその後も、忙しそうに働くセランの姿を、まるで夢でも見ているかのように穏やかに見つめ続けていた。

セランはその視線に気づいていたが、気恥ずかしくてウィリアルドの方を見れないでいた。


彼の表情は終始柔らかく、時折、幸せそうに微笑んでは、誰にも気づかれぬよう胸の奥で小さな歓喜を抱いていた。


***


王宮の執務室にて、王と王妃は侍従から最近のウィリアルドの行動について報告を受けていた。


「……近頃、午後の外出が続いておりますね。ですが成績や訓練面においても問題はございません」


「ふむ……成績が落ちていないのなら、特に咎める必要はあるまい」


王は静かに頷き、王妃もまた不安げではあるが、深くは追及しなかった。


その場には

宰相ルーデンドルフの姿もあったが、彼も(心の中で)不穏な気配を感じつつも言葉には出さなかった。


一方、リアナも、最近ウィリアルドと過ごす時間が減っていることに、

心の奥で焦りと不安を募らせていた。


(……何か、私の知らないところで動いている気がする)


小さな違和感が胸に残り、彼女は密かに調査を始めることを決意する。


***


帰り道、再び星霞亭を後にしたウィリアルドは、馬車の窓辺からゆっくりと沈みゆく夕陽を眺めていた。


「クラリスが給仕しているなんて……まさか、こんな日が来るとはな」


彼の口元には微笑みが浮かび、胸元では星霞草の花びらが静かに揺れていた。


「……不思議だな、……たった今、見てきたばかりなのに。もう、君の声が恋しい」


その瞳には、光が宿っていた。


そして彼の鼓動は、かつての悲しみによって沈んでいた時間を、少しずつ癒し始めていた――。

皆さんのおかげで、ここまで書けました!

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