第二十一章:衝撃の再会
ここまで応援してくださってありがとうございます。
少しずつでも読んでいただけることが何よりの励みです!
朝のエルヴェリア学園には、初夏の光が柔らかく差し込み、生徒たちの制服が芝生の上で揺れていた。
ウィリアルド・カディスは、王太子としての威厳を保ちつつ、ゆっくりと学園の門をくぐった。
その隣にはリアナ・ルーデンドルフが並んで歩いていた。
「今朝はライナート様もご一緒なのですね、ウィリアルド様」
「そうだね。任せていた仕事が一段落ついたからね」
(殿下も毎日登校していらっしゃるし、今日はライナート様も戻ってきている……。
ということは、きっともう調査は終わったのよね)
そう思い、深くは問い詰めずにいた。
数科目を終えた昼休み。
他の女子生徒たちが王太子に近づこうとするのを、リアナはさりげなく制しながら昼食の時間を共に過ごした。
(このまま少しずつ距離を縮められたら……)
だが午後の授業を前に、ウィリアルドは突然立ち上がった。
「午後の授業は今日は欠席する。
少し片づけたい仕事が残っていてね」
「殿下……? ご無理はなさらずに」
リアナは心配そうに声をかけたが、彼は軽く頷いてその場を離れた。
リアナは微笑んでいたが、内心にはわずかな引っかかりが残っていた。
***
その頃、王都南部へ向かう馬車の中。
簡素なシャツに上着を羽織ったウィリアルドは、窓の外を静かに見つめていた。
向かいの席にはライナートが座っており、慎重な口調で語りかけた。
「……殿下、くれぐれも、迂闊な行動はお控えください」
「……わかっている」
「もし彼女が本当にクラリス様であるなら、自らの意思で身を隠している可能性があります。
あるいは、まったくの別人である可能性も捨てきれません」
ウィリアルドは目を伏せ、ゆっくりと息を吐いた。
「つまり、彼女の現状が分からぬ以上、下手に関われば混乱を招くということか」
「はい。しかも、彼女の周囲には“家族”として振る舞う人々がいます。
警戒心を煽れば、再接触の機会すら失う可能性もあります」
拳を握りしめながら、ウィリアルドは小さく頷いた。
「……心得ている」
それでも、声には熱がこもっていた。
「だが……もしあれが本当にクラリスなら、今の僕は、もう何も見過ごせない」
その決意の眼差しを見て、ライナートは静かに頭を下げた。
「ご武運を、殿下」
***
王都の通り。
王太子ウィリアルドは、今はただの青年の姿に着替え、人目を避けて歩いていた。
手には星霞亭の簡単な地図と、ライナートが書いた特徴のある建物のスケッチがある。
昼時を終え、少し空いてそうな時間を敢えて狙った。
(もし、彼女が……本当に彼女なら……)
緊張と期待を胸に、扉を押し開けた。
カラン――とベルの音が鳴る。
木扉の向こうから差し込む光と共に、懐かしい香りが鼻をくすぐった。
「いらっしゃいませ!」
その声に――時間が止まった。
金の髪が、昼の光に透けて煌めく。
その瞬間、胸の奥が軋むように揺れた。
疑いようがない。
瞳、声、笑み。すべてが――彼の記憶に刻まれた彼女、そのものだった。
(……クラ…リス……)
意識よりも先に、涙が頬を伝っていた。
懐かしさと、信じたいという衝動が、激しく胸を叩く。
(会いたかった。ずっと――)
次の瞬間、足が勝手に動いていた。
「クラリス……!クラリスッ……!」
その名を呼んだ時、自分でも震えた声に驚いた。
抑えられるはずがなかった。
数えきれぬ夜、名を呼んでも応えがなかった空白が、今、目の前に現実となっていた。
彼は衝動のままセランに駆け寄り、腕の中に抱きしめる。
胸の中に感じる温もり――それが、夢ではないと教えてくれた。
「え……ちょ、ちょっと!? きゃああああああああっ!!」
セランの悲鳴が、星霞亭中に響き渡った。
「クラリス……会いたかった……生きていてくれたんだな……っ」
「だれですか!? ちょっと、誰かー!!」
厨房からヴェルド夫妻が駆け出してくる。
「なにしてるんだい!? 娘から離れな!」
「セランが怖がってるじゃないか!」
リオンも荷物を放り出して駆け寄り、ウィリアルドを全力で引き剥がす。
「やめろ!何をする!」
「こっちのセリフだよ!」
そのまま、複数人がかりでウィリアルドを引っ張り、星霞亭の外へと放り出す。
最後まで彼は、叫び続けた。
「クラリス……!クラリス……! なぜ、僕を……!!」
扉が閉まり、店の中が静まり返る。
セランは唖然としたまま、胸元を押さえ、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
その青い瞳に、知らぬはずの名が、深く残されていくとは、まだ気づかぬまま――




