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忘却の花嫁  作者: あかさ


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第十九章:新たな疑問

沢山の方が見に来て嬉しいです!

昼を少し過ぎた頃、王都の通りは活気を帯びていた。


その喧騒の中、ライナート・グレイアスは静かに歩みを進めていた。

一週間にわたる探索の疲労が蓄積しつつあったが、

それよりも胸に残るのは、あの“金の髪の少女”に再び会えなかったことへの焦りだった。


(もう昼か……少し、腹ごなしでもしてから戻るとしよう)


ふと目に入ったのは、小さな木造の食堂。

看板にはやわらかな筆致で《星霞亭》と記されている。


(……ああ、ここが噂の星霞亭か)


店の扉を押し開けると、内からは香ばしい香りと賑わいが流れ出てきた。


「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ!」


奥の方から元気な声が飛ぶ。軽く頷いて奥の窓際の席に腰を下ろした。

店内には、旅の商人らしき者から親子連れ、職人風の男たちまで幅広い客層がいた。


(空席を見つけるのが難しいほど、賑わっているな)


賑わう客たち、温かな雰囲気、そしてどこか家庭的な空気。

空いた席を見つけて腰を下ろし、木製のメニューに目を通す。

肉料理や野菜をふんだんに使った煮込み、素朴だが丁寧な文字。

(どれも手間がかかっていそうだな……

肉料理するか……噂通り、どれも美味しそうだな)


軽く手をあげると、水を運んできた店員がすっと近づいてきた。

「お待たせしました、お水になります」


水を運んできた店員に「ありがとう」と言いかけて顔を上げた。


視界に入ったのは――


綺麗な金の髪。

陽に透けるその髪は、まさに記憶の中のそれだった。


「……っ」


声が、喉で凍った。


その顔。


あの青く透き通る瞳。

整った眉と、あどけなさの残る笑み。


(クラ…リス様……?)


いや、似ているどころではない。

そこにいるのは、まさしく“彼女”だった。


だが――

彼女の表情は穏やかで、彼に何の特別な反応も示さなかった。

まるで初めて見る客に接するような、ごく自然な接客態度だった。


水を置いた少女――セランは、にっこりと微笑んで言った。


「ご注文、お決まりでしたらどうぞ!」


「…………あ、ああ……その、こちらの……煮込み肉料理を……」


言葉が一拍遅れた。


彼女の顔は――紛れもなく、クラリス・ディアクレス。

だが、彼女はまったく動揺もなく、当たり前のように接客を続けていた。


「かしこまりましたー!ご飯の量はふつうでいいですか?」


「はい……いや、頼む」


(……なぜだ。まったくの他人のような振る舞い……だが、あれは……)


セランはメモを取り、軽く一礼して厨房へと戻っていった。


しばらくライナートは背筋を伸ばし、黙ってその背中を見送った。


(……別人だとでもいうのか)


驚愕と困惑を押し隠しながら、ライナートは口元を引き締めた。


(ここで動いてはならない。まずは、殿下に)


彼は冷静を装い、観察を続けることにした。

料理が届くまでの数分。

ライナートは何食わぬ顔で、静かに観察を続けた。


***


その日の夜、


リアナ・ルーデンドルフは、父――ゼグレスト・ルーデンドルフ宰相に呼び出され、応接間に姿を現していた。


「……それで、ウィリアルド殿下とは順調か?」


ゼグレストの声は穏やかでありながら、どこか底の見えない冷たさがある。


「はい。最近は少しずつ心を開いてくださっている気がします」


リアナは丁寧に答えつつも、相手の真意を探っていた。


「ふむ……ディアクレス家の連中とも、随分と親しくしていると知ったときは驚いたぞ」

その言葉には、ほんの僅かに棘が含まれていた。


「クラリスとは旧知でしたから」


「ふふ、皮肉なものだ。あの夫婦も、自分の娘を害したのが私達とは思うまい」


流石にリアナも言い返す。


「別に意図して取り入ったわけではありません!」



「そうか?まあお前が好かれているなら、それは利用すればよい」


「……はい」


リアナはその一言にかすかな苛立ちを感じたが、表情には出さなかった。



その言葉には、ほんの僅かに棘が含まれていた。


リアナは、それを感じ取って口をつぐむ。


「……お父様、ひとつご相談が」


「ほう?」


「最近、ライナート様が殿下の側から離れることが増えているのです。何か、殿下に隠し事でも?」


ゼグレストは目を細めた。


「さあな。忠義の騎士が何をしているか……。もしお前の障害になるようなら、適切に排除するまでだ」


「……そのお言葉、胸に留めておきます」

リアナは頭を下げた。

だがその心の内には、かすかな疑念と警戒の種が、確かに芽吹き始めていた。


宰相は立ち上がり、窓の外へ目をやる。


「まだあの事件のことでも調べているのか?

愚かなことだ、関わった者はこの世にいないというのに…」


リアナは黙って、父の横顔を見つめた。

その表情の奥には、複雑な思惑が交錯していた。

皆さんのおかげで、ここまで書けました!

気に入っていただけたら、ブックマークしていただけると嬉しいです!

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