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第24話 冒険者は軍人になりて今に至る

 小さなペンを握り、これまたミニサイズのノートにそれを走らせる。

 オーテスは机の上に置かれた物を書き写していた。


「ごめん、精霊用の名刺は持ってなくって~」

「書き写しゃ良いだけだ、気にすんな」


 人間に渡すサイズのそれは彼の背丈と同じ大きさ。そんな物を持って移動するなど、人間が凧を背負って歩き回るのと同じ事だ。邪魔でしか無い上に飛行して移動するオーテスは、突風でも吹いたらそのまま凧のように飛ばされてしまう。無論それを防ぐ魔法も使えるが、わざわざそんな労力を掛けるくらいなら書き写しが一番楽なのである。


「ヨシ、んじゃ何か分かったらココに手紙送っておくぞ」

「よろしくお願いします……!」


 名刺に書かれているのは、ノーラが在籍する王都の出版社だ。彼女宛てに手紙を送ってもらえば、会社で保管しておいてくれるだろうという算段である。


「ま、オレの手紙が行くよりも先に帰れるように頑張ンな。こっちに期待されても、ボケジジイの話じゃぁどこまで参考になるかは分からねぇからな……」

「あはは、頑張ります」


 はあやれやれとオーテスは肩をすくめて首を横に振る。実家に帰るのは兎も角として、七百を超える歳でマトモに会話が成り立つかどうか分からない相手からの情報収集は骨が折れる事だろう。


「お、もうそろそろオレ達がヤった魔物が見える頃だが」


 そういえば、とオーテスは飛んで窓枠に立つ。おおアレだアレ、とタビトたちに遠くに見えるものを指さした。


「え、あれですか!?」

「どれどれ~……ってデッカ!」


 そこにあったのは山のようなシルエットを持つ亀の魔物。甲羅は銀色で、力なくだらりと垂れる首や足は濃い茶色をしている。鉄道職員やオーテスの戦いの痕跡として亀の甲羅には大規模な破壊痕があり、その頭には多数の弾痕や剣や槍が突き刺さっていた。


「お、おおぉ……」


 タビトは思わず声を漏らす、あまりにも生々しいのだ。血も流れれば死体も残る、ゲームの様に倒したら消滅、など有りえないのである。魔法魔石魔物と如何にもファンタジーな世界を経験して頭の何処かで無意識に漫画やゲームと結び付けていた、と彼は実感する。


 この世界は現実だ。地球と同じく人が生きていて動物もいて、命を失ったら死体になる。当然だ、当たり前だ。タビトは改めて理解する、別の世界に自分はいるのだ、と。


「どうだ、凄いだろ」

「うはぁ、こんなデッカイのどうやって倒したの?」

「そこはホレ、こういう魔法で、な」


 オーテスは右手を天に掲げる、すると宙に火球が生じる。大きさは人の頭ほど、しかしそれから発せられる熱量は尋常ではない。顔面がじりじりと焼かれているかのような熱を感じる。


ちち」

「はっはっは、すまんすまん」


 ふっと手を振ると火球は一瞬のうちに姿を消した。出すも消すも自由自在、まさに魔法だ。


「オレは魔導士官、魔法を操り敵を討つのが役目でな」

「戦争、してるんですか……?」


 タビトは想像してしまう。この世界が現実で軍人がいるならば、国同士の争いも武力による衝突もあるのではないか。そしてそこには、日本にいた時には実感する事の無かった『死』があるのではないか、と。


「安心しろ、少なくともオレは人を殺しちゃいない」

「そ、そうですか……良かった」

「はっはっは。お前さんは優しいな」


 スイッと飛んでオーテスはタビトの頭の上に乗った。彼は異世界からの旅人の頭をポンポンと叩く。


「大陸北部を西と東に分ける形で大国が二つある、どっちも王国なんざ比較にならない程の国土と人口を持ってる化け物国家だ。ずーっといがみ合ってやり合ってたが、随分と前に平和条約が結ばれてな。恒久平和の証として大陸横断鉄道が出来て世界は平和になりました、ってトコだ、今の世界はな」


 歴史はどうあれ今現在は世界は平和だ、一般人が鉄道を使って他国まで暢気に旅が出来る程度には。タビトが考えてしまったような事はオーテス曰く、ここしばらく起きていない。寿命の長い彼の『ここしばらく』は、おそらく人間にとっては十分な長さである事だろう。


「だから軍人の仕事は魔物の討伐だ。世界にゃ未踏の地は多く、未知の魔物が何時何処から襲ってくるかも分からん。それに対応するのがオレ達なワケよ」

「おおー、頼もしい~」

「はっはっは、そうだろうそうだろう。まあ、あの亀野郎とやり合ってた時は冒険者だった頃を思い出したがな~」

「えっ、冒険者ですか!? この世界、冒険者がいるんですか!」

「ぅお、急に妙なトコに食いついたな」


 冒険者、それは最も異世界らしい職業。汽車が走るような世界では存在しないとタビトは思っていた。しかしなんと、いま自身の頭の上に乗っている精霊こそがその仕事をしていたのだ。思わず声を上げてしまったタビトを誰が責められるだろうか。


「あっ、ごめんなさい。その、僕の国の創作物で異世界を題材にする作品によく登場してて。この世界にはいないのかー、って思ってたもので……」

「未踏の地にある夢を求める連中、ジジイ共が現役だった頃に比べりゃ大分と減ったらしいがな。冒険者なんざ元々は腕っぷし以外に取り柄が無い、食い詰めモンがやる仕事だ。今は色んな仕事がある、そんな事をしなくても食っていけるから減るのは当たり前だが」

「なるほど~。ちなみにオーテスさんが冒険者やってた理由は?」

「若気の至りってトコかねぇ。と言いつつ二十年前までやってた」


 ケラケラと彼は笑う。それはつまりオーテスもまた限られた取り柄しか持っていなかったという事だ。それからどういった経緯で軍人へと至ったのか、とても気になる所。しかしノーラが彼にそれを聞いてみたのだが。


「そりゃ秘密だ、残念だったな」


 そういって話してはくれなかった。

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