71・ずっと一緒にいたのに
体育祭で部活対抗リレーに参加した成果でしょうか? 園芸部への入部希望者が来ました! 一年生から三年生まで、男女合わせて18人もです! けれど、土いじりに付いて回るのは『虫』さんの存在。土で手はもちろん、あちらこちらが汚れるのと、虫さんとの対面がある事で、9人はすぐに辞めてしまいました。それでも、半分の9人は残ってくれました!
園芸部、存続決定です!!
71・ずっと一緒にいたのに
最近の冬龍君はご機嫌ナナメなのです。パッと見た目はいつも通りなのですけれど、クラスメイトや部活のお友達たちは気が付かないのですけれど… 確実にご機嫌ナナメです。
今だって部活の皆でジャージ姿で軍手をはめて、プランターに枝豆の種を植えているのに、皆から少し離れた場所で一人でムスッと防虫ネットの準備をしています。目元が下がっているせいで、ムスっとしているようには見えないんですけれどね。
「白川君、私も手伝うよ」
二年生の高橋先輩が、そんな冬龍君に声をかけました。ちょっとポッチャリした高橋先輩は私より少し高い身長で、クリクリの焦げ茶色の瞳と、ちょっと癖のあるショートヘアーが可愛らしいんです。
「白川君、種を植え終わったプランターに、お水をたっぷりあげてくれますか?」
高橋先輩と冬龍君がお話しを始めた時、片桐先輩が私にジョウロを渡してきました。
「は~い。お水、たっぷりですね」
高橋先輩がニコニコしているけれど、どんなお話ししているのかな?
高橋先輩と冬龍君のことがちょっと気になったけれど、今は片桐先輩のサポートしなくちゃ。
ジョウロを受け取って、私は周りを見渡しました。8人の新しい部員さんが、頑張って種を植えています。片桐先輩、今までの癖で、私と冬龍君との三人でやろうとしちゃうんですよね。
「先輩、部員の皆に説明してあげてください」
コソっと片桐先輩に耳打ちして、受け取ったジョウロを先輩に返しました。
「あ、そっか。そうだね… え~…」
片桐先輩は、部員さん達の前で説明するのが緊張するそうです。
「ここまでのおさらいで~す」
私が少し大きめの声で言うと、皆が作業する手を止めて、私と片桐先輩を見てくれました。そこで、ポン! と先輩の背中を軽く叩きます。
「え~… 枝豆も品種が色々あるんですけれど、だいたい4月上旬から5月上旬に種まきをして、一番早い品種で約75日、時期としては7月の中旬ごろからの収穫が可能です」
「部長、今日、六月だけど?」
「あ、うん。そうなんですよね。こうやってちゃんとした人数で活動できるのが、つい最近だったもので… 枝豆の種は寒さに弱いので、今は寒くはないからいいかな~と、思って。まぁ、水を切らさない様に注意すればいいかと思います。」
でも、暑くて乾燥しちゃって、実が付きにくくなっちゃうこともあるから、できれば4月中の種まきがお勧めだよって、修二伯父さんが言ってたな。
一年生の男子部員に質問されて、ちょっとしどろもどろの片桐先輩。それでも、説明しているうちにお口の調子が良くなってきたようで、いつもの様にポンポンとお話しが進み始めました。
「今日、用意したプランターは、深さ25cmの標準プランターです。土は園芸専門店で買った野菜用の培養土。枝豆の種は…」
先輩の説明が波に乗ってきたのを確認して、私は皆が使うジョウロを取りに倉庫に向かいました。園芸部の道具は、用務員さんの倉庫に入れてもらっています。それと言うのも、用務員さんも一緒に使っているから。
「ジョウロ、二人で一つでいいかな? どこだっけ?」
倉庫のドアを開けると、埃っぽい空気が鼻をくすぐります。危険なものは、鍵付きの大きな工具箱に入っているといっても、薄暗い中に所狭しと色々な物が仕舞われているから、気を付けないとです。窓から入る明りで見えるから、電気は付けなくてもいいかな。
「ボクモ… ボクモ…」
「連レテ行ッテ… 出シテ出シテココカラ出シテ」
ジョウロをさがしていると、どこからか声が聞こえてきました。その声に、一気に全身に鳥肌が立って動けなくなり…
「僕ハネ… 僕ハネ…」
物が並べられている隙間から、私の目の前の隙間から、真っ黒なモヤが出て来ました。
「君ガ食ベタイナァ~…」
黒いモヤが私を包み込もうと、グワッと広がりました。
「味見サセテ~」
頭が包み込まれる! と覚悟した瞬間、体がグイっと真後ろに引っ張られました。
「駄目だよ。僕だってまだ味見していないんだから」
聞きなれた声と、抱きしめてくれた腕にホッとして顔を上げると、さっき以上にムスっとした冬龍君のお顔がありました。そして、冬龍君はポケットから水色の石のブレスレットを取り出すと、その靄に向かって投げつけました。
「ぎゃぁぁぁぁァァ!!」
物凄い断末魔に思わず耳を塞ぐと、冬龍君がギュッと抱きしめてくれました。
「大丈夫?」
「うん。ありがとう、冬龍君。
今の、『花喰い』じゃないよね? お化け?」
もしかして、頭だけパクン! て食べられちゃうところだったのかな?
「和桜ちゃん、一人でこんな危ない所に来ちゃ駄目だよ。僕に声をかけて」
言いながら、冬龍君は棚の上に置いてあったジョウロを見つけてくれました。全部で4つ。それを両手で一気に取ったので、私も持とうと手を差し出しました。
「ジョウロぐらい一人で運べるよ。それに、冬龍君は高橋先輩とお話ししていたから、邪魔しちゃ悪いでしょう?」
「僕が和桜ちゃんを邪魔だと思うと思う?」
ちょっと声を荒げながら、冬龍君が渡してくれたジョウロは一つだけ。
「ん~… 分からないなぁ」
人とお話ししている時は、よっぽどのことがない限りは、声掛けちゃ悪いし…
「和桜ちゃんは今まで僕とずっと一緒にいたのに、僕の事、分かってくれていないんだ」
それは、とっても悲しい声でした。それだけ小さく呟くと、サッと外に出て行ってしまいました。
「冬龍君!」
慌てて後を追います。けれど、冬龍君に追いつく事なんて無理な事で… すぐに見失っちゃいました。
逆光で冬龍君のお顔が見えなくて、声でしか判断できなかったけれど… もしかして冬龍君、泣いていたの?




