66・運動部の見せ所
66・運動部の見せ所
部活対抗リレーが盛り上がるのは、やっぱり運動部です。
バレーボール部・バスケットボール部・野球部・ハンドボール部・サッカー部・陸上部・テニス部・ソフトテニス部・バドミントン部・水泳部・剣道部・弓道部・柔道部・少林寺拳法部・空手部・合気道部・卓球部・体操部・応援団・和太鼓部・バトン部・チアリーディング部と、全部で22の運動部が男女混合で参加するんですけれど、盛り上がりの一番の理由はその恰好なんです。
「毎年思うのだけれど、運動部ってお祭り騒ぎが好きだよね」
走り終わった文化部は、トラックの内側に散らばって応援します。
頑張ってトラックの一周を走った私と片桐先輩は、冬龍君がスタンバイしている近くで応援できるのですけれど、準備している運動部の楽しそうな雰囲気に圧倒されちゃいました。だって皆、ユニホーム姿なんですもん。
「あの格好で走れるんだから、凄いですよね。バレー部さんとか空手部さんとかならわかるんですけれど、柔道部さんや剣道着さんは…私だったら無理です」
バトンは部活で使う道具です。バレーボール部さんやバスケットボール部さんはボールで、野球部さんやハンドボール部さんはバット。空手部さんとかの体一つで競う部のバトンは『帯』です。大変なのは、柔道部さんと剣道部さんと弓道部さんですかね? 柔道部さんは分厚い道着にバトンは畳! 剣道部さんはちゃんと防具もフル装備で、バトンは竹刀! 弓道部さんも袴姿でバトンは弓です。
「軽装でも、僕に水泳部は無理だな~」
片桐先輩、遠い目で何処を見ているんですか?
先輩の言う『無理』な水泳部さんの格好は、競泳水着一枚の姿で、バトンはビート版です。足ヒレはウケ狙いのオマケらしいです。ちゃんと、女子部員さんも二人参加しているのが凄いです。
私も無理かな~。あの足ヒレ付けては、二歩目で転んじゃいそう。
「それにしても、白川君はあんな走りをした後で、半周とは言ってもまだ走るんだから凄いね」
そうなんです。冬龍君、運動部のリレーにも出るんです。だから、トラックの内側で弓道着に着替えていました。体操着の上から着たから、暑そうだけれど…。でも、暑そうと言ったら、夏虎君も暑いだろうな。だって、このお天気の下で、剣道着に防具をフル装備にしているんだもの。… でも、面とか籠手とかちゃんと着けてるのに、飛び跳ねてるからあまり気にならないのかな?
第一走者がスタートラインに並んで、スタートの合図を今か今かと待っている時でした。
「ナオ、ちょっと来て」
ポン! と、ジャージ姿のミエルちゃんが私の右肩に現れて、コソコソっと耳打ちしました。
「ミエルちゃん? これから冬龍君と夏虎君が走るよ」
冬龍君も夏虎君も第三走者なので、スタートラインの手前で待機中です。
「あのね、助けてあげて欲しい人が居るの」
「困っている人が居るの?」
ウン。と頷いたミエルちゃんを肩に乗せて、私はそっとトラックから出ました。片桐先輩には「おトイレ」て言ったんですけれど、冬龍君はきっと気が付いたよね。私の方を見ていたから。
「ナオ、中庭に行って」
言われるまま、全速力で中庭に向かって走ります。肩にチョコンと乗っかったミエルちゃんは、体操着をしっかり掴んで落ちないようにしていました。
「ミ… エルちゃん、困った人… だぁれ?」
校庭からバタバタと走って来て、人気のない渡り廊下を横切って中庭に入りました。渡り廊下の壁に手を付けて、上がった息を整えながら、視線を足元から中庭の方へと上ると、そこは私の見知った中庭ではありませんでした。
「ここ…」
中庭の真ん中にドン! とある桜の大木の上から、シャワーの様にお日様とは違った光が中庭全体に降り注いでいます。その光は金銀桃色で、その中にとっても小さな光の粒が含まれていたり、植物の上には小さな虹がかかっていたり、大小の虹色に光る球体がフワフワしていたり…
「中庭よ」
私の戸惑いを即座に分かってくれたミエルちゃんです。
「すっごくピカピカしてるね」
「そんな事より、あっちあっち」
ミエルちゃんは、足を踏み入れていいのか戸惑っていた私の肩をパンパンと叩いて、桜の樹の方を指さしました。恐る恐る中庭に足を踏み入れると、サクッとした音と同時に、金色の粉がフワッと舞い上がりました。
サクサク、フワフワ… どんなにそっと歩いても、音は鳴るし粉は舞い上がるしで、桜の樹の下に付いた時には、運動靴はついた粉で金色に輝いていました。
「お待たせ~。この子なら、何とかしてくれると思うわ」
ミエルちゃんが桜の樹に向かって声をかけると、立派な幹にそっと真っ白な手が添えられました。
「すまぬ…」
そして、ひょこっと出て来たお顔は、とっても可愛らしい女の子! 白いお肌にふっくらとした頬は桃色で、小さなお口にはチョンチョンと小さく赤い紅。存在が殆どないお鼻に、涙が溜まった黒曜石みたいにキラキラ輝くまん丸な瞳と、その上にチョンと乗っかっている麻呂眉。黒々とした髪は綺麗に結い上げられていて、七夕の織姫様の様な桃色を主体とした着物を着ています。小学1~2年生ぐらいかな?
「こんにちは。 白川和桜です」
「わらわは天女の見習いじゃ。羽衣を頂いたから、飛ぶ練習をしていたのだが…」
天女の見習いちゃんは、半べそのままで私に半透明の白くてフワフワした物を差し出しました。
「この桜の樹の上で休憩しようとして降りてきたら、バランスを崩して落っこちちゃって、羽衣が破れちゃったんだって」
ミエルちゃんの補足に、天女の見習いちゃんはウンウンと頷きました。
「破れてしまっては、飛ぶことが出来ない。飛べないと、帰れない」
まん丸の黒曜石の瞳から、キラキラ輝く涙がポロポロと零れました。
「ナオ、何とかならないかな?」
何とか… と言われても、私も困っちゃいます。だって、今日は体育祭だから、ポケットにソーイングセットは入っていないんですもん。




