65・園芸部の存続をかけて
65・園芸部の存続をかけて
午後一番の競技は、部活対抗リレーです。この競技に参加するかしないかは、各部活で決めて良いそうなんですが… この話を片桐先輩から聞いたとき、園芸部の部員が仮入部込みで3人しかいないことを知りました。つまり、冬龍君と私と片桐先輩です。3人だと、ギリギリ同好会。6人から部活と認められるんですよね、うちの学校は。
だから、あんなに必死に私を勧誘してたんだ〜。て、納得しちゃいました。
「部活対抗リレーは6人で走るから、園芸部は不参加にしよう」
あの日、中庭でサンダーソニアの球根を一緒に植えながら話す片桐先輩は、元気がありませんでした。
「でも、6月の入部決定日に6人居ないと、同好会になっちゃうんですよね? 部活対抗リレーを走れば『園芸部』の名前がマイクで呼ばれるから、注目はしてもらえると思うんですけれど」
その前に、新入生レクリエーションの部活紹介に園芸部出ていたかな? 記憶にないなぁ~。
「… 僕、人前に出るのが苦手でね。いや、皆がみんな僕を見ている訳じゃないって分かってはいるんだよ。でもね、でも… 苦手なんだよ」
ションボリと、スコップでチマチマと土をいじる片桐先輩を見て「ああ、本当に苦手なんだな」て、思いました。ツンツンに立たせた髪の毛も、ションモリと下がっちゃっている様に見えます。
でも、このまま部員が入って来ないと困っちゃうので…
「先輩、頑張りましょうね!」
部活対抗リレーのスタートラインに立つ先輩の肩を、ポン! と軽く叩いて声をかけました。
「がががががんがる!」
… 片桐先輩、体がガチガチに固まっちゃってる。
先輩は部活対抗リレーに参加するのを、最後まで渋っていたんです。けれど、最終的に部員が欲しいからと、参加を決めました。問題は走るのは六人で、私達は三人。他の部活は一人が走る距離はトラック半周なんですけれど、私達は一周します!
『皆様お待たせいたしました。これから部活対抗リレーを行います。今年は参加する部が多かったので、文化部と運動部に分けて行います』
文化部だけでも15の部活が参加なので、ズラっとスタートラインに並ぶ男女15人。皆、今か今かと、ドキドキしながらスタートの合図を待っています。
パ~ン!
とスタートの鉄砲が鳴ると、その15人が一斉に走り始めました。周囲の応援も始まります。
『文化部の皆さんが、一斉に走り始めました。ここで、参加文化部の紹介をしたいと思います。
トップを走るのは先程も素晴らしい演奏を披露してくれました吹奏楽部です。当校の吹奏楽部は夏の甲子園での応援はもちろん、各種コンテストでも数々の実績を残しています。経験者の入部はもちろん、未経験者の入部もお待ちしています』
マイクで紹介されると、グラウンドで待機している吹奏楽部の部員さん達は両手を上げて、グラウンドの外の部員さん達は楽器を鳴らして、観客席にアピールします。
『続きまして、美術部です。わが美術部からは、数年前に画伯が誕生しました。今や売れっ子の絵本作家でもあるその方は、特別非常勤講師として美術の授業はもちろん、美術部の指導もしてくれます! さぁ、集まれ未来の画伯』
あ、この『画伯』で『売れっ子の絵本作家』で『特別非常勤講師』、桜雨お姉ちゃんの事です。忙しいのに、結婚前と変わらず私達のお世話もしてくれているんです。今日も、お弁当を作ってくれて、応援にも来てくれています。
『次に、合唱部です。合唱の世界に名高い『白桜の歌姫』は今も健在! その歌姫に教わることが出来るのは、我が合唱部だけ! さぁ、私達と一緒に魂を歌に乗せましょう!』
この『歌姫』は桃華お姉ちゃんです。梅吉兄さんの妹で、笠原先生のお嫁さん。今は近所の保育園で保育士として働いているんですけれど、一昨年から桜雨お姉ちゃんの様に特別非常勤講師として音楽の授業と合唱部の指導に来てくれています。もちろん、今日の応援席にも、桜雨お姉ちゃんと一緒に座っていました。
なんて思いながらも、一番後ろを走る片桐先輩を応援します。他の部活はもう第二走者が走っているんですけれど、私達は皆の二倍走るんです! 私も、頑張らなきゃ!
スタートラインに立って片桐先輩を待っていた私がバトンを受け取ったのは、やっぱり一番最後でした。
私は軽音部・写真部・演劇部・文芸部の紹介をバックに、トラックを一周します。午前の全学年混合クラス対抗リレーの時みたく走れているか分からなかったけれど、気持ちはあの時と同じです!
小粒だって、スピードはあるんだから! 顎を引いて、前を見て、人の倍一生懸命手足を動かして…
『おーっと、ここで先程の全学年混合クラス対抗リレーでも注目を集めた園芸部に一年生が、部活対抗リレーでも見せてくれます! 園芸部は三人での参加なので、一人がトラックを一周します。他の部の倍です! それなのに、ごぼう抜きです! 力強い足取りで抜いて行く姿はまるで野ウサギの様です!』
そんな実況は、右の耳から入って左に抜けちゃいました。走るのに夢中で、バトンを冬龍君に渡すことに夢中で、周りの応援も他の部活紹介も風と一緒に流れていくだけです。
「冬龍君!」
「任せて」
バトンを受け取ってくれた大きな手が、いつも以上に頼もしく見えます。風の様に走って行く背中を見ながら、スタートラインの端に自力で移動しました。移動して、座り込んじゃいましたけれど。
「白川君! 君、やっぱり凄いよ!! 15位から5位まで、十人抜きだよ!」
そんな私の横に、片桐先輩が這って来ました。走った後、力尽きて大の字に寝そべっていたみたいです。そんな人達が、あちらこちらに… 走り終わった人で、立っている人は居ないみたいですね。
「先輩、三位までに入れば、マイクで一言いえるんですよね? セリフ、考えておいた方が良いかもです」
茶道部・華道部・書道部・放送部・将棋部・家庭科部・パソコン部の紹介が流れる中、冬龍君は颯爽と前を走る五人に追いついて、どんどん抜いていきます。そして…
『最後に『園芸部』です。緑化委員会と共に、我が校のお花のお世話をしてくれています。植物のお世話をしながら、自然を学べます。植物好きな子、是非とも園芸部へ!』
部活紹介の最後は園芸部でした。その紹介アナウンスと同時に、冬龍君はゴールテープを切りました。




