22・キャンディと甘やかし
赤いルビーの鍵は、ミエルちゃんの胸元に。
黄色いトパーズ鍵は、私のお守り袋の中に。
緑色のエメラルドの鍵は。ケット・シーちゃんの手に。
半透明の深緑色の翡翠の鍵と、無色透明のダイヤモンドの鍵は、プリムラ君に戻りました。
翡翠の鍵は、カッパさん達とのお相撲の後、私達が帰った後にフェイさんが見つけてくれたそうです。小さなカッパさんの足の水かきにくっついていたらしく、次の日の早朝から探していたミエルちゃんの前に現れて、返してくれたそうです。
ルビーの鍵は、ミエルちゃんが胸元に下げているのが気に入っちゃったからと、プリムラ君に返しませんでした。
トパーズの鍵は、プリムラ君に渡したんですけれど、私が少し放れると泣きだすんです。鍵全体からじっとりと水が滲み出て、持ってい人も何だか悲しくなっちゃうみたい。それに、泣いてもさらに放れると、いつの間にかお守り袋の中に入っているんです。だから、プリムラ君が
「その鍵の気が済むまで、持っていてあげてください。所詮、ボクは持ち主失格なんですから。鍵にまで、見切りを付けられたんです」
と、またまたネガティブ全開でした。
22・キャンディと甘やかし
この数日の鍵探しで、思ったより体は疲れていたみたいです。玄関で靴を脱いだら、あまりにも体が重く感じて、ハイハイで階段を上がってリビングのラグに寝転がっちゃいました。その後ろを、私の鞄を持って冬龍君が付いて来てくれました。きっと、呆れたお顔でしたよね。
「お風呂、入れるみたいよ。そのままだと寝ちゃうだろうから、入っちゃえば?」
冬龍君の言葉に何とか膝を立てて、またハイハイで数メートル先のお風呂に向かいました。お風呂には『マヌカ』のアロマエッセンスを数滴入っていて、淡く甘い香りと温かいお湯に私の体も心もグズグズに溶けちゃいました。何とか頭と体を洗って、いつの間にか用意されていた部屋着を着て、重い瞼を擦りながら髪も濡れたままリビングに戻ると、テレビの前でお風呂上がりの冬龍君がニュースを見ています。このお家は人数が多いから、お風呂が二つあるんです。
「和桜ちゃん、こっち」
冬龍君が、自分の前を手に持っているドライヤーでさしました。
「う~… ありあとぅ」
冬龍君の前に背中を向けてペタンと座り込むと、大きな黒猫ちゃんクッションを渡してくれました。この黒猫ちゃんクッション、このお家では『クロ』と呼ばれていて、リビングで寛ぐとき、皆は抱き枕にしているんです。ギュッ~っと抱きしめて前かがみになれば、洗いざらしの髪を、冬龍君が優しくドライヤーで乾かしてくれます。
「明日、学校休みで良かったね」
ドライヤーの音と、冬龍君の声が混ざって聞こえます。
「… うん」
「明日、科学のミニテストの直し、しようね」
髪に触れている冬龍君の手が優しいな。
「… うん」
「夕飯、食べる?」
眠いなぁ… 温かいなぁ… 動きたくないなぁ。
「… うん」
お風呂で温められて、優しく髪の毛を乾かしてもらって、冬龍君の優しい声が子守歌みたいで… 半分落ちていた瞼が、さらに下がってきました。
「和桜ちゃん、お口開けて」
8割ほど夢心地になっている私の頬を、冬龍君がペチペチと軽く叩きました。いつの間にかドライヤーは終わっていて、私はクロを抱いたまま冬龍君の胡坐の上にコロンと転がされていて、冬龍君のお顔が直ぐ近くにありました。
「小さいから、直ぐに溶けちゃうと思うよ」
そう言って、軽く開けた私のお口の中に、冬龍君が何かを落としました。
「ん!!」
たちまちお口の中に広がる蜂蜜の甘味。それはとっても濃厚な甘みなのに、一瞬だけ苦味を感じました。
「目、覚めた?」
冬龍君が私の反応を見て、少し笑いました。
「すごく美味しかった」
お口の中に入ったモノはもう溶けちゃったけれど、甘味はまだあります。
「ミエルちゃんが作ったキャンディだよ。和桜ちゃんと僕ように、いつもより大きく作ってくれたらしいよ」
言いながら、冬龍君は傍に置いていた小さな薄紅色の包みを見せてくれました。その中には、蜂蜜色というよりベッコウ色に近い丸い物が3つ入っています。まるで、小さなビーズみたい。
「鍵を探してくれたお礼だって。100%マヌカハニーのキャンディ、貴重だね」
もう一つ、冬龍君はキャンディをお口に入れてくれました。味に集中したくて目を瞑ります。小さなキャンディーをコロンと舌で転がして、濃厚な甘さと一瞬の苦みを楽しみます。
「今夜は、姉さん達が夕飯作ってくれるらしいから、それまでゆっくりしていなよ」
そんな私の髪を優しく撫でながら、冬龍君がトントントントン… とゆっくりしたリズムでクロを抱きしめている私の手を叩くから
「… うん」
せっかく半分は目が覚めたのに、今度は完全に瞼が下がっちゃいました。
キャンディの甘い味と香り、アロマエッセンスのほのかな香りと、体を包み込んでくれる冬龍君の温もりに、春のお花畑にいるようでした。




