23・お友達の巫女神様
23・お友達の巫女神様
この神社はここら辺では一番大きい神社で、イチョウの木がたくさんあって、秋になると食べきれない程の実がいっぱい落ちるので、お裾分けで貰いに来ます。
この町にお引越ししてきた時、冬龍君と夏虎君がご挨拶に連れて来てくれました。
「お賽銭を入れる箱の奥の扉は閉まっているけどね、中にいる神様からはよ~く見えてるんだよ」
そう言って、冬龍君と夏虎君は大きな声でご挨拶して、私もマネをしてご挨拶したのをよく覚えています。その日以来、私も冬龍達のようにチョコチョコとこの神社にお参りに来ていました。お正月や夏祭りはもちろん、進級や何か新しい事を始める時、気持ちに迷いがある時、嬉しい事や悲しい事があった時、もちろんお礼にも来ます。冬龍君や夏虎君が一緒だったり、皆で来たり、お姉ちゃんのお家で飼っているワンコの秋君のお散歩のときだったりと色々です。
お賽銭箱の上の鈴を鳴らして、ご神殿の扉の前、三段だけの階段の一番上に座ると、いつの間にか巫女さんがお隣に座っているんです。
「随分と、面白い事になっていたようだな」
今日も、私のお隣に座っています。長い黒髪で赤い袴姿の巫女さんは、私と同じぐらいの身長で、お顔はいつも光っちゃってぼんやりとしか見えないんです。
5月の早朝5時。ウインドブレーカー姿で、お参り目的のランニングです。ていっても、走るのは苦手なので歩いて来ました。
「何だか、一生分の不思議体験をしちゃいました。
あの時、マーメイドさんの歌に誘われて、イピリアさんの聖域に入りそうになった時、進まないように音を立ててくれたんですよね? ユウさんにも知らせてくいれて、ありがとうございます」
私の横に座っている巫女さんは、この神社の神様なんです。私達は『巫女神様』て呼んでいます。
「あの学園はな、ギリギリ守護範囲外でな。あれが精一杯だった。許せ」
「許すも何も… 助けられてばっかりです。本当にありがとうございました」
「結局、冬龍が聖域に足を踏み入れたがな」
「あれは、しょうがないです。でも、あの後のカッパさんとのお相撲、とってもおもしろかったですよ。… いつもの中庭が、とっても幻想的で物語の中に入っている感じでした」
きっと、お姉(従姉)ちゃんがあの場に居たら、下ろしたてのスケッチブック使いきっちゃうぐらいにスケッチするんだろうな。
「桜雨がいたら、夢中でスケッチしていたであろうな」
ビックリです。巫女神様、と同じ事を思っていました。
巫女神様が言う『桜雨』さんが、私の従姉のお姉ちゃんです。学校の美術の先生で、画家さんで、写真を撮る様に絵を描く人で、お料理がとっても上手なのに不器用なんです。
「そうそう、あの場に梅吉と三鷹も居ったのだがな、監視カメラをチェックしたり、二人でカッパ共の足跡を消したり、渡り廊下の掃除をしたりと、証拠隠滅をしておったな」
『三鷹』さんは桜雨お姉ちゃんの旦那様で、学校の先生で、あの日は夏虎君と剣道の練習をしていたみたいです。
梅吉兄さん、直ぐに学校に戻るって言っていたのに姿を見なかったのは、そのためだったんだ。
「人間は色々と柵があって、大変だな」
「大変なことは、お兄さんお姉さん達がやってくれるから、私は楽ちんです。… たまに、こんなに甘えて良いのかなって」
家族の人は皆優しくて、たまに申し訳なく思う事があるんです。
「良い良い。あ奴らが好きでやっている事だ。好きにやらせて良い。… そうだな、和桜が申し訳なく思うのなら、皆に優しくされた以上に皆に優しくしてやれ。皆と同じぐらい、他人に優しくしてやれ」
巫女神様は笑いながら言うと、膝の上に置いた私の手の上に、自分の手を重ねました。真っ白で、陶器の様にツルツルしていて冷たい手です。
皆や、他人に優しくか…
「あ、そうだ、これ… 巫女神様にお供えしようと思って」
忘れちゃう所でした。ミエルちゃんから貰っていた蜜柑の蜂蜜を、巫女神様にも味わってもらおうと思って、持って来たんでした。
ポケットの中から金色に輝く小瓶を取り出すと、巫女神様の手に渡しました。
「おお、ギョリュウバイの花の妖精の蜂蜜か。有難く頂こう。それとな、蜂蜜酒も味見をしてみたいのだが」
嬉しそうな巫女神様の声。
「僕達、まだ未成年ですよ。お酒は20歳になってからなので、気長に待っていてくださいね。
おはようございます、巫女神様」
私の前に現れたのは、ウインドブレーカー姿の冬龍君でした。タオルでお顔の汗を拭いても、すぐに噴き出しています。
「真面目め。顔は美和に似ているのに、中身はますます勇一に似て来たな」
美和さんは冬龍君のお母さんで、勇一さんは伯父さんです。
「褒め言葉と受け取ります。
先日はありがとうございました。色々と、助かりました」
「よいよい。時間がある時にでも、舞ってくれればそれでよい」
冬龍君が深々と頭を下げると、巫女神様はご機嫌な声で言いながら立ち上がりました。
「そうさな、久しぶりに鈴がよいな。時間がある時でよいぞ」
巫女神様は楽しそうに言いながら、姿を消しました。
「サヨさんに神楽鈴、出してもらわなきゃね」
巫女神様の言う「時間がある時」は、出来るだけ早くって事なんですよね。今日は土曜日で学校もお休みなので、舞うなら今日ですね。
「午前中に、勉強を終わらせようか」
冬龍君は軽く溜息をついて、私に手を差し伸べてくれました。その手を取って立ち上がると、私達はご神殿に向かって一礼。そのまま手を繋いで、歩き始めました。




