18
「手緩いですわ、お兄様」
多忙な中、時間を作って捻出した同腹の妹とのお茶の時間。
当の妹たる、第二王女・メイヴィスは開口一番そう言った。
マーカスはミートパイにナイフを入れて首を傾げる。
「何の話だ?」
「セシアのことです!アニタから報告は上がってきていましてよ!」
セシアの件、と聞いたところでマーカスには意味が分からない。
名の上がった侍女長に視線をやっても、そつのない彼女は顔を上げることなく控えている。
アニタはメイヴィスやマーカス同様、母親が外国の出らしいのだが、数か国語を操る才女で城中のことに詳しく、メイヴィスの貴重な情報源を担っていた。
「落ち着け、メイ。セシアがどうした?」
「聞けば、バーンズ家の次男と仕事上のパートナーを組むとか」
「耳が早いな。あいつらは得意分野が被っていないし、互いに上手く作用するだろ」
二課の仕事は、実地調査もあることをメイヴィスも承知している。
実際には警備部の仕事に、片足どころか腰までどっぷり浸かっていることまでは知られていないだろうけれど、マーカスは内心の考えをちらりとも見せず機嫌よく語った。
「それですわ!」
「どれだ」
「年の近い男女が、互いの欠点を補いあって日々職務に励む……仕事での人間関係が一番恋愛に発展しますのよお兄様!セシアがバーンズの小倅にかっ攫われてもよろしいのですか!?」
「流行ってるなぁ、通俗小説」
マーカスはパイを一口食べて、笑う。
「もう!お兄様はとても素敵だしカッコイイし最高ですけれど、セシアは平民出身だし、お兄様がちゃんと掴まえておいてあげないとフラフラしてしまうかもしれませんわ!あの人、自分はしっかりしてるつもりだけど、意外とぼんやりさんですし!」
人見知りで友達の少ないメイヴィスが真剣に案じるものだから、マーカスは微笑ましい気持ちで妹の成長を見守る。
「しかし、随分セシアのことがお気に入りだな。将来侍女にでもするつもりか?うちの課員はやらんぞ」
マーカスが言うと、キッとメイヴィスは兄と同じ翡翠色の瞳で睨みつけた。
「セシアはお友達ですわ!そりゃあ、わたくしの侍女になってくれたら嬉しいですけれど……学園を首席で卒業した才媛を引き抜いては、方々に角が立つことぐらい、弁えていますわ」
「お、えらいぞメイ」
髪を乱さないようにそっと頭を撫でてやると、メイヴィスはぽっ、と嬉しそうに頬を赤らめる。
彼女は、セシアの淑女教育の一環として協力してくれていて、時折王女の侍女に変装させて、仕事を体験させているのだ。
貴婦人の動きや、使用人に接する時の様子、他の貴人に対する時の様子などを観察するのに、王女の傍ほど最適の環境はない。
それもあって、この半年でセシアとメイヴィスが更に親交を深めていて、メイヴィス自身は言葉を選ぶが、誰がどう見てもセシアのことが大好きなのは明らかだった。
「って、今はわたくしのことではなくて、お兄様のことですわ!よろしいんですの?セシアが別の殿方と恋をしても!?」
びし!と言われて、マーカスは目を丸くした。
「俺はセシアの保護者でも恋人でもない、彼女が恋愛をすることを制限する権利はないぞ」
マーカスが何でもないことの様に言っても、メイヴィスはちっとも譲らなかった。
「お兄様、後で気付いても遅いんですのよ。悪いことは申しませんわ、セシアのことをしっかりと掴まえておくべきです」
真剣な様子の妹に、マーカスは仕方なく最後のカードを切ることにする。
「掴まえておくも何も、俺にはれっきとした婚約者殿がいるだろう?かの方がいるのに、セシアを恋愛的にどうこうなどと、双方にとって失礼だぞメイ」
「…………そうですけれど……」
浮ついた気持ちに冷や水を差し向けられたかのようにしぼんだメイヴィスは、きゅっ、と唇を窄める。
「……わたくし、あの方は苦手ですわ」
「……そういうな、未来の義姉上だぞ」
屈託がなく素直で純粋ながらも、王族らしく矜持が高く公平なメイヴィスらしからぬ物言いに、嫌われたものだな、とマーカスは自身の婚約者の美しい顔を思い浮かべて苦笑した。
「……では、恋愛や、結婚ということを抜きにして、兄と妹の会話として答えてくださいませ、お兄様」
「うん?」
メイヴィスは、まだ真剣な顔をしていた。
「お兄様は、セシアのことを、どう思っているんですか?」
どう、とは?
「強くて、可愛くて、威勢のいい女だと思ってる」
「ううん……ちょっと、本人には言わない方がいいかもしれませんわね」
兄の意外なセンスに、メイヴィスは微妙な表情を浮かべた。




