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会議が終わると、セシアはマーカスに呼ばれて訓練場へと向かった。
半年前から始まった彼女の執行官としての訓練は、戦闘訓練と貴族の女性として振る舞う訓練を午前中いっぱい、一日置きに続けているのだ。
順番的に体術の訓練の日で、いつもはマーカスの師でもあり退役した騎士のロバート卿が受け持ってくれているのだが、時折マーカス自身が進捗確認と称して指南役を務めていた。今日はその日だったらしい。
「魔法も交えて、打ってこい」
動きやすい服装のマーカスが、構えもせずに気楽な様子で言う。
「はい」
言われた言葉に、セシアは拳を握った。
うっかり人を殺してしまわない為に加減を覚えることと、今後人を守って任務を遂行する為に、体術や魔法を合わせた戦闘訓練は必須だ。
元々その腕を買われて課員になったレインやキース、地方の学園でそういったカリキュラムを修めてきたロイから比べれば、ただの文官のつもりで就職したセシアは一歩も二歩も遅れていた。
フェリクスだって、セシアよりも年上で元々は騎士として働いていた。
騎士隊の中では特に荒事も解決するような役回りだったらしく、その処理能力を買われてそして何より本人がマーカス王子に心酔していた為強い希望もあって、人事異動で今回経理監査部二課への配属になったのだ。
確かにフェリクスの言う通り、二課の中で「生意気」なのはセシアなのかもしれない。
セシアがこの部署に配属されて半年。一番能力で劣るのは自分だと自覚があった。
魔法でマーカスの足元を掬い、セシアは打撃を打ち込む。
体勢を崩しつつも、彼の方も自分の体を魔法で支えてフォローし、その攻撃を防ぐ。
体格的に男に劣るセシアは、ヒットアンドアウェイが基本攻撃姿勢だ。正攻法で突っ込むのではなく、相手のミスを誘う戦い。
だが、これは正直なところ相手が手練れであればあるほど、チャンスが少ない。マーカスもよく心得ていて、セシアの隙をついて攻勢に転じる。
防戦一方になってしまった時点で、セシアの負けは確定していた。
体力面でも勝るマーカスに、戦いが長引けば有利になるのは彼の方だ。
最後に腹に一発食らう寸前で寸止めされて、終了となった。
「……ありがとうございました」
汗だくのセシアは、へなりと膝をついてしまう。
マーカスは笑って、彼女の前に同じ様に座り込んでセシアにタオルを渡した。
「うん、いい具合だ。腕を上げたな、セシア」
「……息一つ乱してない方に言われても、嫌味なだけです……」
ハァハァと息を荒げながら、セシアは悔しそうにマーカスを睨む。
それを見て、彼は弟子の成長を喜んで快活に笑った。
「何度も言うが、お前をスカウトしたのは女性執行官が必要だったからだ。冷静かつ臨機応変に対処が出来て、負けん気の強い女性がな。腕っぷしが強い女性が欲しけりゃ、女性騎士に声を掛けるさ」
「……でも、最低限、戦える者である必要がありますよね」
セシアの言葉に、マーカスは肩を竦める。
「お前はよくやってるよ」
投げ出されたセシアの手を握って、マーカスは励ます。
先程コテンパンにしてきた相手に言われても、セシアの気分は晴れはしないのだ。
「悔しい。いつか容赦なく投げ飛ばしてやる」
「いいな!その意気だ。……でも調査の際は、正面から当たるなよ。逃げたり、別の奴とぶつけることも戦略だと考えろ」
「……はい」
彼女の息が整うまで、なんとなくマーカスはセシアの手を握っていた。




