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挟撃

 徳政令、たいそう気高い字列だが、実質は結構薄黒い。

 端的に言えばえこひいきだ。

 借金を棒引きにすれば金を借りていたものは喜ぶだろうが、貸していたほうはたまったものではない。貸した金を奪われたも同然なのだ。

 当てにしていた利息も込みで。

 つまりは、誰を敵に回してよいか、誰を味方に取り込むか。

 直虎にしてみれば、氏真を敵に回す勢力と手を組みたいところだ。

 だから、ぎりぎりまで、徳政令発布を控えるつもりだった。

 最終的に屈することになるが、その間に、氏真を憎む勢力をどれほど味方に引き込めるか。ねらい目はそこだ。

 氏真がこのような手段に出なければならないほど、その立場は危うくなっている。徳政令は直虎が家督を継ぐ前から出されている。それだけ恨みを買っているということだ。

「すでにいくつかの家が武田に伝手を飛ばしているそのことを薄々悟ってはいるだろう」

 書き物机に肘をつきながら直虎は呟いた。

 直虎はさすがに氏真を哀れまないがそれでもずいぶんとかわいそうな立場に置かれている。

 すでに、氏真の妹である武田の嫡子の正室は幽閉の身をかこっていると聞いた。

 武田は長年、上杉のいる越後を狙って幾度も戦を仕掛けている。

 内陸国としてはどうしても海が欲しい。信州を超えて越後を、それは武田の悲願といってもいい。

 しかし、今ここにより手近に弱体化した沿岸国があると気づいた時、武田は己を抑えるはずもない。

 そして、そうした動きを氏真もわかっているのだ。

 そして、氏真も動いていた。

 武田の宿敵、越後の寅御前に密使を送った。

 それらも、すでに直虎はつかんでいた。寺社というのはそれ自体が一つの情報網だ。

 それを利用して、様々な情報を直虎はつかんでいた。

「あちらも戦国大名の一人、利がなくば動かない」

 越後の寅御前は他国侵略にはあまり興味がないようだが、越後を死守するためには手段を択ばない。

 略奪や奴隷狩りもまた越後の主要産業となっている。

「おそらく」

 直虎は地図を眺めた。

「越後と駿河で、甲斐を挟み撃ちというところか」

 すでに武田は同盟国ではなくなっているとすでに武田は同盟国ではなくなっていると氏真は判断したのだろう。

 もっとも、越後が、駿河の弱体ぶりを悟ったその時すべては終わるだろう。


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