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三角とその内側

氏真はもはや武田と完全にたもとを分かつことを覚悟したらしい。

 それによって行われたのが、武田塩止めだった。

 塩止めといわれても内陸部にあたる所領を持つ直虎にはあまり関係はない。

 だが、時期に武田が攻めてくるという前触れに過ぎない。

 北条との共同戦略ではあるが、その北条もどれほど持つか全くわからない。

「おそらく武田に内通している連中が騒ぐかもしれないがな」

 そう呟く。

 越後に内通したくても位置的に武田が障害になっている。さすがにそこまでやろうとする者はいないだろう。

 その塩止めにもちろん越後も一枚噛んでくることになる。

 塩というものは染織りなどの産業にも使うが第一に、生命維持に欠かせないものだ。それを止めて全く無くしてしまえば生きるか死ぬかの問題になる。

 そうなれば、武田は死兵となって駿河に押し寄せてくるだろう。追い込みすぎるのはまずいのだ。

 どんな戦であっても、どこかに抜け道を作り、逃亡を進める。死兵というものはそれだけたちが悪いものなのだ。

 その場合、どこかに逃げ道を作らねばならない。その抜け道が越後だ。

 越後から塩を送る。

 上杉が、積年の怨敵である武田に救いの手を差し伸べる。これが本当なら美談であるが、そんな美しい話などあるはずがない。

 そもそも大名といえど、臣下の声に耳を傾けないはずがない。

 武田を助けるなど、上杉家臣団に聞く耳などあるはずもない。

 武田と戦った時命を懸けるのは彼らとその家族なのだ。

 上杉は、塩の値段を徹底してあげることになっている。

 塩は決して安くはない。他国から入ってくるならより一層高い。

 さらに値上げするならとんでもない価格となる。そうなれば武田の軍資金を丸々いただけることになる。

 つまりこれは血を流さない作薙ぎなのだ。

 武田の軍資金を奪い去れば、当分思い切った軍事行動はできないだろう。それにより、時間を稼ぐ。

 だが、それはあくまで時間稼ぎ。いずれ来る日を先延ばしにしているに過ぎない。

 一儲けした寅御前はしばらく今川に好意的であるだろう。おそらくその借りぐらいは感じてくれるだろう。

 それにすがりきることはできないだろうけれど。

 直虎はそっと空を見た。

 誰もが、まじかな未来は見える。だがそれを超えた未来は見ることができない。

 すべては賭けだ。

 武田がやってくる。そして上杉は北条はどう動く。

 そして、直虎が賭けた徳川はどうなるのか。

 駿河どころでなくこの島国は別の動乱を抱えていた。

 その主役は織田信長。

 そして彼の動きもまた読みづらく、だがそれなしには予測すらつかない。

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