任されて
うっそうたる森の中、尼僧が佇んでいた。
核が壊れたままでは立ちいかない。次郎法師は修復のため木々の伐採に立ち会っていた。
木の伐採は難しい仕事だ。気をむやみに切るわけにはいかないが足りないのも困る。
次郎法師が立ち会うのもどの木を切るか確認するためだ。
谷という地形の関係上一番恐ろしいのは地滑りだ。そのため伐採は細心の注意を払って行われる。
曽祖父直平が当主に返り咲いてから次郎法師はその補佐のような仕事に就いた。
老齢の直平に代わって領地を飛び回るようになったのだ。
森林から帰った次郎法師に祖父から話があると呼び出された。
直平はどこか困惑しているようだった。
「どうなされました」
「氏真が、信長に戦を仕掛けると」
「何でですか?」
「義元の弔い合戦だとか」
「今から?」
次郎法師は困惑を隠せない。あれから何年たっていると思っている。すでに弔い合戦がどうとかの時期だはなくなっている。
それに今信長は着々とその地盤を固めつつある。すべてが遅すぎる。
「氏真は正気ですか」
直平も深いため息をついた。
信長に今戦を仕掛けても、勝ち目に乏しい。それは誰の目にも明らかだ。
信長は自らの腹心を広く外部から求める。伝手がないためあぶれている人材を広く募集して集めている。
家臣は代々続く家系からというこの時代の常識を覆す行動に出たのは十年以上に及ぶ織田家の家督争いに端を発している。
織田家は随分と多産な家系で三男の信長に家督が譲られても、その兄や弟さらに叔父たちが家督を狙い陰謀を張り巡らせた。
さらに譜代家臣も自分たちの雄織田渦中の人物につき、信長は孤立無援の戦いをよぎなくされた。
そして考え付いたのが野にいる人材を拾ってくるということだ。
不遇な環境から救われたと、信長に恩義を感じれば裏切ることも在るまいと考えたのだろう。
家督争いが十年に及べば身内のみならずそれに付き従った家臣も切らねばならない。それを繰り返せば人材も枯渇する。
その事態もそれで補うことができた。
義元は織田を簡単にひねることができると思っていた。それは今までの常識に従えばさほど間違った判断ではなかった。ただ相手が常識を超えた行動をとっていただけだ。
そして今信長の広く人材募集する姿勢はは広がった領地の運営に大きく貢献している。
「なんで相手がかつて以上に力をつけてから弔い合戦をしようなんて考えるんですか」
「それはわしが知りたい」
「氏真は焦っているんでしょうかね」
「そうかもしれん」
しかし今氏真を止められる人材はいない。
「それで、しばらくわしは留守にする、後を頼む」
当主代行を次郎方針頼むということだ、異例ずくめだがほかに人材がいない。
この老齢で戦に引っ張り出される直平の身が案じられるが次郎法師としてはわかりましたとしか言えない。
大任に胃が痛くなるような思いで深々と頭を下げた。




