無口は不意の味
新年明けましておめでとうございます。生きてます。
ちょっとずつでも更新速度上げていきます。
ルームメイトとの奇妙な対面から数か月がたった。相変わらず顔を合わせる度に不快感がするので最初のうちは部屋に戻るのが億劫だったが、嫌なことでも日課になってしまえば気にならないようだ。やはり人間は慣れる生き物のようで、一か月間毎日顔を合わせていたら慣れてしまった。ゴキブリを見たら害がなくとも嫌な気持ちになるように、モレクもそういう存在なのだろうという結論に至ったのだ。ちなみにそのことをそのまま本人に伝えたら、クラス中に俺が男色野郎という噂を広められたため、現在その話はNGとなっている。
「さてさて来たぞ、俺の時代が来たぞ!」
「いや、別にラッツの時代は来てないと思うよ」
そんなゴキブリみたいなルームメイトはさておき、ラッツがいつものようにハイテンションで息巻いていた。そしていつものようにユリウスに突っ込まれる。そんないつも通りの光景に、少し変化が起きていた。具体的な変化といえばダグラスがいつもより殺気立っていて、より一層女子が近づき辛くなっていたり、ミーシャがいつも以上にオドオドしていたり、いつも通り突っ込んだユリウスも少し高揚してるように見える。さらに言えばクラス全体が熱気を帯びており、少し殺伐としているのだ。その理由は、近々一つの行事が行われるためである。
「今回の『学戦祭』こそ俺が優勝して、モテ男になるんだ!」
「いやいや、動機が不純すぎるし、優勝するのはボクだから諦めなー」
「・・・いや今回は俺が優勝をいただく」
普段は喋らないダグラスでさえ、声に出して闘志をむき出しにしているのだ。このイベントがどれだけ重要か想像に難くない。その影響か、教室内ではちょくちょく小競り合いが起きるようになった。少しでも技術を上げるために練習相手を探しているのだろうが、皆熱くなり過ぎじゃないだろうか。普通にケンカに発展してるのを見るのも珍しくなくなっている。
そんな熱くなっている内で、割と冷めている者がいる。それがミーシャと俺だ。ミーシャは言わずもがな、争いが嫌いなので乗り気でない。俺に関してはあまり目立ちたくないため、こういった人の目に触れるようなイベントは苦手なのだ。前世の学校でも文化祭のライブなどで舞台に上がっていく人間を見て、住んでいる世界が違うと思ったのは俺だけではないはずだ。
そんな完全に『学戦祭』に対して他人事モードになっている俺だが、少し楽しみにしてたりもする。何故かといえば、よく絡んでいるラッツ、ユリウス、ダグラス―――――さらに言うとミーシャも含まれる―――――は普通に強いのだ。なのでもしかしたら良いところまで勝ち進んでいくんじゃないかと密かに期待している。
ラッツは見た目はちょっとアウトロー気味だが、男として見ると割と華奢だ。だが、そんな自分をよく理解しており、相手を近づかせない遠距離型で手数も豊富、討伐依頼でも強いやつと戦いたいと言っているのも納得できるくらいには強い。
ユリウスは全てにおいて優秀だ。ラッツとは正反対で、ユリウスは女子の中でもトップクラスに身体能力が高い。なので接近戦もいけるし、妖精との付き合い方が上手いらしく、魔法の威力も高い。自分が予想していなかったことに対しての対策が課題となっているらしいが、ある程度は対応できることだろう。
ダグラスは見た目の通り、接近戦が大の得意だ。本人が心優しいのであまり争っているところを見ないが、喧嘩で負けたところを見たことがない。その反面、妖精との付き合いがあまり芳しくないらしいが、この間素手で他人の魔法をぶっ飛ばしているところを見てしまった。ダグラスならきっと不利な相手でも筋肉で解決してくれることだろう。
ついでにだがミーシャは防御が格段に上手い。さらに治療も出来るため、大人数で戦闘をする際にめちゃくちゃ重宝される人材だ。ただ、攻撃に関してはお察しなので一対一ではあまり活躍はできないだろう。取れる戦術としては相手のマナ切れくらいだろうか。
「なーに一人で達観した顔してんのー?」
「ん?いやー、三人とも良い所まで行くんじゃないかなって」
「おー?微妙に上からじゃん?何様だこのヤローっ」
「・・・おいおい、ユリウス。ハイラ痛がっているから止めてやれよ」
勝手に皆の戦力分析をしていたらユリウスに絡まれてしまった。コブラツイストのような技をかけられているが、正直そんなに痛くない。思春期の女の子がこんな中身おっさんに絡みついて良いのだろうか。俺の守備範囲に中学生が入ってなかったのがせめてもの救いだが、ユリウスには少し慎みを持ってほしいものだ。というか、普通に時代が変われば事案だろう。ラッツに少し嫉妬の入った目で見られているし、馬に蹴られて死ぬ趣味は俺には無い。
「いてて。そうは言っても三人とも自信はあるんでしょ?一緒に依頼こなしてても強いなーって思うとき多いし」
「おっ。嬉しいこと言ってくれるじゃーん。このこの」
「あ、このノリまだ続いてたのね」
このさっぱりしてボディタッチが多い性格なので女はもちろんのこと、男にも人気が高いユリウスだが、一部の女子からは少し疎まれていたりする。理由は詳しく言わないが、好きな男の子にベタベタしているのを見ていい気分になる人は少ないだろう。
そう思うとこのチームは割と問題児というか、一癖あるやつしかいない。ダグラスは戦闘力もとい筋肉が凄いことになっているため、男子からの人気は絶大だが、顔の怖さとその膨れ上がった筋肉、また無口な性格というのも相まって女子からの人気は悪いのだ。ミーシャはオドオドしていて顔立ちも小動物のような可愛さがあるため、どうも庇護欲を煽るらしく、男子からの人気が高い。ただ、そのオドオドした性格が鼻に付くらしく、女子からの人気がイマイチなのだ。ラッツに関してはお調子者のキャラが板につき、男子からはよく絡まれて楽しそうにしているのをよく見る。しかし女子からは調子に乗っているという理由で嫌われているそうだ。あれ、これウチのチームが変なんじゃなくて、クラスの女子が性格悪いだけではなかろうか。
「ユリウスは早くハイラから離れろよ・・・。てか今日どうする?皆何にも予定無いなら依頼受けに行こうぜ」
「ああ、いいんじゃない?俺も予定無いから行こうよ」
ユリウスが中々俺から離れてくれなかったからかラッツがあからさまに話題を変えたが、俺もそろそろ離れてほしかったため便乗することにした。コブラツイストからいつの間にかヘッドロックに変わっていた腕を解き、元々ユリウスが座っていた席に座る。
「んー、確かにボクもこれから予定なかったし、サンセー。ミーシャは?」
「わ、私も予定ないし、大丈夫だよ」
「・・・俺も構わんぞ」
全員特に予定がないということだったので、とりあえず依頼に行くことが決定した。
「とりあえず今日は何系行く?」
「はぁ?この流れなら討伐系一択だろ!ウッドウルフかカットクラブあたりが良さそうじゃねーか?」
ラッツが名前を挙げた魔獣はどちらもDランクに位置づけられる。ウルフ系は基本的に群れで動くため数が多い上に、一体一体の戦闘力も割と高いのでCランク以上によく見受けられるが、ウッドウルフは単体行動を好むためランクが低めなのである。カットクラブは全長50センチほどの蟹だ。特徴は何と言っても殻の硬度。生半可は攻撃ではヒビすら入れられないほど硬いが、魔法に対する耐性はあまりないため基本的には距離をとって魔法でチクチク攻撃して倒す魔獣である。どちらも倒すのにそこそこ苦労するため、中等部の学生がレベルアップしたい時などに挑む相手だ。
「でもさー、学戦祭近いし皆そこらへんの依頼受けてるんじゃない?」
「・・・一理ある。あまり弱い魔獣では鍛錬にならんぞ」
「そんなん行ってみなきゃ分かんねーだろ!それにDランクの魔獣討伐依頼なんてゴロゴロ転がってんだから適当に受ければいいんだよ」
「いやいやラッツ、適当は不味いだろ」
「そーそー、適当ってよくないよー」
「・・・うむ、良くないな」
「え、えっと、良くないよ・・・」
「その俺が悪いみたいな風潮出すのやめてくれる!?」
そんなくだらないやり取りとすること数十分、俺たちは依頼の仲介所である『アドアウス』に到着した。相変わらずデカくて、見た目は役所だ。中に入ると、中等部の生徒をちらほらと見かける。おそらく俺たちと同じように少し難しめの依頼を受けに来たのだろう。
「おー、結構人多いねー」
「考えることは皆同じってことか。とりあえずどんな依頼があるか見てみよう」
俺は人混みが嫌いなので空いてから行きたかったが、相当時間がかかりそうだったのでワラワラと集まっている人たちと肩がぶつからないように依頼が張り付けてある掲示板の前へと向かう。今回のイベントに合わせて依頼を受ける意識の高さだけあって、周りにいるのは筋肉が付いていて割と強そうな人ばかりだ。そのせいか掲示板の周りは熱気があり、むさ苦しい。さっさと依頼を決めてオサラバすることにしよう。
「お、ウッドウルフとカットクラブ、どっちも依頼あるじゃん」
「珍しいねー。しかも依頼の場所どっちも近いじゃん。なんでこんなオイシイ依頼残ってるんだろーねー」
確かに。今回の依頼の場所はどちらもこの周辺にある沼地で、距離が近い。こういった距離が近くて依頼が被っているものは効率よく依頼をこなせるため、非常に人気が高いのだ。しかもどちらもDランクとレベルアップにもポイント稼ぎにもちょうど良い依頼なのに。
「あ。こ、これのせいじゃないかな・・・」
ミーシャが見つけてきた依頼書は赤かった。通常、依頼書は白い。色が付くということは、ある条件以上を満たしているということになる。
「ビ、Bランク・・・」
ユリウスがドン引きした声色で呟いた。
Bランク。中等部で受けられる最高ランクで、歴代でも中等部でBランクを達成したのは両手の数もいないそうだ。依頼の内容は『暴牛の群れの討伐又は縄張りの変更』。要は倒すか人里に近い沼地から縄張りを遠ざけて欲しいという依頼だ。今でも忘れない、未だにたまに夢に出てくるローブの女との戦闘の際にたまたま暴牛を倒したが、あれは本当にたまたまだったらしい。
Bランクの代表格として有名な暴牛。特徴は大きく分けて二つある。一つは皮膚の硬化だ。任意で全身を硬く出来るのだ。しかも物理的にも魔法的にも耐性が非常に高くなり、これを使われると倒すのに苦労する上に、その状態で体当たりをされると簡単に骨が折れる。攻守ともに隙がないのだ。
もう一つは視線を感知する能力がある。どういう原理かは分からないが、暴牛は視線が向けられると皮膚の硬化を即座に行うのだ。これが非常に厄介で、討伐しようと思って見つけてしまうと硬化されてしまい、攻撃が一切聞かなくなってしまうのだ。なので、一般的に暴牛を倒すときは、暴牛が居そうな所に向かって魔法をぶっ放すという何ともアバウトな方法しかないのだ。
「・・・やめとこうか」
俺は苦々しい顔でそう言った。暴牛を以前倒したことがある俺だが、止めておこうと思ったのには理由がある。実をいうと、夏休みの間に暴牛を獣人たちと一緒に討伐しに行ったことがあるのだ。その際、以前倒したからと調子に乗って意気揚々と特性を知らずに突っ込んでしまい、攻撃が一切効かないのに焦りに焦って魔力切れを起こしてしまったのだ。冷静になっている今でも、実際に対峙した暴牛を倒す方法は思いつかない。ちなみに、獣人たちと行ったときは最終的にモルの超音波で倒すことに成功した。あくまで硬化は表面だけのようだ。
「いやいや、ハイラ前に倒したことあったろ。人数増えんだし、余裕じゃねーの?」
「前も言ったけど、あれはたまたまだよ。しかも今回は群れって書いてあるし、止めといたほうがいいと思う」
「えー。修行のために依頼に来たんだし、受けるだけ受けてみよーぜ」
「このバカラッツ!アンタにBランクなんて倒せるはずないでしょ!」
「バカとはなんだバカとは!やってみなきゃ分かんねーだろ!」
「やらなくても分かることが分かんないからバカだって言ってんの!修行と無謀の意味を調べて出直しなさいよ!」
割とよく見る光景を眺めながら、これからどうするかを考えていた。先ほど掲示板をちらっと見た際には他に目ぼしい依頼は無かったし、依頼を受けずに討伐に行ってもいいがそれは少し勿体ない気もする。どうせなら依頼を受けてお金も貰って一石二鳥を狙いたいところだ。キャンキャンと争う声をBGMに考え事をしていると、意外な人から意外なことを言われた。
「・・・ウッドウルフとカットクラブの依頼を受けよう」
二人の争う声がピタッと止まった。いつもは口数の少なく、特に決定事をする時には滅多に意見を言ってこないダグラスがここでは言ってきたということは、何か思うところがあるのだろう。
「・・・もちろん暴牛に挑むとは言わん。だが、俺はまだ強くなりたいのだ。多少の無理はしなければ奴には勝てん」
思ってもみないことが起きると、人間の思考は鈍る。良いのか悪いかは分からないが、俺たちはウッドウルフとカットクラブの依頼を受け、沼地へと向かった。
いつものことながら、誤字脱字ありましたらお気軽にご連絡ください。
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