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世の中はどこまでも現実の味  作者: 鬼
2章 少年期=学園生活
77/80

不快感は謎の味

仕事が定時にあがりやすくなってきたので更新スピード上げていきます、多分。

 扉を開いて最初に入ってきた情報は、扉を開ける前から出ていた匂いだ。柑橘系だろうか、くどくない甘酸っぱい匂いが玄関先まで広がっている。ふと、前世で学生だった頃気になっていた女の子を思い出した。その子も柑橘系の匂いが好きでよく香水をつけていたが、その時はいい匂いだと思っていた。そもそも柑橘系の匂いにはリラックス効果があるそうだが、この瞬間だけは例外のようで自分の中の不快感がより一層強まっているのを感じる。

 そんな不快感に顔をしかめながら靴を脱いでいると、すでに一つ靴が置いてあるのに気が付いた。薄々分かっていたことだが、誰かがすでに部屋にいるようだ。順当に考えればまだ見ぬルームメイトが部屋にいるはずだが、そのルームメイトが原因でこんな不快な気分になるのなら今後の寮生活は相当苦痛になるに違いない。その置いてある靴をチラリと見ると、俺の靴よりもややデカい。黒をベースとしていて、下品にならない程度にエメラルドが散りばめられている。デザイン的にも男物だろう。



「男子寮だから、そもそも女の子が来るのはありえないんだけどね…」



 あまりの不快感にありもしない幻想を抱きながら、意を決して部屋に上がり込む。玄関と部屋を区切るように設置されている扉を開けると、ただでさえ匂っていた柑橘系の匂いが隙間を埋めるように廊下まで溢れていった。匂いの壁を顔に叩きつけられたような匂いの物量に思わず目を閉じてしまう。



「おう、お前がルームメイトか?初めまして」



 ハスキーボイスな挨拶が、すぐ近くで聞こえた。本来であれば良い声であるはずのハスキーボイスだが、その声も非常に不快に聞こえてしまう。ここまで人を不快にさせるやつはどんな奴かと、不快感が表情に出てしまっているのもお構いなしに目を開ける。

 息が、止まった。目の前に居たのは真っ黒いイケメンだった。ぱっ、と見て目を引くのは、この世界では割と珍しい黒色の髪の毛だ。その次に目に入ったのは、上下真っ黒な服に真っ黒なマント、挙句の果てには手袋まで真っ黒という徹底した服装。そして最後に目に入り、最も印象に残るのがその顔だ。肉食獣を彷彿させるやや吊り上がった大きい目、犬歯がやけに目立つ口。顔の造り自体は違うがこの国の王、レオンハルトを思い出した。こいつの第一印象は端的に言えば、ワイルド系のイケメンだ。その攻撃的な顔つきが女の子にモテるんだろうが、そこがレオンハルトにそっくりだ。噛みつかれるんじゃないだろうか。



「・・・大丈夫か、そんなところで立ち尽くして。部屋に入らないのか?」


「あっ、ああ。お邪魔します」


「はっはー、面白いな。何を言ってるんだ。ここはお前の部屋でもあるだろうに」



 俺は驚いていた。見た目の割にはフレンドリーな態度もそうだし、気さくで接しやすいと思っていながらも欠片も取れる気がしない、この不快感にも。



「扉開けたらイケメンがいたからびっくりしちゃってさ」


「おいおい男にそんなこと言うなんて、もしかしてお前・・・」



 一瞬、時が止まった。何やら誤解を招いているらしく、相手がドン引きしている。



「いっ、いやそういう意味では!」


「はっはー、そう焦るなよ。ジョーダンだ、ジョーダン!」



 さっきまで出ていた不穏な空気が霧散する。前世では俺がちょっとズレた発言をするたびに起こっていた空気だったがために相当ビビッてしまったが、それが向こうのツボに入ったらしく、ケラケラと大笑いしていた。俺はトラウマを思い出す空気感が無くなって少しホッとしたが、いまだに消えないこの不快感は一体何だろうか。

 ふと、思いついたことがあった。おそらく不快感の直接的な原因ではないだろうが、場を持たせることも出来なそうだし、気になったので聞いてみることにした。



「ちなみに、名前は何て言うんだ?」



 さっきまでの笑った顔はツリ目の目尻が下がっているためか、猫のような愛玩動物っぽい可愛らしさもあった。しかし、今目の前にある顔からは表情が窺えなかった。質問を投げかけた瞬間、表情が消えたからだ。イケメンや美女は真顔が怖いという話を聞いたことがあるが、確かに顔が整ったやつにジッと見つめられると居心地が悪いと、今実感していた。



「・・・人に名前を聞くときは、自分から名乗るってママに教わらなかったか?」



 ビックリした。そんな漫画みたいなことを言うやつが現代に実現したとは。まあ、ここは現代ではなく、異世界だが。



「ハイラ。ハイラ・アースタックだ。これで名前を教えてくれるな?」


「まあまあ、そんなに怒るなよ。あー、俺の名前ねー」



 漫画のような発言にちょっぴり感心しつつも、実際に言われるイラっとするのを見てか、ボリボリとバツが悪そうに頭を掻くイケメン。何をしてもイケメンは様になるが、今回に限ってはそうでもないようだ。あー、とかうー、とか唸りながら頭を掻く様は何をどう言い繕っても変質者にしか見えない。しかし、こんなにも名前を明かしたくないところを見ると、俺の予想は当たっているように思える。



「ここで黙っててもいずれバレるし、今隠しててもしゃーないか」



 はぁ、とため息をつくと、覚悟を決めるように自分の名前を言い放った。



「モレクだ。ただのモレク。ファミリーネームはない」


「・・・・・・・・・ん?」



 頭にハテナが浮かぶ。予想していた答えとまるっきり違っていたからだ。



「ファミリーネームがレオンハルトだったりしないか?」


「それ、色んな奴に言われるけど違うぞ。こちとら正真正銘、純度100%平民の血だ。間違っても王族の血は混じってない」



 だから名乗るのは嫌なんだ、とポツリと漏らすモレク。



「いやいや、そんな渋るから皆疑うんだと思うぞ。スパっと言えばいいのに」


「スパっと言っても疑うやつは疑うさ。だからサラッと名乗るようにしてるんだが・・・ゴホッゴホッ!!」


「なに、風邪か?大丈夫か?水飲む?」


「イや、大丈・・・ゴホッゴホッ!アっ、アー、変な声出た・・・ゲホッ!!」



 風邪の咳というよりかは気管に唾か何かが入ったようで、連続して咳込んで非常に苦しそうだ。



「はっはー、失敬失敬。ここ最近、ちゃんと名乗ると喉が詰まるようになったんだ」


「拒否反応出すぎだろ。名乗るのどんだけ嫌なんだよ」


「誰だって嫌なものが一つや二つあるだろ?俺はそれが名乗ることってだけだ」


「生きづらそうな人生送ってるな、色んな意味で」


「はっはー、そんな褒めるなよ男色野郎」


「褒めてないしホモでもねぇ!!」



 からかわれて怒っているのが面白いのか、またケラケラと笑い出すモレク。正直、イケメンにからかわれて笑われるのは前世のトラウマを思い出すので止めてほしい。本人は弄っているつもりでも端から見たらただのイジメかもしれないということを、いつかこの男に教えなければならないようだ。

 思っていた予想から外れていた―――――モレクが嘘をついている可能性もある―――――が、思った通り不快感は消えない。話をしてみる限り嫌な奴ではないだろうし、弄り癖はありそうだが悪い奴でもないだろう。一体何が、この男を嫌な感じにしているのだろうか。

 ウンウンと頭を悩ませていると、先生からの頼まれごとを思い出した。手持ちのカバンの中身を漁り、少し分厚い封筒を取り出す。すると、モレクにはその封筒が見覚えがあったのか、俺の手から封筒を掻っ攫っていった。



「唐突に荷物を盗っていくやつがあるか。せめてお礼くらい言ってくれ」


「はっはー、サンキュー。これを取りに行こうと職員室行こうとしてたんだ。手間が省けた」



 そういうとモレクは封筒の中をチラッと覗き、中身は取り出さずに運び込んだであろう自分の机に置いた。急ぎっぽい雰囲気を出していたが、早く受け取りたかっただけなのだろうか。



「それの中身ってなんだ?結構厚めだったけど」


「ん?これか?俺の予定表みたいなもんだよ」



 さらっと言われたので一瞬そんなものか、と思ったが、よくよく考えてみると少し妙だ。


(予定表?そんなもの教員が預かるか?いや、そもそも預ける理由ないな。自分で持っていけばいいだけだし。時間割とか学園関連だったらそう言えばいいだけだし、予定表ってなんだ)


「なあ、その予定表って―――――」


「なんだ、俺のことが気になるのか?やっぱ男色野郎かよ」


「べべべ別にそういうわけじゃねーし!お前のことなんか興味ねーし!」



 からかわれて、濁されてしまった。聞かれるのがよっぽど嫌なのだろうか、ちょこちょこ探りを入れたが結局全てはぐらかされてしまう。言いたくないのならしょうがないだろう、俺は諦めることにした。


 しばらく当たり障りのない話をしていると、外から三、四人ほどの話し声が聞こえてきた。断片的に会話の内容を聞くと、どうやらラッツ達のようだ。俺が学園に帰ってきたことを聞いて、一緒にどこかへ行こうというお誘いに来たらしい。なんとなくそのことに気付いたのか、モレクは気を利かせてくれたようだ。



「お友達が外で待ってるみたいだし話はまた学園でな、男色野郎」


「最後までからかうのをやめなかったな、お前は・・・」



 結局不快感の原因は分からなかったし、平民という割には靴がやたら高そうなことや色々と不可解なことは多いが、悪い奴ではなさそうだ。最終的には不快感も気のせいかもしれないし、気にするのはやめよう。そう思い、最後に挨拶をしてから部屋を出た。



「またな」



 扉を閉める際、何故かモレクの口元が目についた。綺麗な三日月型の唇が、奇妙なくらい不気味だった。その時、俺の中にしこりができた。どこかで味わったことがある、違和感。しかし俺はその違和感を思い出すことはなく、ラッツ達と合流したのち違和感は綺麗さっぱり消えてなくなったのだった。

いつものことながら、誤字脱字ありましたらお気軽にご連絡ください。

感想も待ってます。

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