懐かしさは疑問の味
はい、約1年ぶりの更新です。
引っ越しはして一人暮らしを始めましたが、めっちゃ快適です。
快適過ぎて永遠に寝てました。
少々納得がいかない所があるものの、現状考えうる問題はすべて解決した状態で俺の夏休みは終わりを迎えた。長老に依頼の受け方(と言っても前に受けたことがあるそうなので確認程度)やお金の運用方法、自分の今後の方針等々を引き継ぎ、俺は学園に戻っている最中だ。
カッポカッポと馬の蹄が土を蹴る音を聞き、程よい眠気を誘う揺れ方をしている馬車の中でウトウトしながら、昨日のことを思い出していた。学園に行くため、しばらく戻れないという旨を獣人たちに伝えたら、微妙な反応が返ってきた。端的に言うと、だからどうした?という空気になったのだ。別れを惜しんでくれるとは思っていなかったが、もう少し何かあってもよかったのではないだろうか。強いて言えば、ファーナが餌をくれる人がいなくなると寂しがってくれたことがあったが、それはそれで解せない気持ちがあるのは何故だろう。そんな冷たい獣人たちとは打って変わって、母上は別れを惜しんでくれた。やはり一人息子が居なくなるのは寂しいのだろう、昨日は一晩中色々と話をした。意外だったのは、父上も別れを惜しんでくれてた節があったことだ。家にいるときはちょくちょく話しかけてきていたし、母上と一晩中話していたときも部屋の外をウロウロしていたとメイドさんから聞いた。俺が学園にいた間いったい何があったのか、本当に気になるところだ。
そんな思い出に浸りながら、寝不足気味なこともあり、うたた寝をしてはちょっとした揺れで起きるというサイクルを数回繰り返すと、見慣れた建物が見えてきた。相変わらずデカい。建物自体も大きいが、敷地が広すぎる。教科書や制服を購入するお店、飲食店、娯楽施設等々、生活に必要な施設が全て敷地内に揃えているため広くなるのは分かるが広すぎるだろう。東京ドーム何個分だろうかと、どうでもいいことを考えること数十分、ようやく学園に到着した。眠気を飛ばすために軽くストレッチで背を伸ばすと、職員室に向かう。学園に到着した旨を伝えるためだ。さすがにこの後すぐに授業がある、というわけではないので、この後の予定はフリーだ。
「さて、この後どうするかなー。ラッツ達が帰ってきてるかどうか確認はするとして、その後は皆いたら依頼でも受けようかな?あー、でも皆移動で疲れてるかも。そしたら・・・」
今後の予定をブツブツと呟いていると、いつの間にか職員に到着していた。前世でもそうだったが、職員室に入るときは特に理由はないが緊張する。フー、と息を吐き、若干緊張で震えている手で扉をノックすると、思った以上に力が入っていたのか予想よりも大きい音が出てしまった。色々と気恥ずかしいが、ノックしてしまった以上入らないという選択肢はない。やけくそ気味に扉を開けた。
「失礼いたします。マグ先生はいらっしゃいますか?」
これまた大きい音を出してしまったためか、職員室内にいるほぼ全ての教師がこちらを見ていた。とはいえ、興味のないものをずっと見続けるような酔狂な人はおらず、数秒で全員視線を外す。このまま凝視し続けられていたら、あまりの恥ずかしさに出て行ってしまうところだった。
「ああ、ハイラ君。お久しぶりです」
そんな気恥ずかしさを感じている間に、マグ先生から返事が返ってきた。知っている人間が少ないこの職員室で見知った顔を見つけてホッとして冷静になってみると、マグ先生は慌ただしく何かの準備をしている。先生が機敏に動いているところをあまり見る機会がなかったためかどこか違和感を感じるが、忙しそうにしている人を前に無駄話をする気にはなれないので要件を簡単に伝えた。
「ラッツとミーシャ、ダグラスにユリウスってもう実家から戻ってきてますか?」
「あー、その四人ならもう戻ってきてますよ。四人同時に挨拶に来ていたので覚えてます」
「お、ホントですか!ちなみに、今どこに居るかってご存知ですかね?」
「さあ、さすがにそこまでは・・・。見ての通り少しバタバタしてまして」
あまり余裕がないのか、遠回しにもう会話を終わらせたいというニュアンスを言われてしまったが、どうしても気になったので質問を一つ投げかけてみた。
「不躾で申し訳ないですけど、マグ先生が忙しそうに動いてるの珍しいですよね。何かあったんですか?」
「ええ、まあ。というか、中々正直に言いますねハイラ君。先生、正面から忙しそうに動いてるの珍しいって言われるの初めてですよ」
「す、すいません・・・」
「いえいえ、本当のことなので良いんですがね。ちなみに私が忙しそうにしているのは君にも関係がありますよ?」
「えっ。・・・もしかして私、退学ですか?何かやらかしてましたっけ?」
「違いますよ。その発想が出てくるってことは何か思い当たることでもあるんですか?」
全力で首を横に振ると、その動きが面白かったのかマグ先生が顔を背けて噴き出している。ゴホッゴホッと咳き込むだけ咳き込むと、何事もなかったように作業を再開し始めた。しかし、あんな些細なことで咽るほど笑うとは、相当疲れていると見える。そんな疲れ気味のマグ先生を気遣いつつ、忙しい理由を教えてくれないのに地味にショックを受けていると、マグ先生が何かを思い出したかのように散らかっている机の上を漁りだし、少し分厚めの封筒を手渡された。
「この後寮の部屋に戻ると思いますが、そこに人が待っているのでその人に渡してください」
「え?私の部屋は一人・・・あっ」
寮は基本二人部屋だ。思春期の男子に自由な時間がないのはどうかと思うが、例外はない。ただ、俺の部屋だけ諸事情でルームメイトが二学期から登校してくるそうで、一人部屋だったのだ。すっかり忘れていたが、ついに登校してきたのだろう。今まで一人部屋は快適だったのだが、少し寂しさも感じていたので楽しみな反面、やばい奴が来たらどうしようという不安もある。まあ、そんなことを言っても来てしまったものはしょうがない。覚悟を決めるとしよう。
さすがにこれ以上時間をもらうのは申し訳なかったので、書類をルームメイトに渡す件を承諾して職員室を出た。これからの予定は白紙のため、ラッツ達を探しつつ、自室に戻ることにした。
「しっかしこの学園、広すぎて人を探すのには適してないな」
時間はたっぷりあるのでのんびりラッツ達を探して、見つかったら手頃な依頼でも受けて夏休みをどう過ごしたかを深掘りしよう、と考えていたがアテが外れた。ラッツやダグラスがいそうな訓練場やアドアウスに行ったが、そこには意識の高そうなゴリマッチョしかいなかった。その中の一人をダグラスと間違えて話しかけてしまったのはここだけの秘密だ。ならば女子の意見でショッピングになったのかと思いショッピングモールに行ったが、そこにはさっきのむさ苦しい空間とは正反対でキャピキャピした女の子しかいない。場違い感全開だったがそこを何とか耐えてミーシャとユリウスを探していたが、二時間探し回った結果、ある女子生徒グループに不審者扱いされて心が折れたので寮に戻ることにした。危うく前世のトラウマが甦るところだった。
肩を落としながら自室のドアを開けるためにドアノブに手をかけた所で、妙な匂いが鼻を刺激した。
「何というか、懐かしい匂い・・・?」
どこで嗅いだかは思い出せないが、懐かしさを感じる匂いが扉の先から漂っている。ただ、懐かしいという感情は普通、悪くない感情のはずだが、何故か非常に不快感がした。命のやり取りが多いこの世界に来てから、第六感とも言うべき『勘』が発達しているのをなんとなく実感していたが、ここ最近で一番で反応している気がする。別に走って帰ってきたわけでもないのに汗が止まらなかった。
とはいえこのまま永遠に扉の前でドアノブを握りながら固まっていてもしょうがない。ゴクリ、と嫌な予感とともに唾を飲み下すと、迷いを振り払うように扉を開けた。
いつものことながら、誤字脱字ありましたらお気軽にご連絡ください。
感想も待ってます。




