灯台下は暗しの味
はい、約半年ぶりの更新です。
毎度毎度更新遅くなって申し訳ありません。
そろそろ引っ越すと思うので、引っ越してから頑張ります。多分きっとメイビー。
オルトロスを倒して早二ヶ月弱。俺は獣人たちと一緒に黙々と依頼をこなしていた。以前のようにAランクの魔獣退治なんていう無茶な依頼は受けず、採取系を中心にして時々D〜Cランクの魔獣討伐の依頼を受けて小金を稼いでいる。獣人たちの人数が人数なので、数を多くこなしていても報酬が安い採取系が中心では貯蓄は多く貯まりはしないが、オルトロス討伐の際の貯蓄を切り崩すことはないので現状は何の問題もなく過ごせている。
「何の問題もないんだけど、夏休み終わったらどうしようかなぁ」
直近で問題があるとすれば、ギルドから依頼を流してもらっている、所謂仲介役の俺が夏休み終了を間近に控えていることだろう。獣人がギルドに行っても依頼を流してもらえるかどうか試したいところだが、差別が激しいこの世界では流してもらえる可能性は低い。最悪の場合は通報され、そのまま奴隷に戻されてしまうこともあるだろう。
そうなると、次点で出て来るのは代理の人を探すことだが、これも差別のせいで実行しにくい。獣人が裏ギルドを結成していることを通報されれば即座に討伐隊が組まれ、人間に反乱を起こそうとしているという理由で殲滅しに来ることだろう。そういった危険があるため代理人探しには念を入れたいところだが、この世界に来てからそんなに長くないから信用できる人が非常に少ない。母上に頼むのも一瞬考えたが差別の意識がどの程度あるかどうかが不明だ。本などに記されている通りであれば、この世界の獣人に対する差別は非常に根深い。あの菩薩のような心を持った母上でも万が一ということもある。そう考えるともう候補も居なくなり、完全に手詰まりだ。
あ゛ー、と知恵熱が出そうな頭を抱えて唸っていると一人の獣人が話しかけて来た。
「えと、あの・・・。何か考え事ですか?」
頭を抱えながら顔を横に向けると、そこに居たのは同い歳くらいの猫耳少女—————ファーナがいた。歳が近そうというところもあり、俺が最もアプローチ—————またの名を餌付け—————をして仲良くなった獣人だ。というか、普通に話せる獣人は今の所ファーナしかいない。他の獣人は話こそしてくれるがどこか余所余所しく、完全に信用してないというスタンスが有り有りと見える。そんな中、俺と日常会話などをしてくれるファーナは非常にありがたい。
「俺、もうすぐ学校に戻らなくちゃ行けないんだよね。そうなったらギルドから依頼を流す人がいなくなっちゃうじゃん?だから俺の代わりにギルドから依頼を持ってこれる人を探してるんだけど、そんな人がいないからどうしようか考え中。ファーナはそういう人に心当たりない?」
そう俺が問いかけると、ファーナは困った顔をしながらウンウンと唸りだした。
ファーナは元々気が弱く、結構オドオドしていることが多い。その際、オドオドとしているので頭についている猫耳がピョコピョコ動いているのだが、それが本当に可愛い。あまりの可愛さに一度、怯えているファーナを無視して触ろうとしたことがあった。その時はファングにぶっ飛ばされて骨折したり、チーラがファングにやりすぎだと怒ったり、あまりの惨事にファーナがガチ泣きしたりと大騒ぎになったのだ。
そんな事があったのだが、ウンウンと唸っているファーナの猫耳を見ているとそんな過去のことはどうでもよくなり、触りたい欲が沸々と湧いて出て来る。しかし、ファーナは嫌がるだろうし、どうしたものか。
俺がそんな己の欲望と格闘してるとはいざ知らず、ファーナは何か思いついた様で恐る恐る俺に意見をくれた。
「あ、あの、長老様にお願いしてみたらどうですか・・・?」
「長老様に?」
あの狼に何ができるのだろうか?と首を傾げていると、何やら嫌な視線を感じる。ゆっくりと視線を感じた方向に顔を向けると、ちょうど話題になっていた狼と目が合った。
この長老と呼ばれている狼だが、二か月近く生活を共にしているがいまだに実態を掴めていない。他の獣人からは長老様、長老様と慕われているが、この狼は一日のほとんどを睡眠に費やしていて何か行動しているところを見たことがないからだ。俺としては怠け者という印象しかない。
そんな俺の印象を察しているかのように、狼の視線は冷たい。
「なんじゃ、その怠け者を見るような目は。食い殺すぞ」
「発想が物騒すぎません?もしかしてカルシウム不足で怒りっぽくなってませんか?ほーら、骨っこあげますから」
討伐依頼の際に発生した魔獣の骨を長老の前に左右に振りながら差し出す。側から見たら完全に、野良犬を馬鹿にしながら餌付けをしようとしている中学生だ。
「グルルルルル・・・ガブッ!!」
「おわ、あっぶね!!今、指を噛み切るつもりでしたよね!?」
あまりに癇に障ったのか、長老様は勢いよく骨に噛み付いてきた。骨に噛み付いてきたとは言っても、俺が素早く骨を手放さなければ人差し指ぐらいは持っていかれる勢いだっただろう。なんという恐ろしい狼だろうか。
俺が予想外の攻撃に戦慄していると、長老様は魔獣の骨をバリバリと噛み砕きながらこちらを睨んでいた。
「ふん。被害者面をしているが、悪いのはお前じゃぞ。このわっしを愚弄しおってからに。本来ならばわっしの様な存在を見れただけでも感謝すべきなのじゃ。ひれ伏せ、頭を垂れろ、骨をもっとよこせ」
「完全に最後は自分の願望じゃないですか。僕からしたら、ただの怠け者の狼にしか見えないんですよ。悔しかったら僕の悩みを解決してくださいよ」
「この骨は中々美味いの。味に深みがある。ガジガジ」
「そういうところですよ!!」
正直、長老様に話しをしてどうにかなるとは微塵も思ってないが、かなり手詰まりで誰かに愚痴を言いたかった気分なので、とりあえず今の現状を全て長老様に伝えた。
今の所はなんとかやっていけているということ。しかし自分が学校に戻る期間が迫っていること。学校に戻ってしまえば依頼が受けられず、金銭や食料を調達できないということ。しばらくはやっていけるだろうが、いつかは資金が底をついて困ってしまうだろうということ。
一通り話しを終えて、俺は非常にスッキリしていた。これまで溜め込んでいた鬱憤を一気に放出した気分だ。こんな清々しい気分のまま眠れたらさぞ気持ちいいことだろう。残ってる問題は明日の俺に任せて、今日はこのまま帰って気持ちよく寝よう、そうしよう。
そんな、後日盛大に後悔しそうなことを考えながら帰るために腰を上げたところで、長老様から思わぬ返答が帰ってきた。
「ふむ、その悩みならわっしが解決してやろう」
俺は一瞬、何を言っているのか分からなかった。
「ようはギルドから依頼を請け負う人間がおらん、というのが問題なんじゃろ?獣人が依頼を受けに言ったら最悪捕まって奴隷に戻されてしまうからの。わっしなら、それを解決できる」
帰ろうとするために浮かした腰を、ゆっくりと下ろす。そして、俺は真剣な顔で長老様の顔を見る。この問題が解決できるのであれば、今の気苦労は全て無くなり、何の心配もせず学校に戻れるからだ。今後に関しても何かのトラブルで俺がしばらくここに居れなくなったとしても対処できる。というか、この問題さえなくなれば他は割と何とかできるのだ。
先ほどまでと違い、真剣に話しを聞く体制になっている俺に満足したのか、長老様が得意げに解決方法を話し始めた。
「その方法とは—————」
ごくり、と意図せず喉がなる。
「わっしがギルドに行って依頼を請け負えばいいのじゃ」
「期待した俺がアホだった」
ただでさえ重くなっている腰がさらに重くなっているのを感じながら、俺は帰るために腰を上げた。
今日は採取系の依頼を二つほどこなしている。いくら身体が若くなっているとはいえ、7、8時間ほど中腰で作業していたらさすがに疲れた。今日はいち早く、今すぐに帰って休むしかない。この狼と過ごした無駄な時間を取り返さねば。
そうして俺は苛立ちを隠すこともせず、長老様に背を向け、そのまま歩いていく。それだけでは苛立ちが抑えられず、吐き捨てるように言葉を発した。
「狼がどうやって依頼を受けるんですか?相手にされるわけがない。それどころか、喋る珍しい動物として捕らえられて売られますよ。というか、こっちは真剣に考えてるのにそうやってふざけたことをいうのはどうかと思い—————」
「まったく、最近の若者はせっかちじゃの。わっちの話を最後まで聞いてから文句を言って欲しいものじゃ」
「っ!だから狼じゃどうやったって—————」
あまりの物言いに文句を言おうと振り返ると、そこにいたのはニヤニヤと小馬鹿にしたように笑う狼、ではなく。
「えっ、誰!?」
銀色のドレスを身に纏った、野性的な顔立ちをした女性が立っていた。年齢はおそらく二十代後半あたりで、身長は女性にしては高い。おそらく百七十センチくらいはありそうだ。見た目は非常にスリムだがよく見てみると腕や足が非常に筋肉質だ。あのしなやかで長い腕で殴られたり、ドレスからスラリと見えている脚で蹴られたら軽傷では済まないだろう。そんな色々と秘められた武器を持っていそうな女性だが、特に特徴的なのが目だ。完全に目が肉食獣のソレだ。こんな目で睨まれたらどんなに屈強な男でもたちまち震え上がることだろう。
「ふん、察しの悪い奴じゃの。話の流れで分かりそうなものじゃが」
「・・・もしかして長老様?」
本人に確認するのは癪だったので、ファーナに聞いてみると、コクリと首を縦に振った。どうやら長老様ご本人らしい。
あまりの長展開に頭が混乱していたのでファーナに詳しく説明をしてもらった。何故長老様が人間そっくりになれるのかという点は分からないそうだが、これまでも何度か人間に化けたことがあるらしい。主な用途は俺とほとんど変わらない。お金を稼ぐための仕事を引き受けに行ったり、お金を稼いでも獣人たちはそのまま買い物にも行けないので買い物のために街に行ったり。そうした獣人だけではどうしようもない時に度々長老様は人間になっていたそうな。
「どうじゃ小僧、見直したか。見直したのなら褒めよ称えよ骨をよこせ」
色々なことが俺の頭の中で巡っていた。学校に戻った後も獣人たちは何とかやっていけそうということに対する喜び。今後、どうやって暮らしていくかという点で色々なことが実行できるようになったのでその取り組みを考えるワクワク感。そんな様々な感情が入り混じっていたが、その中でもひと際大きい感情が沸々と沸き上がり、それを解消するために声をあげた。
「最初っから言えよ!!」




