情熱は前進の味
相変わらずの更新遅めで申し訳ないです...
「いやー、上手くいってよかった」
チーターのお姉さん—————チーラに啖呵を切ったのは良かったものの、参戦して早速殺されかけ、足手まとい過ぎてファングに参戦拒否され、サポートをしようと意気込んでみるも、あれ?これ連携うま過ぎて手を出す隙なくね?と気付いてから何も出来ずに手をこまねいて早一時間。何とか集中して待ち続けたのが功を奏し、決定的な部分で手助けが出来た。三途の川を渡る寸前だったファングを助け、あの凶悪な魔獣に槍を突き立てトドメを刺した。
強敵を倒した余韻に浸りたい所だが、チーラが重傷を負っているためオルトロスから金になりそうな部分を剥ぎ取り、今は急いで街に帰っているところだ。
ちなみに、チーラはファングが背負っている。ファングもある程度怪我をしているし、戦いで疲れも溜まっているだろうから背負うのを代わろうとしたのだが却下されてしまった。何故だろうか。まさか俺の中にほんのちょこっとだけあった下心に気付いたのだろうか。おそるべし獣人の直感。
「しかし、オルトロスがあんなに強いとは。前に倒したことのある暴牛と一つしかランク違わないのに…。ファングさん、Aランクの魔獣ってどいつもこいつもあんなに強いものなんですか?」
「…俺はガキの頃からクソ人間どもに取っ捕まってっからランクの高い魔獣を直接見たことはねぇがよぉ、普通は討伐自体がかなり困難、軍を使って撃退できれば御の字って話は聞いたことあるなぁ」
「マ、マジですか」
Aランク魔獣というのは想像を遥かに超える強い生物らしい。ギルドに依頼を流してもらいに行った時にこの依頼を受けると言ったら、こんな若いのに自殺願望でもあるのか、っていう顔をされたのはそういうことだったのか。そんな依頼を軽々受け、しかも討伐メンバーは六人だけという暴挙に出たにも関わらず、一人も欠けずに倒せたというのは奇跡に近いだろう。一つ間違えれば全滅もありえた、ということを考えると背筋が凍るし、今もちょっと足が震えている。
そんなビビリ気味の俺だが、気分は非常に良い。何故なら、獣人たちと仲良くなれた気がしているからだ。オルトロスと戦う前は俺が居るからか、皆ピリピリしていて挙句にはファングに煽られる始末だったが、今はピリピリしていない。ファングと話しをしても煽られない。これはモフモフとかしても怒られないのではないだろうか。
「貴族サマよぉ、なんか浮かれてっけど勘違いすんなよぉ。別にオレ様たちはお前を信用したわけじゃねぇからなぁ」
「そ、そうですよねすいません…。それにしても今日の皆さんは凄かったですよ!軍が必要とまで言われている敵を相手にして勝っちゃうなんて!やっぱり獣人って能力高いんですね!」
「ふふん、そうだろぉそうだろぉ!オレ様たちは天才だからよぉ!」
「単純なやつぶも…」
そんな仲が良いのか悪いのか分からない会話をしていると、ようやく街に着いた。濃い時間を過ごしたからか、この街に戻ってきたのがもの凄く久しぶりに感じる。具体的にいうと一年半ぶりくらいにきた気分だ。
街に着いてから最初に行なったことはギルドへの依頼達成報告と、オルトロスから剥ぎ取った素材の換金だ。ギルドではまず、一日で帰ってきたことに驚かれた。Aランク魔獣では撃退が前提なため、数日かけて消耗させたてから上手いこと他の所へ移動するように誘導するのが普通らしい。その上、俺たちは討伐までしてしまったからさらに驚かれた。
難しい依頼を達成したから評価されるかと思ったが、ギルドの職員の人の顔を見るとそうでもないみたいだ。皆顔が引きつっている。どちらかといえば凄いやつというより怖いやつ、と思われているみたいだ。まあ、考えてみればAランクの魔獣を討伐するのには軍に匹敵する戦力が必要とされているらしいから、それを考慮すると俺は軍に匹敵する力を一つ所有しているという見方になる。つまりは怒らせたら怖いやつだ。見るからに怒らせたら怖いやつを目の前にしたら顔も引きつるだろう。
そんな恐怖の大魔王みたいな気分を味わった後は、オルトロスの素材の換金だ。ここで驚いたことが二つある。一つは査定時間の長さだ。この世界には時計があんまり普及してないため正確な時間は分からないが、体感では査定に三時間くらい経っている気がする。街に着いたのが陽が落ち始めていたが、査定が終わった頃には完全に夜になっていた。何にそんなに時間がかかったのか謎だ。もう一つ驚いたことは、査定金額だ。俺一人では持ち運べないくらい金貨の束が出てきた。金貨のプールができるんじゃないかってくらいの量だ。現状、結成した裏ギルドには百を超える獣人がいるが、その獣人達の食費を一年間くらいは賄えそうだ。直近の金銭問題は解消できたといっても過言ではない。
他にも問題はあるが、ひとまず一番心配だった食費の問題が解消できたことにホクホクしながらも、他の獣人が受けていた採取系の依頼の達成報告などをしているとすっかりと夜が更けてしまった。精神年齢はおっさんだが、今の俺は中学生の歳。体は正直でかなり眠くなってきてしまった。ふわぁ、と欠伸をしながらも、向かうのは自宅ではなく、元奴隷売買店で今は裏ギルド『自由の森』の本拠地だ。
「いやー、遅くなってしまって申し訳いです…。今からしっかりと治療しますね」
何故そんな欠伸が出るほど眠いのにも関わらず家に帰らなかったかと言うと、チーラの怪我を治すためだ。もちろん致命傷は既に塞いでいたが、あくまで応急処置。『フェアリーティアーズ』を使って完全に治すためにここに戻って来たのだ。
「おいおい貴族サマよぉ、治療とはいえチーラに変なことしたらタダじゃおかねぇからなぁ」
「えー、変なことってなんですかー?僕そう言うの分からないので教えてもらっていいですかー?」
「こんのクソガキがぁ…!」
「ファング、やめな」
今回の討伐で多少なりとも仲良くなった気がしたのでちょっとファングをおちょくったら、めっちゃキレられた。元々顔は怖いが、その顔が更に怖くなっている。ヤクザ顔負けなくらい顔がえらいことになっている。そんな般若みたいな顔のおかげでチビりそうだったが、チーラが宥めてくれた。するとファングの顔がたちまち借りて来た猫のようにシュンとなってしまった。やはり仲間から注意されるのは嫌なのだろうか。しかし、ちょっと言われただけなのにこの変わりようは仲間意識のせいだけなのだろうか、はて。
「なあ、アンタ。治療してくれることには感謝するけど、一体何を企んでるんだい?」
その言葉は、チーラがオルトロスにやられて俺が治療していた時に聞いたものと同じだ。しかし、どこか重みが違う。前は嘘ではないが、本意ではない言葉で誤魔化した。本当のことを言うのは簡単だが、おそらく信じてはくれないだろう。嘘をついても今回のようにすぐにバレるだろうし、どうすればいいだろうか。
「うーん、何か企んでいるわけじゃないんですけどね。もちろん、何か施しが欲しいわけでもないですよ?」
「じゃあ、何であたし達に良くしてくれる?別に治療なんかしなくても、また買ってくればいいだろう?」
その言葉がチーラの口から出た瞬間、周りが殺気立った。今まで平和なやり取りをしていたが、それはあくまで俺が重症の獣人を治したからだ。恩があったから、手を出さなかった。もし俺が、他の人間と同じように獣人売買をし始め害をなすようなら、彼らは俺を決して許さないだろう。この殺気がそれを物語っている。
おそらくここが分岐点だ。今後、獣人たちと上手くやっていけるかどうかの。
「一つ聞きたいんですが、皆さんは気に入っている人や好きな人が不当に虐げられていたらどうします?」
一瞬何言ってんだコイツ、という空気が流れたが、そんな空気も気にせずにチーラが答える。
「そりゃ、助けるさ」
「ですよね。僕もそれと同じですよ」
ボソボソと聞こえていた話し声や殺気が、ピタッと止まった。
「僕は獣人が気に入ってますし、好きです。そんな人たちが、ちょっと見た目が違うからって人間扱いされず、殺されています。獣人と人間の違いってなんでしょう?話は通じるし、行動や思考だってほとんど普通の人と変わりません。強いて言えば、身体能力が高いってことくらいでしょうか。」
元々熱く語る気はなかったが、無意識のうちに拳を強く握りしめる。
「才能がある人間がいたら潰すんですか?そんな馬鹿な話はないです。そんなことしてたら国も成り立ちません。なのに、獣人は虐げられる。おかしくないですか?僕はおかしいと思います。だから、協力するし、治療もします。特別良くしてるつもりもないです。気に入ってる人たちが困ってるから助けるし、それが出来る力があるからしてるだけです。貴族じゃなかったら、多分助けてなかったですし、出来なかったと思います」
熱くなった頭を冷やすために、フーッと息を吹き出す。なんとなく気恥かしくなってしまって頭を掻いたりしてみるが、気恥ずかしさがなくなることはなかった。
「あー、何言ってるか自分でも分からなくなってきましたが、そういうことです。なので、皆さんもあんまり気にしないで…というのは無理かもしれませんが、裏とかはないので安心してください」
「…ああ、分かった」
返答までに時間がかかったので何か間違えたかと思ったが、チーラから返答が来てくれてホッとした。これで納得してくれただろうか。他の獣人たちの反応が一切ないからか、良かったのか悪かったのかイマイチ分からないし、正直少し怖い。
返答が返ってきてから一分ほど経ったが、一切反応がない。こっちから何か声をかけるべきだろうか、それとも待つべきだろうか。ふと、前世の飲み会の場で一発芸をやらされて滑った時の記憶が蘇ってきた。こういうシーンとした雰囲気は嫌いなのだ。痺れを切らして話を切り出そうとした瞬間、チーラの口が動いた。
「アンタの言いたいことは分かった」
待ちに待った返答だが、少し違和感があった。どこか、無理矢理納得して出した、という感じがある。
「信用したわけじゃない。アンタと仲良くやろうとも思わないけど、アンタがあたし達に良くしてくれる限りは協力するよ。色々してくれた恩も今後は返していこう」
この結果が良かったのかどうかは分からない。しかし、前には進んだ。少なくとも、俺が獣人に協力する限り、獣人は俺に協力してくれるようになったのだから。
「はい!今後もよろしくお願いします!」




