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世の中はどこまでも現実の味  作者: 鬼
2章 少年期=学園生活
73/80

対オルトロスは油断の味

めちゃ久々の更新で申し訳ありません。

まだこの小説を読んでくれている方、ありがとうございます。

よく感想で一話が短いと言われるので、いつもの二倍の文字数になってます。

これからは徐々に文字数増やしていきます!

「タウルを主軸に陣形を立て直す!オレ様が囮役に回る!ヒュークはそのまま囮役、モルは隙を見て援護!」



 ファングが大声で指示を出す。これが対人なら作戦がダダ漏れで即座に対策をたてられること必至だが、今回の相手は魔獣。言語が理解できない魔獣なのを良いことに、地面がビリビリと振動するほど大きな声を出している。これならば指示を聞き漏らすことはないだろう。

 そうして指示をとばしている中、ファングはハイラのことを考えていた。最初に会った時から、奇妙な貴族だとは思っていた。あの意地汚くて小心者の奴隷商人の顔に金貨を叩きつけて自分たちを買い取ったのは記憶に新しい。獣人の奴隷を買い取った人間のほとんどは獣人を傷つけたり、性欲処理に使用したりするものだが、あの貴族は何もしなかった。それどころか。自分たちとコミュニケーションを取ろうとまでしていた。だからと言って信用する訳ではないが、あの人間には興味が湧いた。


(だが、あの貴族のことを考えんのは後だなぁ。その前にこのデカブツをぶっとばさねぇとよぉ)


 馬のお兄さん─────ヒュークがオルトロスの気を引いている間に、ファングが定位置に着く。オルトロスの左側にヒューク、右側にファング。この二人でオルトロスの気を引き、タウルとコウモリのお姉さん─────モルがオルトロスに攻撃する。とは言っても、実際に肉体的ダメージを与えるのはタウルのみで、モルは超音波で相手を怯ませる、サポート役みたいなものだ。



「モル!」



 ファングの掛け声で、モルが超音波を放つ。オルトロスもある程度予想していたのか耳を畳んでいるが、それで音が完全に遮断できるはずもなく、身動きが取れなくなっている。もちろん、その光景を他の獣人が黙って見ているはずはない。

まず攻撃したのは、この中で最も力が強いタウルだ。オルトロスの正面に回ると、苦しそうに下にしている頭に対して、強烈なアッパーを放つ。ノーガードの顎に鋭い拳が突き刺さり、オルトロスの体が一メートルほど宙に浮いた。

隙ができて、ここで攻撃を終わらせるわけもなく、獣人たちは怒涛の追撃を始める。

まずはヒュークが後ろ回し蹴りを放った。時速約六十キロで走れる強靭な脚から放たれた蹴りは、まるで槍のようだ。脚の三分の二以上がオルトロスの体に埋まり、これにはオルトロスもたまらなかったようで口をパクパクと動かしている。



「こっからコイツと根比べだ!!後のことは考えずぶっとばせ!!」



 最後はファングの右ストレートがオルトロスの顔面に突き刺さった。ファングより一回りも二回りも大きいはずのオルトロスがプロペラのように回転しながら吹き飛んでいく。長期戦になればなるほどこちらが不利になるのは目に見えている。体力温存をしている暇はないのだ。


 吹っ飛んでいくオルトロスが地面に着く前にタウルがタックルでまた吹き飛ばし、それをまたヒュークが蹴り技で吹き飛ばし、それをまたファングが力技で吹き飛ばす。側から見ればサッカーのパスをしているように見えるが、パスは相手が受け取りやすいように蹴るのに対し、こっちは後先考えずに思いっきりぶっ飛ばしている。

 全体的に能力値が優れている獣人。特に攻撃力に秀でているライオン種と闘牛種が加わった連携攻撃だ。場合によっては一撃で絶命させるほど重い一撃を全力で撃ち込んでいく。その威力は肉を撃つ鈍い音が遠く離れていても聞こえるほどだ。


 しかしそんな高い攻撃力を誇っていても、オルトロスを倒すには至らない。



「ゴアァアアアアアアアアアアアアアア!!」



 いいようにぶっ飛ばされていたオルトロスだが、遂に堪忍袋の緒が切れたようだった。次にパスを受け取るはずだったファングに向けて爪を立てている前足で攻撃を仕掛ける。さすがにダメージを受けているのか、攻撃の速度は落ちているが攻撃力は変わらない。まともに受ければ上半身と下半身がお別れするか、右半身と左半身が分離するのが目に見えている。



「チッ」



 ファングは攻撃しようとしていた手を止め、回避行動に移る。速度が多少落ちていたためか回避することは難しくなかった。横っ飛びで攻撃落下予測地点から脱出し、着地と同時に再度攻撃を仕掛けるために空中で体勢をある程度整える。



(向こうも無視できないダメージを受けて焦れてやがるなぁ。だが主導権はやらねぇ。このまま押して押して押し続けてやるよぉ)



 即座にまた相手に向かっていくために足に力を込めた。メキメキと筋肉が膨張する音が聞こえ、まだスタミナがあることを確認する。



(まだ俺は死なねぇ。死ぬわけにはいかねぇ。これまで不幸続きだった同胞たちを幸せにするまではよぉ!)



 ニヤリと、オルトロスが笑った。非常に人間臭い、厭らしい笑みだった。それを見たファングは背中に寒気が走った。そして、頭に一つの疑問が生まれる。向こうはダメージを負っているとはいえ、こんなあっさり攻撃を避けられるものだったか、と。

 直後、疑問は解消される。本来ファングに叩き込まれるはずだったオルトロスの腕は下の地面に炸裂し、次の瞬間、地面が割れた。横っ飛びで最低限の回避しかしていなかったファングはその地割れの範囲を逃れることが出来ず、着地に失敗し、体勢を崩す。だが、それはオルトロスも同じ。体勢は決して良いとはいえず、直ぐにこちらに攻撃ができる状況でもない。それを確認したファングは一時離脱しようと体を動かすが、不意に周りの温度がありえないくらい上がっていることに気づいた。


 顔を、上げる。



「—————————————。」



 見えたのは、赤色。オルトロスの口から溢れんばかりに飛び出している赤色だった。ハイラに一度放った火炎放射を、今まさに撃つ瞬間が、ファングの目には映っていた。

そして悟った。オルトロスは攻撃をわざと外したのだ。今度は絶対に当たるように、体勢を崩すために。そして、それに気付かなかった自分を嗤ったのだ。


 ファングの目に映る景色がスローになっていく。



(—————俺は死ぬのかよぉ)



 頭の中に今まで経験してきた記憶が蘇ってくる。小さい頃、自分がガキ大将だったこと。才能を見出され、村で期待されていたこと。村が襲われ、人間たちに同胞を連れていかれたこと。そこで初めて生物を殺したこと。奴隷商に死ぬほど叩かれたこと。同胞が死んでいくのを見せつけられたこと。徐々に徐々に心が壊れているのを自覚したこと。いつか絶対に同胞を救って幸せにすると決意したこと。そして人間に復讐すると誓ったこと。記憶が次々と蘇っては通り過ぎていく。


 視界の端っこに同胞が駆けつけて来ているのが見えた。だが、距離が遠すぎる。絶対に間に合うことはないだろう。しかし、間に合わないのが分かっているにも関わらず、駆けつけようとしているのが、ファングには嬉しかった。そして、自分が死んだ後は同胞もおそらく自分の後を追わせるであろうオルトロスに対して、それと自分に対して怒りを覚えた。


 結局、誰も幸せにすることができなかった。



(チーラに好きって、伝えられなかったなぁ…)



 終わりが、来た。ファングは目を閉じる。何となく、自分を助けようとしている同胞の必死な顔を見たくなかった。最後の景色が、既に不幸続きだった同胞たちの絶望的な顔だなんて嫌だったのだ。



「—————?」



 奇妙な音がした。ジャボジャボと水が湧き出る音が、目の前で発生している。それに、終わりが来ない。意識があるのだ。目を閉じる瞬間には、火炎放射を放とうとしているオルトロスがいたはずなのに。いつまでたっても熱が来ない。恐る恐る目を開けると、そこにはあったのは厭らしい表情をしているオルトロスの顔、ではなかった。

 実際にあるのは、二つの顔だ。一つは焼き焦げて、白目を剥きながら口から白い煙を吐いている顔。もう一つは何が起こったのか分からず、混乱している顔だ。そして地面には、周辺をひたひたにするほどの量の水だ。



「—————は」



 考えたわけではなかった。ただ体が動いのだ。目の前のオルトロスを全力でぶん殴った。困惑していたオルトロスがそれを避けられるはずもなく、10メートル近く吹っ飛んでいく。吹っ飛んでいくのを追いかけながら、頭の中を整理していく。何故、こんな状況になったのか。ちら、と同胞の二人の顔を見る。ありえない、という顔しながらもファングと同じように吹っ飛んでいるオルトロスに向かっている。何故、ありえないという顔をしているのか。何故、地面が水浸しになっていたのか。何故、オルトロスの顔が焼き焦げていたのか。

 なんとなく、何故こうなったのか分かった気がした。今目の前に鏡があったとしたらきっと自分もありえない、という顔をしていた事だろう。それでも良かった。生きられるなら。目の前の敵を倒せるなら。


 こんな状況でも獣人同士の息の合ったコンビネーションは健在だ。オルトロスが地面に着地した瞬間に、タウルが左前足を、ヒュークが右前足を払い、転ばせる。そのまま動かせないようそれぞれの前足を抑えこむ。ファングは焼き焦げていない方、さっきまでは困惑した表情を見せていたが既に切り替えが済んで威嚇しているもう一つの顔の口を強制的に開かせる。吐く息が高温なため、口を掴む手がジリジリと焼けていく。それでも手を離さない。



「小難しいことは後だ!とりあえずこいつをぶち殺す!」

「ブモー!」

「ヒヒン!」



 これまでの状況を分析すると、オルトロスを倒す方法が見えてくる。肉体は強靭。攻撃力の高い獣人達の猛攻でも倒すのは困難。魔法耐性も高く、討伐には軍を動員しなければならないほどだ。知識も高い。相手を追い詰める方法を知っているし、罠にハマった相手を馬鹿にする頭がある。しかし、一つだけ人並みのところがある。火炎放射が発射されず顔が一つ焼けているのを見ると、口内や内臓などの体の内部は普通なのだろう。内部に攻撃するのが攻略法なのだろうが、人間はオルトロスの口を無理矢理開くのは困難を極める。しかし、獣人には出来る。



「クソ貴族、ぶちかませやぁ!!」



 信頼したわけではない。信用したわけではない。ただ、希望を汲み取ってくれると思ったのだ。



「求めるは敵を貫く大槍=大土槍(アースシャベリン)



 オルトロスの体を口から土で作られた槍が貫通した。しばらくビクビクと痙攣したかと思うと、ゆっくりと倒れこみ、絶命した。

オルトロスが焼き焦げた時の補足です。

火炎放射を放とうとした際に間欠泉で口を閉じて、口内で火炎放射が炸裂し丸焦げという寸法です。

本来であればそういった策もオルトロスは理解して避けますが、ハイラが隠れていたのと、ファングが罠にかかって油断したのと、足場が悪かったために当たりました。

上位の魔獣は頭が良いが故に討伐されることがありますが、油断しなかったら負けることはほぼありません。

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