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世の中はどこまでも現実の味  作者: 鬼
2章 少年期=学園生活
70/80

ハイラは幽霊の味

 ああ、いつ以来だろうか。こんな心地がいいと感じたのは。


 閉じていた目をゆっくりと開ける。とは言っても、体にダメージが残っているからか、薄目しか開けられなかった。濃厚な土や草の匂い、木々の葉の間から空がみえるのを見ると、どうやら仰向けに寝ているらしい。ゆっくりと左を向くと、肘から手の甲にかけて水に覆われていた。どうやら誰かが治癒魔法をしてくれているみたいだ。



(心地がいい原因はこれか…)



 他にも感覚的に右足や腹、左肩も水で覆われている。ここでようやく、あたしはオルトロスにやられたことを思い出した。慌てて起きようとすると、まだ傷が癒えていないからか、身体に激痛が走った。あまりの痛みで(うずくま)ろうとして身体を動かしまた激痛を味わう、というサイクルを数回繰り返してしまった。我ながら間抜けな姿だ。そんな時だった、あの声が聞こえてきたのは。



「すいません、治癒魔法は苦手なものでして…。言うのが随分遅いですが、まだ完全に治療が終わってないので動かない方がいいですよ」



 この声は、あたしたちを買った貴族の声だ。返事をしようとするが、うまく口が動かない。



「無理に返事しなくていいですよ。体を休めることに集中していてください」



 そう言われると、あたしは恐怖を感じた。その恐怖は幽霊なんかに対するモノと同じ、言わば未知のモノへの恐怖だ。長年の間、人間はあたし達獣人をストレスの捌け口として乱暴に扱ってきた。言ってしまえば、あたしたちは使い捨ての道具、消耗品なのだ。消耗品を大事にしてどうしようというのか。



「一体…アンタは…何を…企んでるんだい…?」



 あまりの恐怖に、思わず問いかけてしまった。その問いかけすら今の体では負担になるようで、激しくむせてしまった。ゲホゲホと咳き込む度に頭は冷静になっていき、また未知の恐怖に怯えることになる。


 新しく買うのが勿体ないから治すのだろうか。それとも精神を壊したいから永遠に傷つけて治し続けるのだろうか。それとも、生きたまま解剖するために生きるか死ぬかの境界線を探っているのだろうか。考えても答えが出るはずもないが、考えずにはいられない。そうしなければたちまち、恐怖に頭が支配されてしまうから。



「何を企んでるって言われてもなぁ…えーっと」



 獣人は勘の良さと、長い間虐げられたおかげで身に付いた能力がある。それは、人間が嘘をついているかどうかが分かるのだ。おかげ、とは言ったが実際は人間に媚びるために身に付いた能力だ。人間の発言しか判断できないし、正直欲しくなかった。便利ではあるが。



「うーん、君たちを利用したい…から?」



 だが、今回はその能力は必要なかった。疑問符を付けているのだ、普通の人間でも嘘だと分かる。しかし、あたしたちを利用したい、というのが嘘というのはどういうことなのだろうか。あたしたちを利用しない、ということだろうか。



「疑問とか色々あると思いますけど、オルトロスを倒すのが先です。後々疑問とかにもしっかり答えますので今は我慢していてください」



 そう言うと貴族は、あたしを土の壁で覆っていく。それもちょっとやそっとじゃ壊れないように丁寧に、頑丈に、作り上げている。それが終わり次第、苦戦しているファングたちの元へと駆け出していった。貴族が遠ざかったからだろうか、それともしばらくは傷が増えることがなくなった安心感からか、気が緩んでダメージが鮮明に感じられるようになってしまった。元々心身共に休まることなどほとんどなかったのだ。あの貴族がオルトロスを倒すまでの時間はしっかり休めることだろう。そう思うと、急激に眠気が襲ってくる。あたしはそっと、目を閉じた。


 最後に思い浮かんだのは、絶対に倒すと意気込んだ、貴族の顔だった。

めっちゃ更新遅くなってしまって申し訳ありません…

こんな作品をまだ読んでくださっている皆様、これからも長い目で見守っていただけると幸いです

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