獣人は理不尽の味
今回はちょっとショッキングな部分があります
この世界では奴隷制度が商業化している。奴隷になる人は様々で、犯罪を犯して罰金を払えなかった者、孤児で奴隷商人に捕まった者、親に売られた者、等々自業自得と言える者や不運だとしか言いようのない者が奴隷となる。
この世界での奴隷に対する認識は、消耗品だ。奴隷の平均価格はそこまで高くなく、平民でも結構気軽に買える値段なので、とりあえず働かせて使い潰れたら買い替える、というのが一般的な奴隷の使い方となっている。日本に住んでいた俺からすれば、人権の『じ』の字もない扱いに首を傾げるばかりだが、この世界の常識として成立してしまっている為俺には何も出来ない。
勿論、普通に奴隷をお手伝いさんのように扱う人も居ることは居る。のだが、その数は少数。何故かと言えば、商品である奴隷の品質が悪いことが最大の原因だろう。まず、犯罪者は奴隷になる前に暴行を加えられる。窃盗であれば物を盗まれた人から、殺人であれば殺された人の遺族や友人から、強姦ならば性的暴行を受けた人から。罪を犯している為、怪我の手当てはされず、そのまま奴隷になるため働くのが困難である。しかし、購入して健康な状態にするまでにお金が結構な額を消費しなくてはならないので、額としては新しい奴隷を買った方が安上がりのため使い潰しに。孤児は元々あまり良い生活をしていないので犯罪者と同じ理由で使い潰し。親に売られる人はそもそも数が少ないのだ。なので、最も多い犯罪者、孤児の扱いが一般的となってしまっている。
だがこれは、あくまで『表』の奴隷の扱い。『裏』であるスラム街での奴隷の定義はさらに酷いものとなる。表が労働用なのに対して、裏は娯楽用。それもとびっきり趣味の悪い娯楽、言ってしまえば『殺すため』に奴隷を買うのだ。
その原因の一つが、宗教。この世界の宗教は『ダスト教』が最も有名で─────というかこれ以外は何故かまったく普及しない─────その多くの人が信仰させられているこの宗教では、神の次に偉いのが人間とされていて、詳しくは知らないのだが人間の定義が決まっているらしいのだ。スラム街で売っている奴隷は総じて亜人、所謂獣人となっているのだが、その定義に、獣人は含まれていない。なので、この世界でダスト教を信仰している人からすれば、獣人はどう扱ってもよい対象で、ストレス解消の為に使っているみたいだ。
これが、原因の一つであり建前でもある。獣人を殺すために買う最大の理由は、嫉妬からくるものだ。獣人は総じて身体能力が高く、人間よりも遥かに基礎能力が優れている。つまりは、自分より優れた獣人が妬ましく、そして何時しか獣人に支配される日が来るかもしれない、という恐怖心から、あのような扱いをしているのだ。
しかし獣人は能力は高くとも、内面はどちらかと言えば獣寄りで、人間を支配しようだとは思っていないだろう。実際、獣人と共に生きていた時代もあったみたいだし、獣人側から大きないざこざを起こしたこともない。
だがそれでも卑屈に考えてしまうのが人間というものだ。今では、たった一つの宗教で人間は獣人より偉いとされているだけでこの有様だ。現在進行形で獣人の奴隷を見せてもらっているが、ほとんどが何処か怪我をしていたり、病気になっている。
「へっへっへ、どうですかね坊ちゃん。何か気に入ったモノはございませんか?」
カエルをすり潰したような顔をした小太りなおっさんが、猫なで声で俺に話しかけてくる。俺には、こいつが人間だとは到底思えなかった。この建物は相当古いみたいで、床は綺麗ではあるものの所々穴が空いているし、壁もぼろぼろだ。だがそんなことが微塵も気にならなくなるくらい、この建物は腐臭で満たされている。獣人の死体がそこらに転がっているからだ。
一体、どうしたらこんなに残酷なことが出来るのだろうか。確かに、獣人は人間とは見た目が違うが、獣と違ってしっかりと意思を持っているし、人間とほとんど変わらない。それなのに、目の前にいるこの小汚いおっさんはきっと、罪悪感も特に感じずに獣人を殺しているのだろう。そのことがとても、癇に障る。
だからだろうか。
「─────フギャ!?」
気付けば俺はそのおっさんの顔に向かって、金貨の入った袋を叩きつけていた。
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