家族は太陽の味
レミーユとの勝負から早二か月、季節は暖かく過ごしやすい春から、直立不動でも汗が噴き出てくる夏へと変わっていた。この世界にも四季はあるが、気温の変わり方が日本の比ではない。春と秋はあまり日本と気温は変わらないが、夏と冬の気温が極端で、夏は軽々と四十度を超え、冬は平気で氷点下を下回る。なので季節の変わり目には体調を崩す人が多いのだが、今の若い体だと体がうまく対応してくれているのか、体調を崩すことはなかった。変なところで転生を実感した瞬間だった。
学校のほうは夏休みに入り、大体の学生が帰郷中だ。俺も例外ではなく、汗を拭きながら馬車に揺られて領土に向かっている途中だ。他のメンバーも帰郷中のはずだが、ラッツだけは座学の成績が合格点に達していなかったため、補習中である。
馬車に揺られて数時間、ようやく領地へと帰ってきた。馬車の中から外を覗いてみると、枯渇気味の土地とあまり繁盛していないように見える市場が目に入る。これだけ見ればあまり良い場所には見えないが、しっかりとここに居る人の顔を見ていると、活き活きしているのが分かる。父上が長い間行っていた税金の巻き上げなどで一度は破綻しかけていた領土だ。母上に貴族権が渡ってからまだ二年ほどしかたっていないので、これといって明らかな改善は見られないが、確実に良い方向へは向かっているだろう。
領地に入ってから数十分。ようやく俺は屋敷に帰って来た。
「「「お帰りなさいませ、ハイラ坊ちゃま」」」
「うん、ただいま」
屋敷に入ってすぐ、メイドたちからの挨拶。母上がこの屋敷の主になってから使用人は一新し、真面目な人たちばかりになったのは良いのだが、いつまでたってもこの挨拶だけはなれない。十人を軽く超える人数が声を揃えて、しかも大きな声で挨拶してくるのだ。これにビビらない今の貴族たちの神経は一体どうなっているのだろうか。
と、くだらないことを考えつつ、向かうのは母上の部屋。初等部の頃は帰ってくるたびに出迎えてくれていたのだが、居ないということは仕事で忙しいのだろう。なので、挨拶は自分から行くことにした。とは言っても、出迎えがないほど母上は忙しいだろうし、挨拶が出来るかどうかも怪しい所だ。
「あら、誰かしら?どうぞ~」
母上の部屋に着きノックをすると聞きなれた、少し疲れが出ている声で返事が返ってきた。この時になって、挨拶は後の方が良かったのかな?、と考えたが、ノックした後なので手遅れだ。
「ただいま、母上」
意を決して部屋に入り、挨拶をした。が、返事がない。やっぱり仕事の途中だったから怒っているのか?、と恐る恐る顔を上げる。
母上が泣いていた。
「ええええええええええええええ!?ちょ、母上どうなさったのですか!?仕事が泣くほどつらいのですか!?」
「いえ、仕事はそこまでつらくはないけれど、息子の帰りを察せなかったことに対する悔しさの念が沸々と…」
どうやら母上は息子が帰ってくる日にちを分かっていながら、出迎えが出来なかったことに責任を感じているようで、いつもと変わらない表情、口調で涙をぽろぽろと流している。このあと三十分ほどかけて母上をなだめて、自室へと向かっていた。少しヒヤヒヤすることもあったが、やはり家族に迎えられるのは良いことだ。
家族の素晴らしさを実感しながら自室に戻る途中、父上に出会った。母上に貴族権を乗っ取られてからは不貞腐れながら暮らしていると聞いている。まあ、あのがめつい父上のことだ、また色々と金儲けの方法でも考えてながら過ごしていることだろう。
すれ違いざまに会釈をして通り過ぎようとしたその時、声は小さかったが、俺の耳にははっきりとこう聞こえてきた。
「…おかえり」
反射的に後ろを振り向くと、そそくさと逃げるように立ち去って行く父上の背中が見える。
「…やっぱ家族ってのはいいな」
体は熱いしうざったいが、心は暖まっていくこの感覚は、嫌いじゃない。
更新が一か月に二回ほどのペースになりそうです。こんなカタツムリ更新の小説を読んでくれている皆さんには感謝しています




