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世の中はどこまでも現実の味  作者: 鬼
2章 少年期=学園生活
58/80

対レミーユは収穫の味

 戦い始めてから三十分が経過した。依然として、レミーユは牽制を俺に向かって放ち続けている。それなのに、レミーユのマナは底を見せてくれない。


「求メルハ小サキ水ノ球=水球」

「求メルハ小サキ水ノ球=水球」

「求メルハ大キ水ノ球=大水球」


「っ!」


 底を見るどころか、段々と追いつめられている。牽制をうまく使って、詰将棋のように少しずつ、少しずつダメージが蓄積されていく。俺はとにかく走り回って逃げていたので、スタミナも切れかかっていた。喉は焼けるように熱いし、足も乳酸が相当溜まっているのか、少し痙攣している。

 魔法で牽制玉を消せばいいのではないか、と思う奴もいるだろうが、それは出来ない。


「求めるは大き火の玉=大火球!」


 詠唱も少しずつ荒くなってきている。それでも、何とか形を保っている俺の魔法は、レミーユの放った十字架型の大水球に向かっていく。

 大きな火の玉は十字架のど真ん中に突っ込み、威力を弱めながら、レミーユに向かっていった。レミーユの魔法は、十字架型ではなくなったが、四つの水球となって俺に襲いかかる。

 時間がたつにつれて、レミーユの魔法が複雑になっているのだ。核はどこにあるか分からず、魔法をでたらめに撃ってもマナの無駄遣いなだけなのだが、使わなければ避けられない魔法をちょくちょく使われているため、使わざるをえないのだが、使っても結局魔法を消せるわけでもない。これが、俺が足をフルに使って逃げている理由だ。


「頭は使ってないのね…」


 そこまで声は大きくなかったが、その言葉は俺の耳にはっきりと届いた。


(何、頭?頭突きでも使えって?それともなんだ、俺が考えて戦ってないってことか?)


 がっかりしているような、どこか馬鹿にしているような顔を見ると、おそらく後者が正解だろう。

 だが、もし後者が正解なのだとしたら、声を大にして否定したい。俺の戦闘スタイルはトリッキータイプ、頭を使って奇策を考えなければならないのだ。それを言うなら、マナの消費も考えずに牽制を放ちまくっているレミーユの方がよっぽど考えなしだと、俺は思う。


 と、そこまで考えて、ようやくレミーユの不自然さに気付いた。

 何故、こんなにも多くの牽制を行っているのだろうか。確かに、逃げ場を狭くしたり、かすり傷を敵に与えることはできるだろうが、それにしたって多すぎる。これは本当に、牽制なのだろうか。


(いや、牽制はしてるだろう。牽制以外にも目的があるからこんなに魔法を撃ってるのか…。だとすると、おそらく狙っているのは相手の戦闘スタイルの確認とスタミナ切れ。魔法対決になったら負けないって考えてるのか。自信ありすぎだろ)


 そして、俺が頭を使っていない、と言われた理由も分かった。こっちからは相手を探るような戦いをせず、相手の、レミーユの思い通りに事が進んでいたからあんなことを言われた。クロエ会長での勝負の時もそうだ。相手の戦闘スタイルを分析することもせず、相手の得意な戦い方に自分から持って行ってしまえば世話無いだろう。ネクロマンサーとの戦いの時も同様、まったく知らない相手なのに、ガンガン攻めていっても、こちらの戦闘スタイルを暴露するだけで、あまり賢い方法とは思えない。


 だが、目的は達成できた。レミーユと俺の違いに、気付くことができたのだから。


 俺は牽制を避けるためにわざとレミーユから距離を取っていたが、もうその必要もない。それに、魔法に絶対の自信がある、ということは、接近戦は明らかに魔法よりも不得意だろう。わざわざ相手の都合に合わせる奴はいない。

 一気に距離を詰めるために、回るように走るのをやめ、俺はまっすぐ、レミーユの所へと向かう。そして─────レミーユがわらっているのを確認した。


「求メルハ力強キ柱=間欠泉」


 直後、腹部に強い衝撃が走り、俺は宙へと投げ出された。宙に上げられた時に確認したが、地面はどこも水浸しだ。元は魔法だったものなので、これを利用して間欠泉という魔法を使ったのだろう。心なしか、威力が予想以上に強い気がする。このための牽制でもあったのだろう。


 だが、予想の範囲内だ。全身を土でコーティングしておいたから、ダメージは少ない。元々、攻撃は食らうつもりだった。レミーユは俺が考えずに戦っていると思っているので、わざと攻撃を食らっても、油断することはあっても警戒することはないだろう。そこが、今回の勝負を左右した。


「求めるは全てを噛み砕く竜のあぎと=紅口竜牙」


 ドラゴンキラー。

 元々は、龍を討伐するときに使用する魔法で、硬い鱗を破るために、限界まで攻撃力と貫通力を上げた魔法。その魔法も龍の顔を模っており、その姿は美しく、そして禍々しい。


 レミーユは驚いていた。それは俺が魔法を食らった直後に魔法を撃ってきたからなのか、それとも上級魔法を俺が撃ってきたからなのか、はたまたその両方なのか。俺には分からない。


 だが、一つだけ分かることがある。それは、レミーユがこの魔法を避けられないということ。なにか防御魔法を使ったようだが、その魔法はあっけなく水蒸気に変わり、レミーユに当たった。

 水蒸気のせいで良く見えないが、人が倒れているシルエットだけは確認できた。


 そうして俺は、この世界で初めて、強者から白星をもぎ取った。

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