対レミーユは魔法対戦の味
場所は変わって、現在位置は第四訓練場。
この学園には訓練場というものが存在していて、建てられている位置によって、名前が少し変わる。中に備わっている設備は意外と充実していて、魔法の威力を軽減する壁で部屋が出来ていて魔法を遠慮なくぶっ放せる『魔法訓練室』、武器を使用しての打撃や斬撃を数値化してくれる『技量分析室』訓練された魔獣がレベル別に存在し、お互い死なない程度に実戦経験が得られる『対魔獣室』、等々向上心のある学生にとっては、嬉しい設備が盛り沢山の天国のような所だろう。
そんな脳みそまで筋肉で埋め尽くされている人種が喜びそうな施設の一室に、俺とレミーユは居た。その一室とは、所謂コロシアム。古代ローマの円形闘技場に似た─────とは言っても実物を見たことはないが─────その中心に二人して立っていた。
これから行うのは、脳みそまでも筋肉に変えるトレーニング、ではなく勝負事─────試合だ。
「相手に参った、と言わせるか、立てなくしたら勝ちでいいか。別に殺し合うわけでもないし」
「それでいいわ」
軽くストレッチをしながら、レミーユはそう言った。何か言いたそうな目をしているが、おそらくレミーユは何も言ってこないだろう。理由はメンドクサイからだ、間違いない。
だが、何を言いたいかは、何となく分かる。本当にそれがお礼でいいの?あなたでは私に勝てないわ─────そう、目が訴えかけている。
「求めるは小さき火の玉=火球」
「求メルハ小サキ水ノ球=水球」
合図はなかった。ただ、戦いの火蓋を切ったのは同時だった。
俺の放った火球は、いつも通りだ。形は比較的きれいでスピード重視。対してレミーユの放った水球は、随分と不格好だった。形は崩れきって、雪だるまを横に倒したみたいになってしまっている。魔法の形を維持できない人たちは揃って魔法対決だと弱い。
クロエ会長と対等に闘りあったのは真実なのだろうか。本当は、噂に尾びれが付いただけではないだろうか。
そう思ったのも束の間、魔法は接触した。そして、自分の考えが間違えていることも悟った。
俺の火球は横になっている雪だるまの右側と接触。右側だけを消し飛ばし、威力は少し弱まったが軌道は変わらず、まっすぐとレミーユに向かっている。だがそれは、レミーユも同じだった。残った左側の水球が、まっすぐ俺に向かってきている。
俺もレミーユも驚いた。何に驚き、何を狙い、何に気付いたかは、俺もレミーユも同じだろう。
人間が魔法を使う際、マナの絶対量が少ないため、その魔法の核を作り、その周りに妖精が魔力を纏わせて魔法を形成するのが一般的だ。そのため魔法は、核を破壊されれば消滅する。それを利用してクロエ会長戦では、相性の悪い属性でも魔法を相殺することが出来たのだ。しかも、俺の魔法には核が存在しない。俺が保有しているマナは常人のおよそ数百倍、なので核から魔法を作らなくていいのだ(正確には作れない、だが)。そのため俺の魔法に求められるのは、貫通力。核を破壊する前に魔法で負けてしまってはアドバンテージを活かせないため、俺の魔法は螺旋回転している。スピードがあるのはそのためだ。
そしてレミーユもそのことを理解している。そのため、魔法があんな形をしているのだろう。核がある部分とそうでない部分を形作り、核がない方を相手の魔法にぶつける。そうすれば自分の魔法が消える心配もないし、さらに相手の魔法も防げる。良く考えられている。魔法を後出ししたのもそのためだろう。普通は、魔法を丸くするのにも一苦労のはずだ。レミーユはきっと妖精とうまく付き合っていることだろう。
お互いの意図に気付いても、やることは何ら変わらない。
「求めるは大き火の玉=大火球」
放ったのは、火球よりランクの一つ高い魔法。初級魔法ではあるものの、使い勝手が良いのと威力の高さで、高等部になるとこれが頻繁に使われるようになる。
火球より二回りほど大きな火球は、結構なスピードでレミーユに向かっていく。それを目隠しに俺はレミーユへと近づいて行くが、どうやらばれている様だ。
「求メルハ敵ヲ討ツ槍=水槍」
一度、見たことのある魔法だった。親睦会でキラービーを討伐に行ったとき、残党狩りで使われた魔法だ。だが、その時見た魔法とは威力が桁違いなのが分かる。
親睦会の時は、十数本が精々で、形が維持しきれてないものも多かった。だがレミーユの使っている水槍は、優に三十本を超えている。しかも形はすべて綺麗に整っていて、非常に貫通力がありそうだ。
「いけ」
レミーユがそう呟くと、水の槍は一斉に俺へと殺到した。その内の五本ほどは俺の魔法を串刺しにしている。レミーユは俺が核を魔法の魔力の中を自由に動かせると思い込んでいる様で、念のためということで五本使ったのだろう。そのおかげで、この槍は防げそうだ。
「求めるは火の雨=爆雨」
火力よりは、爆発の方に力を入れた爆雨。火の雨は一斉に弾け、水の槍を一掃した。思った以上に、俺にとって属性は関係ないみたいだ。普通に火で水を相殺しちゃってる。
簡単に相殺できるのはいいのだが、これでは埒が明かない。相殺は出来ても、魔法の威力でレミーユに勝つのは難しそうなので接近戦に持っていきたいのだが。
「求メルハ小サキ水ノ球=水球」
「求メルハ小サキ水ノ球=水球」
「求メルハ小サキ水ノ球=水球」
牽制がありえないくらい多い。少しでも近づこうとすると、水が飛んでくるので中々近づくことが出来ないのだ。
その牽制を避けつつ、俺はある事を考えていた。
(こうやって戦ってみると、俺とレミーユの実力は五分五分っぽいな。でも、噂では俺よりレミーユの方が強いみたくなってる。俺とレミーユの違いはなんだ?)
ハイラよりレミーユの方が強い。
その噂は、ユリウスから聞いたものだ。それは事実なのかもしれない。俺はクロエ会長に秒殺された。自分的には結構やれたつもりだが、傍目から見れば、呆気なくやられたように見えるだろう。それに意を唱えるつもりはない。実際、レミーユはクロエ会長と一時間近く戦っていたそうだ。
しかしレミーユとこうして戦ってみれば、実力はほぼ同じ。一体、俺とレミーユの違いは何なのだろうか。その理由を探せなければ、戦った意味がない。
この戦いが長くなることが分かっても、今の俺にはレミーユから放たれる牽制を躱すことしか出来なかった。
間隔が長く空いてしまってすいませんでした




