対ローブは不死身の味
魔法を使ったのは、半ば無意識だった。使った魔法は土。右手全体を固めた土でコーティングして、振り下ろされた剣を受ける。無詠唱だったが、土が得意な属性でないことが幸いして、コーティングされた右手は普段とあまり変わらないように見える。
「っ!?」
生身に見える腕で防がれたことに驚いている隙に、左手の拳も土でコーティング。その石並みの強度を誇る左手で隙だらけの胸部を全力でぶっ叩いた。胸筋で防がれる─────なんてことはなく、パンチは普通に効いた。バキバキバキッ!、という人体から鳴ってはいけない鈍い音を周りに響かせながらローブの男?は吹っ飛び、近くにあった木に衝突。これまた、メキッ!、と鈍い音を体から鳴らして、そして動かなくなった。確実に戦闘不能だ。
そのことを確認してからローブの女の方に向き直ると、ローブの女は俺を称えるように手を鳴らしていた。
「すっご~い。ボウヤ強いわねぇ~」
俺と初めて会った時と変わらず、いや、それ以上に緊張感がない声で俺を褒める。まるで百点を取ってきた息子を褒めるみたいに。そこで女の異常性に気付くべきだった。仲間だったはずの男?がやられているのに無関心な事に、男?にした行いを自分にもされるという考えをまったく持っていない事に、なにより、何故かこの女には負ける気がしない、と思わせる雰囲気に。
「褒めてもらえて嬉しいのですが、あなたもこうはなりたくないですよね?でしたら、ここで何をやっていたか素直に言った方が身のためですよ」
「そうねぇ~、確かに痛そうだったし、殴られたくはないわ。でも、その子もまだまだやる気よ?」
『その子って?』そう聞こうとした瞬間、視線が横にブレた。ブレたのと同時に横っ腹に衝撃が走り、地面になぎ倒される。鈍い痛みに顔をしかめながら目を開けると、そこにいたのはローブを羽織った中性的な男だった。どうやらこいつがタックルしてきたようで、俺は今その男に押し倒されている状態だ。
最初はもう一人仲間がいたのかと思ったが、さっきぶっ飛ばしたローブの男がいないことに気が付いた。そして俺を押し倒している男の胸元に視線を向けると、俺に殴られた跡がはっきりと残っている。水属性の魔法を使って治療したと考えたが、それもないだろう。何故なら、男の胸は五センチほど凹んでいるからだ。
男は馬乗りになり、俺の顔面に拳を放った。何故この男が動いているのかは疑問だが、黙ってこのまま拳を受けてやる義理はない。顔にも同じように土をコーティング、そして右頬で男の拳を受け止めた。当然のように男の指は折れ、男は折れた右手を不思議そうに見つめる。それりゃあ、自分より一回りも二回りも若い男の子の顔を殴って自分の手が折れたら、不思議にも思うだろう。
だが、そのあとの行動には驚いた。なんと今度は左手で殴ってきたのだ。当然、左手の指も折れ、男の両手は使用不能。それにも関わらず、男は俺の顔を殴り続ける。殴っている途中で骨が皮膚を突き破ってしまったのか、俺の顔は既に男の血で真っ赤だ。
しばらく俺はそんな男の奇行に茫然としていたが、血がかかった辺りからその狂気じみた行動に段々恐怖を覚え、ついに耐え切れなくなった俺は、両手に風の魔法を凝縮。それを男の胸の凹みに放った。それを受けた男は五メートルほど宙に浮き、着地に失敗して両足がぽっきりと折れた。それでもまだ、這って俺に向かってくる。そんな行動に、俺は恐怖だけでなく、嫌悪感も抱いた。
そんな時だった、女の歌うような声が聞こえたのは。
「────────────────────」
嫌な予感がした。何故そう思ったのかは分からない。ただ、これから良くないことが起こるというのは確信できた。ゆっくりと女の方に顔を向ける。すると、そこには女が二人立っていた。一人は、ローブを羽織った見慣れた女。
そしてもう一人の女を見て、男の正体が分かった。肋骨を全て折っても動けた訳が、両手を折っても殴れた理由が、足が折れても俺に向かってきた原因が。それを確かめるように、まったく進んでいないが、地面を這っている男の手を見る。血が流れているが、ごく少量ずつだ。生きている人間の骨が皮膚を突き破っていたら、もっと血が流れていてもおかしくない。
そう、生きている人間なら。
何となく、ローブの女がやっていたことが分かったような気がした。分かっても、理解は出来なかった。
「一体何だってんだよぉぉぉぉぉ!!」
ついに俺のキャパシティを振り切った。容量からいらないものを、声と一緒に取り出す様に絶叫。そして、目の前にいる不可解なモノを速くこの世から消したくて、俺は、一目で死んでいるとわ判る─────皮膚が焼き爛れた女に火球を投げつけた。
火球と言っても、いつも使っている下級魔法の火球とは威力は桁違いだ。大きさはソフトボール大だが、その火球は進みながら空気を取り込み、膨らんで、死体に当たる頃には人一人を覆い尽くせる大きさになった。熱も相当高く、火球が通った進路には火の道が出来ている。余熱で落ちてる葉っぱに火が付いたのだ。
そんな威力の高い攻撃を受けて無事でいられるわけもなく、ローブの女の隣にいた死体の女は跡形もなく消し飛んでいた。それで少し冷静になった俺だったが、一足冷静になるのが遅かった。
「ボウヤ、無詠唱で魔法を使えるのね」
直撃ではなかったにしても、かなりの熱を持った球の近くにいたのだ。無傷でいられるはずはないのだが、どこか体に異常があるようには見られない。
緊張感のない声ではなくなっていた。どこか真剣さが窺える、嬉しそうな声だった。それでいて、体の芯にまで響くような、不思議な声。
「さっき言った灰云々は取り消すわ。貴方は、私のモノよ」
その、体の芯にまで届くような声でそう言われ、俺は、体の芯から起こる震えを抑えきることができなかった。
この話はもう少し続きます




